第13話 不吉の予感
我は魔王。
人類が恐れおののく悪の代名詞だ。
魔王は勇者が討ち滅ぼすのがニンゲンの世界の常識らしいが、我は違う。
今までに9人もの勇者を屠ってきた。
皆跡形もなく塵にしてみせた。
無論、我にも人と話し合いで解決しようと思っていた時期もあった。
だがニンゲンは愚かで傲慢だ。
魔物は本能と理性の間の生き物だ。
同じ種族でも、本能のまま言葉も話さぬ個体もいれば、理性と知性を備え人と話す個体も存在する。
我は理性を持つ魔物を魔族と称し、人権を訴えた。
だがニンゲンにはみな同じ魔物に見えるらしい。
我は家族が危険にさらされて、手遅れになってようやく気がついたのだ。
ニンゲン魔物は一生わかり合うことは出来ない。
どちらかが滅びるまで戦う運命にあるのだと。
ニンゲンどもよ恐れるがいい。
我は魔物を統べる者。魔物の王!
魔王ヴァルプルギスである!!!
「魔王様報告です!新しい勇者が誕生しました!」
「何!?グレイヴはなんといっていた?」
「読み上げます!『神がまた勇者をこの世界に遣わした。彼の名は”鈴木健太”。今は零落山にいるだろう』とのことです!」
「すぐに偵察部隊を向かわせろ!」
「は!承知いたしました!!」
ーーー「あえ…?」
目が覚めると俺はなぜかベッドで眠っていた。
知らぬ間に二階に運ばれたようだ。
窓を開け、朝の光を浴びる。
大きなあくびをして、ようやく思考がクリアになってきた。
窓の外を見ると、ハルが見えた。
俺は急いで着替え、階段を降りる。
ドアをあけ、外へ出た。
ギルドの裏に向かうと、ギルドの奥の道を進んでいくハルの姿が見えた。
俺はどうしようか迷った末に、ついていくことにした。
ギルドの裏の、山奥へと続く道。
石で整備された道を進む。
しばらくすると、ハルの姿が見えきた。
「おーい、ハルー?」
そこは墓地だった。
いくつもの墓石が立ち並んでいる。
「…!ケンタさん。」
「ゴメン、邪魔だったかな」
「……いえ、大丈夫です。……ここはギルドメンバーの墓なんです。まあ、ギルドメンバーといっても、おじいちゃんと仲の良かったギルドメンバーだけですが。小さい頃かわいがってもらったのを思い出します。」
「寂しい?」
「少しだけ。でも、最近はあまり寂しくありません。賑やかなので。」
そう言って彼女は笑ってみせた。
その表情はやっぱりどこか寂しい感じがした。
「辛くて限界だなって感じたら、一人で抱え込む必要はないんだぜ?」
ハルは一瞬驚いた表情を浮かべ、笑った。
「ふふふ。なんだか恥ずかしいです。」
「ゴメンゴメン、でも俺はその言葉に救われたから、感謝してるよ。」
自分でも喋っているうちにだんだんと恥ずかしくなってきた。
感謝を伝えることってなんでいつもこんなに恥ずかしいのだろう。
いや、恥ずべき行為でないとはわかっているのだが。
「そういえば、パールはどこに行ったんだ?」
「パールさんなら、サイクロプスを討伐しに行っています。コカトリス、ウロボロスのクエストも受注したので、帰るのには1週間ほどかかるそうです。」
「俺食後の記憶がないんだけど、二階に運んでくれたのって…」
「はい、わたしが運びました。」
「ノああああッ!!!」
自分よりも年下の女の子に抱えられて運んでもらったっていうのか俺は…!
恥ずかしすぎる。高校2年生にもなって。
「大丈夫です。重くなかったですよ?」
「ヌああああッ!!!」
追撃をされて撃沈する。
屈託のない笑顔が眩しい。
俺は自分の尊厳の行方を探していると、ハルがなにかに気づく。
「…!誰ですか!?出てきてください!!」
明らかに何か違う様子に俺も黙る。
そして俺も俺なりに気配というものを感じようと頑張ってみたがさっぱりだった。
「ケンタさん、ゆっくりと遠回りしてギルドに戻ります。ついてきてください」
ハルは俺の手を握り、動き始めていた。
ゆっくりと、茂みの方を見ながら後ずさりする。
『惑いの霧』
辺りに霧が立ち込める。
その瞬間、ハルが走り出し、俺はハルに引かれるように走り出す。
後ろから明らかに俺とハルのものではない足音が聞こえる。
「この山はわたしの庭です!この山でわたしに追いつけるとおもわないでください!」
木々の間を抜け、川を超え斜面を降りる。
そこには小さな洞窟があった。
「ここにひとまず隠れましょう。ここなら安全です。」
洞窟に入り、息をひそめる。
俺は先程までハル繋がれていた自分の手を見た。
俺は走ったことで心臓が高鳴っているのか、手を握ったことで高鳴っているのかわからなかった。
「もしかして、吊り橋効果!?」
「先程のは一体誰だったのでしょうか。ギルドに先回りされていないとよいのですが。」
「魔王様、偵察隊が帰還しました!」
「報告しろ。新しい勇者はどうだった?」
「……取るに足らない勇者でした。一般人よりも弱いかと。」
「何!?我をおちょくっているのか!?勇者が一般人よりも弱いなど…」
「鑑定の結果、魔力量はミジンコ程度、筋力も一般男性を下回ります。そして、神の祝福をもっていました。」
「神の祝福をもっているのなら話が違うではないか!」
「いえ、祝福の内容は『魔法が使えなくなる』という祝福でした。」
「そんなもの、祝福ではなく呪いではないか!」
「ええ、ですから取るに足らないと…」
「それで、殺したのか?」
「いいえ、実は彼の仲間に邪魔されてしまい、逃げられてしまいました。」
「ふん。まあよい。5日以内に討伐隊を組み勇者を殺せ。成功したら昇格させてやろう。失敗すれば……わかっておるな?」
「ええ。この烈火のダヴィデ、必ずしも魔王様に成功を捧げましょう。」
喉の奥に炎を揺らしながら、そのトカゲはニヤリと笑った。




