第3話 初めての人間
「そのニンゲンを食料庫に連れていけ。」
ーーーゴブリン二匹に両腕を抱えられ、されるがまま俺は地下へと連れて行かれた。
そして投げ飛ばされ壁に体を打ちつける。
「ぐえっぐええーー!!」
「ぐぉっえっえっえ」
よくわからない言葉を投げかけ、ゴブリンたちはまたどこかへ歩いていった。
ぎいいいいという音とともに入口の扉が閉められた。
光がない。真っ暗。
背中の出血で、頭がもうぼんやりとする。
思い出すのは、後悔ばかりだ。
もう取り返しのつかない。
ここで死ぬのを待つしかないのか。
舌打ちをする。
どうしようもない宛先の見つからない怒りが込み上げてくる。
同時に、惨めさが心を蝕んだ。
クソだ。
俺が転生してまで得たのは、クソみたいな人生。
死を待つだけならいっそ自分でーーー
「だ、大丈夫ですか?」
声をかけられハッとする。
泣き腫らした顔を見られたかと焦って涙を拭う。
だが、辺りを見渡しても暗くて何も見えない。
「大丈夫じゃないです。あなたは?」
「いま明かりをつけますね。『光よ灯れ』」
いきなり光源が現れて、目を細める。
眼の前にいたのは、美少女だった。
そしてその後ろにも7人ほどいる。
そのほとんどが女性だった。中には子どももいる。かなりの年と思われる老人もいた。
「あ、えと…」
いきなりの出来事にコミュ障が発動する。
何を言うべきかわからなくて。
「いま傷を治療します。どこを怪我しましたか?」
「あ、ああ。背中を剥いただけだよ」
中には体の一部が欠けている人もいた。
俺の背中にはもう感覚がなかった。
アドレナリンがなんとか意識を繋いでくれている。
「こんなに擦りむいたんですね。」
彼女が手をかざすと、痛みが和らぐ感覚がした。
「気休めにしかなりませんが。まずは自己紹介をしましょう。私はアイリス。あなたは?」
「俺はケンタ。ありがとうアイリス」
その言葉と同時に、アドレナリンが切れたのかひどい痛みが再び背中を支配した。
「男が来るなんて珍しいのぉ。ワシ意外で初めてじゃ。」
「あんたは…?」
「ワシはこの中の一番の古株じゃ。皆、食べられるのを待っている。ワシは今までに261人の人間を見送った。その全員、覚えておる。」
「見送ったって…食べられたってのか!?」
「そうじゃ。皆ゴブリンに食べられてしもうた」
「…そんな!ここから抜け出す方法はないのか?」
「…皆失敗に終わった。ワシはこの通り、両足がついとらんから置いていかれたが、次の日には粗奴らの死体を見せられたよ。……ゴブリンは残虐じゃ。そしてああ見えて賢い。底辺の個体でも子ども程度の知能は備えておる。」
「じゃあみんなは、ただ死を待っているっていうのか?」
周りを見渡すと、皆黙った。
重い沈黙が流れる。
子どもでさえ不安そうな顔で何も言えなかった。
「…っ!、なあ、どうにか抜け出す方法を考えようぜ。な?」
「ケンタさん。私たちも、そうしたいのは山々ですが、もう諦めがついたんです。だから大丈夫です。」
「アイリス、さん。どうして諦めるの?だってほら、小さい子だっているんだぜ?俺等だってまだまだ生きる権利があるとーーー」
「もういいんです。私たちは、もう十分失いました。だから、もういいんです。」
アイリスは笑っていた。でも、泣いてるようにも見えた。
ここには女ばかりがいる。
おそらく大半の男はここに連れてこられる前に殺されてしまったのだろう。
「………何があったか、聞いてもいい、?」
「…話す気はありません。」
明かりが再び消え、また暗闇が戻ってきた。
俺はただ暗闇の中で、考えることしかできなかった。
どうやってここから脱出するのかを。
ーーー絶対にここから脱出してみせる。




