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第15話 混雑

「あそこか。人の気配が2人…昨日の二人で間違いないだろう。俺様に続け!!!」


8名ほどの隊列は流れ込むようにギルドへと滑り込んだ。

ダヴィデは目の前の人影目掛けて双剣で薙ぎ払う。


「キャア!何よアンタ!!魔物!?」

「なッ誰だお前!?」

「あ、あなたたちはもしかしてこの前の…」

「黙らっしゃい!!!」


黒い女が再び足を振り下ろす。

確かに手応えを感じたはずなのに、眼の前の黒い女は無傷だった。

黒い女を囲むようにダヴィデの部下のトカゲが女の周りを取り囲む。

互いに睨み合い、膠着状態だ。


「なにしにいらしたの?アタシ、アナタたちに恨まれるような覚えはないのだけれど」


「勇者をどこへやった?俺様が用があるのは勇者だけだ」


「それってぇ、もしかしてパールちゃんのことを言ってるのかしらぁ?」


辺りの空気が一変する。

黒い女がフラスコのようなものを取り出し、地面へ叩きつけた。

どす黒い煙が室内に立ち込める。

入口はいつの間にか閉まり、窓一面が赤に染まった。

しばらくの喧騒の後ギルドには静寂が訪れた。


「許せないわねぇ度し難いわぁ。一匹、逃してしまったようね」


壁に焼け焦げた跡が一箇所出来ていた。

歩こうとして足元のハルに気がつく。


「あら、まだいたの?」


眼の前のおもちゃに飽きた子どものように、黒い女は退屈な顔でヒールを引き抜いた。


「…ッ!!」


「パールちゃんに伝えておいて。次目立つような真似をしたら容赦しないってね。アハハハは!」


そう言うと彼女の周りに床に滞留していた黒い煙が集まってゆき、姿を消した。




ーーー「…ッ!」


見ると米粒ほどの大きさのギルドの方から黒い煙が立ち込めているのが見えた。

何かあったのか、脳内に数日前に現れたUnknown達が頭に浮かぶ。

急がないと、ハルの身に何かあったかもしれない。

俺は山を駆け下りる。

ここからギルドまで5時間ほどかかる。

俺はその道をただひたすらに駆け下りた。

無茶だとわかっていても走らずにはいられなかった。

道中、カーブを曲がりきれずに転倒する。


「うわあああ!!」


そのまま急斜面を滑り落ちる。

地面に叩きつけられた。


「イテテテ……」


立ち上がろうとすると、手にヌメっとした身の毛のよだつ感覚がした。

手を見ると、水色の粘液がついている。

ズボンが湿る感覚がする。


「うああ」


スライムの上に落ちたようだ。

俺は急いで立ち上がると、服にへばりついてくる。


「うわああキモいい」


鳥肌が立ちながらも俺は走る。

最悪な気持ちで、なんだかメロスになったような気分だった。




ーーー日がかなり傾いて少し、俺はようやくギルドにたどり着く。

ギルドの入口付近の窓は赤黒い血が付着していて、もうしばらく時間がたっているようだった。

足の感覚がもうなかったがそんなことは関係ない。

俺は最悪の想像をする。

扉を開ける手が動こうとしなかった。

緊張で手が震える。

それでも、深呼吸して扉を開けた。


「ケンタさん、おかえりなさい!今日はいつもより早いですね。」


そこにはいつも通りのハルがいた。

台所で、料理を作っている。


「え、ハル……この血は?」


「魔物がここにやってきたんです。」


「……そうか。とにかく、無事でよかったよ。もしかしたらハルがいなくなっちゃうかもって、すごく心配で。」


「安心してください。わたしはそんなにヤワな女じゃありません!それに、悪いことばかりじゃないですよ。今日はいいトカゲの肉が手に入ったんです。!しかも7匹分も!久しぶりにお肉の貯蔵庫に貯められます。」


「ということは、今日はトカゲ料理か、楽しみだな!」


「楽しみにしておいてください!疲れたでしょう。水を浴びて、しばらく休んでおいてください。」


「じゃあ、そうさせてもらうわ。このヌメヌメはやく洗い落としたいぜ。」


そう言って彼は井戸へと向かっていった。

わたしは足の痛みをこらえながら、なんとか立っていた。

あのあと私は、傷口を消毒し、ポーションをかけ、針で縫った。

上級ポーションでも持っていればすぐに治っただろうが、あいにくこのギルドにそんなものはない。

あとはただ治るのを待つだけだ。

魔法の力で補助をしているからいまわたしは立てている。

ケンタに心配はかけたくない。

彼がわたしを守ろうとしても、返り討ちに合うのがオチだ。

彼は弱い。だから頼ることはできない。

いまこのギルドを守れるのはわたしだけだから、わたしがしっかりしないと。




一時はびっくりして焦ったけど、無事そうで何よりだ。

俺はそんなことを考えながら井戸で体を洗う。

この冷たさにもだんだん慣れてきた。


「ギルド、掃除しないとな。穴も空いていたし。」


本当に彼女の身に何もなかったならいいのだけど。

ハルはいつも無理をする。それが俺の見解だった。

出会った頃、彼女はつい先日ギルドメンバーを失ったと言っていた。

それがどれほど辛いことなのか、家族を失ったことのない俺にはわからない。

でも、彼女は気丈に振る舞って、俺とパールをギルドに招待してくれた。

ふと下を見ると、スライムが洗い落とされているのがわかった。


「はああああーーーすっきりするぜぇ」


でもやっぱりお風呂にも入りたいなという思い。

もとの世界での当たり前が、どれほど大切だったのか、この世界に来てようやくわかった。


「母ちゃん、俺がんばるよ。」

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