第19話 憧れ
「ごめんくださーい」
僕はその扉をノックする。
おばあちゃんがよく昔話で聞かせてくれたギルド。
僕はそのギルドの前に立っていた。
なるべく余裕をもってギルドに到着しようと思っていたところ、はやくつきすぎたようだ。
時の歌ギルド。
本当にここであってるのだろうか。
窓は血だらけだし、ボロいし、壁に焦げ目と穴が出来ている。
人がいるのかも疑わしい。
おばあちゃんのいっていた栄光とはかけ離れた姿だった。
「うう、ギルド間違えちゃったかな…」
そんなことを思ってオドオドしていると、扉が開く。
「こんな朝早くに誰かと思ったら、子どもじゃないか。要件は何だ。」
出てきたのは鍛え抜かれた体に整った容姿、背中に背負う槍がよく似合う男だった。
その迫力に圧倒され、やっぱりここのギルドだと確信する。
「あの、時の歌ギルドってここですか?」
「いかにも。ここは時の歌ギルドだ。それで、要件は?」
「えっと、その、このギルドに入りたくて来ました。」
「お前のような小童には早すぎる。大人しく家に帰ることだ。」
「どうしてもここのギルドに入りたいんです!」
「……話だけでも聞いてやる。入れ」
扉が開き、中に連れられる。
中にはものすごい惨劇があったかのように血が飛び散ったあとがある。
「うおッ!?ちょ、パール、まだ着替えてるって」
「知らん。客室で着替えろ。」
中には半裸の変な姿の男がいた。
体は全くと言っていいほど鍛えられておらず、見るからに弱そうだ。
それとも、実はすごい実力をもつ魔法使いとか…?
おばあちゃんが言っていた話だと、今ではもうみんなおじいちゃんおばあちゃんになっているはずだが、意外にもいたのは若い男二人だ。
「そいつ誰?俺、なんかしたほうがいい?」
「ギルドに入りたいそうだ。ハルを連れて来てくれ。」
「マジか!わかった連れてくる。」
「忙しない奴だ。……小童、いつまで立っている。そこに座れ。」
言われるがまま僕は椅子に腰掛けた。
あいにく、椅子は血で染まっていて、既に乾いているはずなのになぜだか鳥肌が立つ。
ここでやっていけるかな…?
俺はパールに言われ急いでハルのいる寝室へと向かう。
少し緊張しながらドアをノックした。
「はーい。」
どうやら既におきているようだ。
俺なんて早く起きようと思っていたのに、目覚まし時計がないから爆眠してパールに起こされる始末。
この世界の人はすごいなぁ…
「お客さんだよ~!ギルドに入りたいって言ってる」
「本当!?ちょっと待っててください。すぐに行きます!」
ドタバタ音が聞こえてハルが出てきた。
足をけがしているのでドタバタ音は心配になるが、ちゃんと松葉杖をついて出てくる。
俺はできるだけ階段を降りるのをサポートした。
下の階に降り、様子を見た瞬間、ハルの足が早くなる。
「ちょっと!?客人をどんな席に座らせてるんですか!?」
血まみれの席に血まみれのテーブル。
「このような小童に与える席などない。」
パールの頭に松葉杖がクリーンヒットした。
依然として、なんともないような顔をしているパールだったが、明らかに鈍い音がこちらまで痛みを感じさせる。
「ごめんなさい、すぐ新しい席を用意しますね。服とか汚れていないですか?」
「だ、大丈夫です。」
な、なんて女神のような人なのだろう…!
先程までと対応が大違いだ。
正直、ただのヤバいギルドなのかもしれないと思ってしまっていた。
僕は新しい椅子に座らされると、その周りに三人が座った。
向かいの席に女神、右の席にヤバい男、左の席に貧弱そうな男が座った。
「ようこそ、時の歌ギルドへ。改めてご要件をお伺いします!」
「はい。ここのギルドに入りたくて来ました!」
三人からの視線が集まり、少々緊張して声が裏返りそうになる。
「そうですか。じゃあ、まずは自己紹介しましょう。わたしはハル。ここのギルドの受付嬢であり、ギルドマスターでもあります。あなたはなんていう名前ですか?」
「僕はエドです。年は10歳で、おばあちゃんがここのギルドに所属していました。」
「……私個人として言わせてもらうと、若すぎる。とても長続きするとは思えん。」
「なんで男なんだ……異世界といったら美少女だろお!!それなのにどうしてこのタイミングで男女比2対1のギルドに男を追加するんだよッ!!」
「二人とも、失礼なこと言わないでください!すみません、エドさん。後で言って聞かせるので無視してください。おばあちゃんはどういう名前の方ですか?もしかしたら、わたしもあったことがあるかもしれないです。」
「僕のおばあちゃんはミラという名前でした。本当に尖っているおばあちゃんで、いつも若い頃の話をしてくれて、大好きなおばあちゃんです。…僕が8歳のときに死んでしまいましたけどね。」
「ミラさんでしたら、わたしも何度かお会いしました。急に鏡から出てきて本当にびっくりさせられました。性格もすごく尖っていて、面白かったです。どんな相手にもはっきりとものを言う姿は、見ててスカッとしました。ですが、そうですか…しばらく顔を出さないとおもったらやっぱり、お亡くなりになられていたんですね。」
「…おばあちゃんは、笑って逝きました。何も言わず、ただただ幸せそうな顔で。」
それから暫く、おばあちゃんについて話した。
彼女と喋るのはすごく楽しい。
なんだか新しい世界を見ているような新鮮な気分だ。
「あー、話が盛り上がっているところ悪いんだが、伝えておかないといけないことがある。」
弱そうな男はそう言って話し始めた。




