第4話 出口
「ん。ああ」
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
暗闇の中、一瞬家にいるのかと錯覚したが、明らかに床の感触が違った。
ゴツゴツした岩。柔らかさなんてまったくない。
眠るには相当不適切だろう。
でも、いまはここで眠るしかない。
これが現実であるということを嫌というほど思い知らせてくれる。
「ああ、そうだった。」
昨日の最悪のゴブリンを思い出す。
いや、思い出せ。
最悪なことばっかじゃなかったはずだ。
幼稚園児は助けられた。
そんで、異世界に来て人ともであえた。
何もかもが最悪なんてことはないはずだ。
「おはよう、爺さん」
ほかのみんなは半分ほど眠っていた。
ずっと暗闇にいるから昼夜感覚が鈍くなるらしい。アイリスも眠っている。
「おお、ケンタか。話したいと思っとたんじゃ」
「俺もだ」
「お前さん、いったいどこから来たんじゃ?見たところ、この辺の生まれではなかろう。」
「ああ、俺はここよりずっと東の国からやってきたんだ。ジパングっていう国からはるばるね」
「ふーむ、ワシの記憶ではそんな記憶ないのじゃが。ワシがここに何年もいる間に、新しく国でもできたのかのぉ?」
「爺さん、騙されてるぜ。ワタシはそんな国きいたことない」
「うーんこれについてはうまく説明できそうにないな。そういえば、爺さん名前は?」
「ワシの名前はオオライじゃ。まあ、覚えんくってもよい。ほんの数週間の関係じゃろうから」
「シンプルに余命宣告してきたぞこの爺さん!」
「おっと、気が付かんかったわい。皆、数週間、早ければ数日で旅立っていったからのお」
「爺さんはなんで食べられてないんだ?」
「ワシがまずそうだからじゃろう。昔はこれでも、大魔法使いじゃったんじゃが、野宿している間におそわれてのお。…仲間に置いていかれたのじゃ。囮としてな。そこから長い月日、運よく食べられることはなかった。」
「オオライ爺さんが言っていた、失敗に終わった脱出について教えてほしい。もしかしたら、突破口はそこにあるかもしれない」
「おまえさんはまだ諦めとらんのじゃな。現実がよく見えてないようじゃから教えてやろう。まずな、ゴブリンどもは魔法が使えないがワシらよりも筋力がある。そして、今では外でそこそこ大きな街を築いておる。もしワシらがいっぽでもこの食料庫を出てみろ。街にいる数千ものゴブリンが、狂ったようにおそいかかるぞ。それも、なりふり構わずな。奴らは弓も使う。旅人から奪った武器も使う。脱出はむりじゃ。一度出ればそれはもう無惨に食い殺されるぞ」
「ということは爺さん、この食料庫を抜け出すことはできたんだな?」
「…そうじゃ。だが、そこまでじゃった。ワシがおもっているよりもゴブリンはずっと早く増殖した。そのせいで、多くの命が無駄になった。だからワシは、おまえたちにはできるだけ長く生きててもらいたいんじゃ。」
「爺さんはどうして魔法が使えないんだ?」
「体の魔石を壊されてしもうての、それっきりじゃ。もう元通りになることはない。」
「体の魔石…爺さん、もしかしたら、脱出できるかもしれない。なあ、人の体には魔石があるのか?」
「そんな当たり前のこと、どうして聞くのじゃ?当然、あるに決まっておろう。すべての生き物は体内の魔石から魔法を使うのじゃ」
「他人の魔石を使うことってできるか?」
「出来んことはないが、相当な技術が必要じゃ。それに、使えば魔力が調和できずに魔石が傷つく。二度と魔法が使えんくなるぞ。ワシのようにな」
「俺のの魔石、使ってくれ。俺にもあるんだろ?」
「…!なんじゃこの魔石の質は。今までに見たことのないレベルで最高じゃ。」
「アイリス、起きてくれ。出られるかもしれない」
「ん、んん。お父さん…?」
その瞬間、俺は何かを悟った。
きっとこの少女は、父とこの場所にきて、そして殺されたのだ。
そして今はただ死をまつだけの最悪な日々。
それでも、俺のことを気にかけてくれた。
そんな優しい子が、こんなゴミみたいな場所で死んではいけない。
絶対に死ぬべきじゃないのだ。
「聞いてくれ。俺はアイリスと出会ってまだ数刻しか経っていない。でも、アイリスがすごく大切なものを失って、死のうとしているのはわかる。でも、俺は知っている。君のことを知っている」
「……私の何を知っているの!?偽善はやめて。生きづらいだけよ。もう私は死を待つだけでいい。」
「俺は、君が優しいってことを知っている。出会って数時間だけど、知っている。そんな素敵な君がこんなところで死のうだなんて、絶対にあってはいけない!」
「何を、言っているの!?」
「大魔法使いさんよ。おれの魔石つかえるんだろ?使ってくれ。どうせあっても宝の持ち腐れってやつさ」
「その宝の持ち腐れが何かはわからんが、わかった。…………今までの後悔を精算するときが来たようじゃ。お前さんの魔石、ワシが責任持って使おう。ひどい痛みに襲われるじゃろうが、頑張って受け入れるんじゃ。ワシのなけなしの魔力と調和するのじゃ」
今までにみたことのない光が輝き、光が天まで切り裂いた。
転生者に与えられた魔力。それをいま無理やりオオライ爺さんが使おうとしている。
その力は凄まじく、世界を揺るがすほどだった。
そこから先の記憶はない。
気がついたらすべてが終わって、すべてが方ついていた。
俺の魔石は壊れたそうだが、オオライ爺さんがすべてのゴブリンを殲滅したらしい。
実は有名な賢者様だったそうだ。
残念なことに殲滅し終えた後、やり遂げたかのように逝ってしまったのだが。
この世界は、正直いい世界とは言えない。
でも、絶対に負けたくないと、心の隅で固く決心した。




