第20話 劣
俺よりもずいぶん小さい子が、ギルドのドアをノックした。
10歳と聞いて衝撃だった。
元の世界でいうと、まだ小学5,6年生だ。
今回ばかりは流石に早すぎるのではないかという思いのほうが強い。
そして、話しておかないと行けないというのは、いまの状態のことである。
現状、俺は魔物に監視され追われた経験があるが、俺の見立てでは、俺が転生者であることに関係しているのではないかと思っている。突如としてここらに生息しない魔物が現れてギルドを襲ったのだ。
自然発生ではないことは明らかである。
そしてパールだが、彼もまた事情を抱えている。
パールはかつてギルドメンバーだったアンネに執着され、つい先日嫌がらせを受けた。
嫌がらせというレベルではない。度が過ぎている。
そんな事情を隠したまま、手をこまねいてどうぞギルドメンバーになってくださいというのは、流石にいけないことだと俺は考える。
それに、ハルにもいつか伝えておかないといけない。
だから、今伝える。
「伝えなきゃいけないことっていうのが、2つあるんだ。まず魔物に襲われる可能性があるっていること。昨日の魔物の襲撃、俺、実は心当たりがあるんだ。魔物は俺を狙っているのかもしれない。だから、俺がいるこのギルドは危険な可能性がある。」
「ケンタさん、初めて聞きました。その、心当たりっていうのはなんですか?」
さて、どう回答しようか。
ここで本当のこと、『実は異世界から召喚された転生者だから魔物に狙われているのかもしれない』というのは、正直実力が伴わなさすぎて相手にされない可能性が高い。
嘘をついた場合は、もしもこの俺が狙われているという考え自体が間違っていた場合、嘘をついたのがバレる可能性がある。
俺が出した答えは。
「実は俺、女神に合ったことがあるんだ。信じてもらえないかもしれないけど、その時に言われたんだ。『魔王を倒すことがあなたの使命です』って。無関係だとは思えない。」
まだギリギリ信じられそうな事実の一部だけを俺は言葉にした。
わかりやすいように嘘も交える。
正直心が痛まないわけではないが、いまはこの回答が最善な気がした。
もっとも、この話でも信じてもらえるかわからないが。
「にわかには信じがたい話だが…、ここで嘘をつくことに意味はない。私はケンタ殿を信じよう」
「話の真偽は一旦置いておいて、もう一つはなんですか?」
「パール、話してくれるか?」
「ああ。私の今の境遇を話そう。エド、だったか?私の名前はしってるか?」
「いえ、すみません。知らないです。」
「そうか。どう説明しようか。私の世間からの評価は、残念なことにとても悪い。それこそ、度が過ぎた嫌がらせを受けるほどにな。私の周りにも危険が及ぶ。先日も、ハル殿が怪我を負った。本当にすまない。」
パールは不甲斐ないといった顔で、拳を固く握りしめていた。
「責任は俺にある。本当にゴメン」
「いえ、気にしないでください!わたしは大丈夫です。」
元気に振る舞う彼女を見ていると、こっちまで勇気が湧いてくる。
すごくいい子だ。だからこそ、これ以上迷惑をかけたくないという思いがあふれる。
「話を戻しましょう。エドさん。これまでの話を聞いて、それでもギルドに入りたいですか?」
「入りたいです!おばあちゃんが活躍したギルドで、たくさんの冒険をしたいです!」
「わかりました。その、親の許可はもらいましたか?」
「それは…その。親には内緒で…」
「そうですか…じゃあ、今日は仮登録だけにしておきます。12歳以下の人は、親から許可を取らないと、ギルド登録はできない決まりになっています。次来るときまでに親から許可をもらってください。」
「……わかりました。」
「それと、身分証も持ってきてください。本登録には身分証が必要です。説明は以上です。じゃあ、仮登録を済ませておきますね!」
ハルは立ち上がるとなに受付まで歩いてゆき、何やら操作をする。
「仮登録をしておきました。それでは、力試し、していきませんか?」
「やります!」
勢いよく答えるエドに、ハルは嬉しそうに微笑んだ。
もしかして、俺も戦うのか…?
「わたしが審判を務めます!まず一回戦目、エドvsケンタです!ルールは相手が負けを認める、武器を失う、場外に出た場合に勝利とします!それでは用意…スタート!!」
俺は木刀を構えエドの前に立った。
「流石に小5のガキには負けないぜ!」
「何を言っているかわからないですけど、僕のことを舐めていると痛い目見ますよ。」
『風纏』
エドがそう言うと、辺りに風が吹き付けた。
しかし、俺から見ると何も変わっていない。
名前からして風を纏ったのだろうか。
「うおおおおお!」
俺は木刀を振る。
前回とは違い、力任せな一撃ではない。
体全体を意識して、テニスやバドミントンのように、当たる瞬間だけ力を入れる。
しかし見えない風圧が木刀を押し返し、俺はバランスを崩したところに剣を突きつけられた。
「ま、まいった。」
「この人、本当にここのギルドの人なんですか…?」
「あ、ああ。Fランクだけど」
「ケンタさんもうちょっと頑張ってください!」
「うう…」
こんな小学生にも劣るのか俺は。
さすがにショックで立ち尽くす。
そんな俺に構わず、次はパールの番だ。
「私の番か…」
「それでは、スタート!」
エドといい感じの勝負を醸し出しつつ、圧倒するパールを横目に考える。
俺の努力は無駄だったのだろうか。
魔法も祝福もなしに、この世界で戦って行けるのだろうか。
……やっぱり、俺一人じゃ無理なのかな?
いっそのこと、奴隷たちで軍隊でもつくるか?
いや、まだ諦めるには早すぎる。
たった数日の努力で、この世界の人たちを抜かせるわけがないのだ。
さて、今後の展開はどうしようか。
パールの洗練された戦いを見ながら、俺はただ考えを巡らせた。




