第5話 始まり
目が覚めるとしらない天井。
周りを見ると、負傷者が何人かいた。
どうやら、病室にいるようだ。
「あんちゃん、おきたかい。いったいどうしたらそんな負傷するんだ?魔石が粉々に砕け散ったって聞いたよ」
隣に寝ていたおじさんが話しかけてきた。
「ゴブリンの街に捕まってさ、ひどい目にあったよ。二度とゴメンだね。」
そのとき、自分のポケットになにか挟まっているのに気がつく。
どうやら、手紙のようだった。
手に取ると勝手に浮かび上がり、眼の前で開き始める。
『ケンタよ。ワシじゃ、オオライじゃ。まずは、感謝する。あのままだったら、ワシは一生をあの暗闇で終えたじゃろう。そして、すまない。できる限りのことはしたが、魔石はもうもとに戻ることはないそうじゃ。あの日の顛末を教えよう。ワシはあの莫大な力でゴブリンを一匹残らず駆逐した。若い芽も残さず積んだから、もうあそこであのようなことは起きん。安心してくれていい。アイリスのことが気になるかもしれんが、皆無事に救出された。お前さんも含めてな。
ゴブリンたちが奪った武器、金品、そして討伐報酬はすべてお前さんのものじゃ。好きに使うといい。ワシは久しぶりに魔法を使った反動でもう長くないようじゃ。最後に、外の世界を見られて、感謝しとる。また来世で会おう。』
「あんちゃんといっしょにいたおじいさんのことだが、残念ながら息を引き取ったそうだよ」
「………」
手紙の文字はまるで何もなかったかのように消えていった。
そして紙はまるで役目を終えたかのように燃え尽きる。
「大切な人だったのか?」
「いや、一日程度の付き合いだ」
そう、たかが一日の付き合い。
それでも、胸の何処かに何かがつっかえた気がした。
病室を出るとここが教会のような場所だということにきがつく。
シスターが俺に気がつくと駆け寄って来た。
「もう動いて大丈夫なの?ちょっと傷、診させてもらうね」
シスターの手の辺りに光が集まって俺の胸に当てられる。
ちょっとドキドキしてしまった。
「うん。大丈夫そうね。もう魔法を使うことはできないから、気をつけてね。それと、背中の傷。治っても跡は残るから、しばらく安静にね。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「それと、はいこれ。」
なにかカードのようなものを渡される。
「なんですかこれは」
「あなたの通帳よ。身分証でもあるから、なくさないでね。あなたと一緒にいたおじいさんが登録してくれていたわ。外に出て道を真っ直ぐに行くと大通りに出るわ。そこを右に真っ直ぐ行くと銀行よ。みたところ、この辺出身じゃないでしょう?」
「ああ、ありがとうございます。」
オオライ爺さんが残してくれたもの。
きっとこれからの人生で役に立つだろう。
神秘的な森の道を抜け、大通りが見えてきた。
千差万別な人々が行き来し、まさに異世界という感じがした。
リザードマン、エルフ、獣人、竜車、人間、みたことない食べ物、武器、なんでもあった。
この大通りは大きな商店街のようだ。
沢山の人が通り、沢山の人が色々なものを買うための場所。
俺は周りをキョロキョロ見ながら銀行へと向かう。
宿、食事処、武器屋、防具屋、奴隷市…
ほう、奴隷市があるのか。
お金そこそこあるなら奴隷を買うのもいい考えか。
奴隷に戦闘させたり、家事をさせたりすれば俺は何もしなくてすむ。
もしかしたらムフフなことも…
そんなことを考えていると銀行にたどり着いた。
受付に話しかける。
「はい、身分証を提示してください。」
「これでいいですか?」
俺はもらった身分証を差し出す。
「ケンタ様ですね。預け入れですか?払い出しですか?」
「払い出しで」
「いくら引き出しましょうか」
「えっと、俺っていくらもってますか?」
受付は少し目を丸くした。
「お客様はいま、9182034ゴールド持っています。いくら引き出しますか?」
「えっと、100Gってどれくらいですか?」
「すみません、質問の意味が……」
「100Gで何が買えますか?」
受付が驚いたような顔でこちらを見てくる。
質問の意図を探っているようだ。
「……100Gでしたら、買えてもリンゴ一個でしょう。」
この世界にもリンゴがあるんだ!
だとすると、100Gは日本円で300円くらいってことか…?
でも、ここでのリンゴの価値がわからないし…
「だったら、182034G引き出してください。」
「わかりました。少々お待ちください。」
空中に空間が開き、そこから袋に硬貨が詰められる。
「こちらでございます。どうぞ、お確かめください。」
「あ、ありがとうございます。」
中を見ると、金貨18枚、銀貨2枚、銅貨34枚が入っていた。つまり、金貨が万、銀貨が千、銅貨が1の位ということだろう。
さてまずはどこに行こうか。
「お腹すいたな。ご飯たべるか。」
腹が減っては戦は出来ぬ。
来たるべきその時のために、俺は食事をすることにした。
どこにしようか。
色々な見たことのない料理が並ぶ中、見たことある料理が見えた。
あれは…
「焼き鳥だ」
見たことのない料理が並ぶ中、やっぱり見覚えのある料理というものは安心を覚える。
「いや、でもせっかく異世界に来たんだから、チャレンジしないとな」
俺は隣の店に目をつける。
多くの人が並んでいるということは、当然美味しいのだろう。
思い返せば、ここ2日ほど食事をしていない。
空腹を通り越して腹があまり空いているとは感じていなかったが、よく考えたら俺はかなりの限界だったのだろう。
思い出すとだんだん、お腹が空いてきた。
「おまたせしました。ご注文は何になさいますか?」
「えっと、おすすめで」
「でしたら、ランチセットにいたしますね。こちらの席にお座りください。」
この辺のルールはもとの世界と変わらなくて安心した。
しばらくまっていると、美味しそうな匂いを漂わせ、食事が到着した。
ホッカホカの芋、それに肉料理とサラダ。
俺は夢中で食べ尽くした。
今まで食べなかった反動で、取り返すかのように食べた。
水を飲み、満腹で腹をさする。
「ゲップ。ごちそうさま。」
「お値段は400Gとなります。」
俺は銀貨1枚を差し出す。
「1000Gですね。お釣りは600Gです。」
そう言われて、小さい銀貨6枚を渡された。
どうやら、小銀貨というらしい。100円玉と同じ扱いのようだ。
「へえー、ごちそうさまでした」
そう言って店の外へ出る。
並んだかいがあった。そう思えた。
でもやっぱり…
「米が食べたいな…」
さらに言うと、母の料理が食べたい。
母は元気にやっているだろうか。
いま、辛い思いをさせていないだろうか。
最近、あまり喋らなかったな。
「帰りたい……帰りたいよ…」
少し泣きそうになりながら、幸せな思い出をおもいだしてしまう。
『魔王を倒したら褒美にどんな願いでも叶えましょう。』
「決めた。俺、魔王を倒して家に帰る。」
俺は固く決心した。
そのためにまずは、仲間を集めないと。
俺は、奴隷市の前に立っていた。




