第2話 初めての異世界
気がつくと俺は、見知らぬ森にいた。
木々が鬱蒼としていて、木々の根には苔が生い茂っている。
どう考えても、人が立ち入るような場所ではないのは明らかだった。
「あのクソ女神、スタート位置絶対間違えてるだろ!」
普通こういうのはもっと手厚く教えてもらえるものじゃないのか。
俺を召喚した美少女とかが説明してくれたり、もっとこう可愛げのある女神様が手厚くサポートしてくれるもんじゃないのか。
半ギレになりながらもなんとか心を落ち着かせる。
まず最初にやるのは…
「ステータスオープン!!」
眼の前にゲームのような画面が表示されるわけでもなく、ただ静寂が帰ってきた。
いや、正確には、草をかき分けてこちらに近づく音が聞こえてきた。
「な、何だ…?」
草をかき分けて出てきたのは、ファンタジーで言うところの、ゴブリンだ。
大きさは俺の半分ほど。ただ、その発達した足と腕の筋肉が小さいながらもその存在感を引き立てている。
「なんだゴブリンか。警戒して損したぜ。俺にあったのが運の尽き!」
俺は自分の半分ほどのその生き物にキックをお見舞いする。
しかし、ゴブリンはあっさりと躱すと、俺の足をしっかりと掴んだ。
「うわあぁ!やめろお!!」
あっさりと俺の重心を崩し、引きずられる。
「やめろ!やめろって!!痛い痛い痛い痛い!!!」
どれだけ抵抗しようとしてもその鍛え上げられた野生の筋肉はびくともしない。
こいつ、俺をどこへ連れて行こうとしているんだ…?
服が破け背中が直接地面に擦れる。
「あ゙ぁ゙あああああああ!!!」
俺が叫ぶとゴブリンは邪悪な笑みを浮かべてこちらを見て来る。
こいつ、俺で遊んでやがる。
ふざけるな。どうして俺がこんな目に。
手を伸ばし木の根を掴むが、ゴブリンの力には叶わなかった。
体が引きちぎれそうなほど容赦なくゴブリンは引っ張ってくる。
俺が抵抗するのを楽しんでいる。泣きそうになりながら、俺はすこしでも痛くないように体の体制を変えることしかできなかった。
野を超え坂を越え、しばらくすると街が見えてきた。
街と言うには古いというか、森の中に築かれた国のようだった。
見るとたくさんのゴブリンが暮らしている。
どうやら俺は新鮮な餌としてゴブリンの国に連れて行かれたようだ。
「っ…!はなせぇ!!あ゙ああ!!!」
想像したくない未来が頭に浮かぶ。
そんなの、到底許容できない。こんなの現実じゃない。
これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ。
なんなんだよこの異世界召喚は!テンプレートはどうしたんだ!!
ふざけるなよ、あのクソ女神。俺はガキを救ってやったんだぞ!
なにか…なにか特別な力起きろ!!!
手をかざしてみるが何も起きない。
街の道を引きずられる。
住民であろうゴブリンたちが、たくさんよって来て俺のことを見て嗤う。
大きな顎、鋭い前歯。その歯の隙間からよだれが垂れていた。
やめろ、そんな目で俺を見るな。
何匹かが噛みつこうとしてきて必死に避ける。
惨め。
絶望。
それだけが俺の中に渦巻いていた。
階段を登り、石造りの宮殿に出た。
おそらく王であろう自分よりも5倍ほどデカいゴブリンが俺のことを見下ろす。
俺を運んできたゴブリンが喋った。
「グエッきぃー!ぐえっぐえっぇ!!」
「ほう…これは上物だな。褒美をやろう。」
このゴブリン、人の言葉を…
キングが俺を引いてきたゴブリンに指を突き立てる。
血が流れ、そして俺を引いてきたゴブリンは恍惚とした表情で階段を降りていった。
キングが俺の方をゆっくりと見下ろす。
「い、命だけは助けてください!お願いです!何でもします!!だからぁっ」
必死だった。
何が何でも死にたくなかった。
苦しいのは嫌だ。辛いのは嫌だ。
おれが求めていたのは楽して強くなって、みんなから称賛される、どんなことだってできる、そんな異世界生活。
なのに、どうしてこんなに辛いんだ。
「安心したまえ。すぐには殺さぬ。」
一瞬だけ、俺は安堵する。
「男ならすぐに殺してしまうが、お前は格段に美味そうだ。特別に妻のパーティーのディナーにしてやろう。」
ゴブリンは紳士的に、残虐な笑みを浮かべて俺を見ていた。
神様、これは罰なのですか?
俺が神様に敬意を払わなかった、たったそれだけでこんな罰なのですか?
あんまりじゃないでしょうか。
ーーーこのときの俺はまだ知らなかった。これが、ほんの序章に過ぎなかったということを。




