第21話 うさぎとかめ
「ケンタ殿、今日はもう走ったのか?」
「やべ、もうこんな時間か。急がないと夕飯までに間に合わない。行ってくる!」
「何をするんですか?」
エドが聞いてきた。
「体力作りに走りにいくんだ。」
「エドさんも走ってきたらどうですか?山頂の景色は絶景ですよ!」
「そうなんですか?じゃあ、僕も行きます。」
そんなことで、エドと一緒に走ることになった。
水と昼食をバッグに入れ、ギルドを出る。
エドは隣を並走していた。
「ケンタさんとハルさんって、どういう関係なんですか?」
「どうって、大切な仲間だよ。」
「好きなんですか?どうなんですか!?」
「そりゃお前、好きかって聞かれたら…、す、好きだよ。」
「そうなんですか……。じゃあ、僕と勝負してください。」
「勝負…?なんでまた…もしかしてエドもハルのこと…!?」
「なんでもです!ルールは、先に山頂についたほうの勝ちでどうですか?」
「いいぜ。絶対に負けねぇ。俺のほうがこの山を走り慣れてんだ」
「じゃあ、行きますよ。せーので始めましょう。」
俺とエドは止まり、準備運動をする。
顔を見合わせ、負けられない戦いが今始まる。
「せーの!」
二人は走り出した。
エドはすごいスピードで山を駆け上る。
「はやッ!?」
俺は必死で食らいつく。
なんとかすぐ後ろを張り付くようについて行った。
『風纏・俊』
エドがそう唱えると、彼はさらに速度をあげていく。
「そんなんアリかよ!?」
気づけば俺は立ち止まり、息を切らしていた。
一気に走ったせいで、ペースを乱された。
落ち着け、距離はまだまだある。
とにかくゴールすることだけを考えるんだ。
俺は見えなくなったエドを一度、頭から消すように走り出した。
ーーー「はあ、はあ、はあ。」
ああは言ったものの、僕も体力は少ない方だ。
どちらかといえば短距離走のほうが得意。
でも、負けるつもりはなかった。
道中看板がいくつか現れ、思った以上にこの山道が長いことに気がつく。
すぐに速度を少し緩め、走る。
勝つのは僕だ。
……そこから1時間ほど走っただろうか。
標識は既に僕が10分の9を走ったことを指し示す。
目視で見た以上にこの山は大きい。
息が絶え絶えで、心臓がうるさかった。
こんななか走れるわけがない。
魔力ももうとっくに尽きて、僕は座り込む。
あの男のことだ。これだけの距離走りきれずに諦めるだろう。
少しだけ、休憩。
息を整えるだけだ。
「はあ、はあ、はあ」
…少しだけ……少しだけ……
俺はただ走り続けた。
途中何度か休憩をしたが、いつもと違い最小限に収める。
フォームもできるだけ正しい姿勢で、手をふり息をした。
エドのことは考えない。
ただ走ることだけが大切だ。
あれ、いつから俺の異世界転生はただ走るだけになったのだろうか。
無駄な思考はしない。
この思考のリソースがもったいない。
ただ無我夢中に走り続ける。
「ッ…!」
2時間ほど走っただろうか。
エドが座っているのが見えた。
心臓が痛い。
通り過ぎようとして、足が止まる。
大丈夫だろうか。
心配になって確認すると、意識を失っていた。
具合が悪そうだ。
そういえばエドは水を持っていなかった。
脱水症かもしれない。
肩を強く叩き、意識が戻るか確認する。
「大丈夫か!?」
「う…うう……ケンタさん…?」
「よかった、意識は戻ったか。水飲むか?」
「……あ、ありがとうございます。」
「…少し日影で休んで、落ち着いたら今日はもう下山しよう。」
暫く休んで、俺達は下山した。
エドの体を背中に背負い、俺は歩く。
小5の体だ。驚くほど軽かった。
「勝負は僕の負けです…ご迷惑かけてすみません」
「……いや、今日の試合は無効試合だ。ゴールしてないからな。エドもハルも出来すぎてるんだよ。まだガキのくせに、しっかりしすぎだよ。俺が小5の頃なんて、はなほじって下ネタ言って笑ってたよ。小5なんてそんなもんだ。あんま無理すんな。ガキはガキらしくしてればいい。」
「僕、ガキじゃないもん。」
そこから暫く無言だった。
「汗臭い」
「下ろすよ!?」
さすがに腰がと足が痛くなってきたなーなんて思っていると、寝息を立て始めた。
ふざけるな!という思いもあったが、ガキらしくしてろと言った手前起こすこともできない。
俺はそのままギルドまで帰った。




