15-2:取材開始
「目撃されたのは、数日前。農地の方よ。なんでも深夜、薔薇園の中が謎の光に包まれていたそうなの」
言いながら、トロンカさんはターバンを頭に巻く。次に紙と鉛筆をカバンに仕舞った。出掛ける準備をしながら、説明するつもりらしい。
「薔薇なんて育ててるんですね」
「ええ。乾燥や日差しに強い種があるの。けど今年は不作みたいなのよね」
ボヤくように言って、
「更に泣きっ面に蜂になってないと良いんだけど」
「というと?」
「謎の光に包まれたワケだし、何か生育に悪影響があるんじゃないかって」
ああ、確かに。得体が知れないもんね。
「ぷらじゅまは?」
ももちゃんも、トロンカさんが悪い人じゃないと分かって、普通に話し始めたね。
「ぷらじゅまの方は、目撃者の目の前でいきなり消えてしまったらしいわ」
「お~!」
テレビで見た通り(突然消えると紹介されていた)だからか、ももちゃんは嬉しそう。
「それ以上の手掛かりは?」
「それを取材しに行くの。今話したのは又聞きだから」
なるほど。
そして、ちょうど話し終えたタイミングでトロンカさんの準備も整ったみたいで。彼女を先頭にして、街へと繰り出す。
南下し、農地へ。子ルッフ小屋の辺りまで来たところで、オロミドさんとバッタリ遭遇した。
「おや、アンタたち」
「こんにちは」
「ちは」
オロミドさんは続けてトロンカさんの顔を見て、何か察した様子。
「そっちの取材の手伝いかい?」
「そうです」
「ぷらじゅまのおはなし、ききにきたの」
「ぷらじゅま?」
キョトンとするオロミドさんに、トロンカさんが事情を話す。
「ああ、それならアタシも見たよ」
「え? そうなんですか」
「おーい、アンター! 例の光の件で、今度はトロンカが来たよー!」
オロミドさんは家屋の方へ叫ぶ。するとオジサンが1人、のそのそと出てきた。クマみたいな大きな体に、ヒゲモジャの顔。
「ウチの亭主だよ。この人が光の発見者さ」
「そうだったんですね」
「あ~。薔薇園は俺の管理だから~」
間延びした話し方なのが、余計に呑気なクマさんを想起させる。
ていうか、子ルッフ小屋だけじゃなくて、薔薇栽培なんて商売もやってるんだね。手広い。
「案内してもらえますか?」
「あいよ」
旦那さんの腰に手を当てて、歩かせるオロミドさん。子ルッフを誘導する時のクセが染み付いてるんだろうけど、なんだか可笑しかった。
そのまま小屋を通って、東側へ進む。レース会場に沿って歩く感じだね。やがてテントで覆われた一画が見えてくる。テントは屋根が透明になっているみたい……いや、アレは蜃気楼素材だね。
「透明だけど覆ってはいるから。直射日光にはならないのよね、アレで」
インビジブルマントとは少し違うのかも知れないけど、テントの上面を覆うシートに蜃気楼を染み込ませてるんだね。アレのおかげで色々と私の知ってる薔薇じゃなくなってそう。
近づいていく。テントは普通の布なので、天辺だけ透明で変な感じだ。入口まで行くと……
「おお、本当に薔薇が咲いてる」
黄色と赤と……青もある。やっぱり私が知る薔薇じゃないなあ。青は自然界だけでは出来ないハズだったから。
「この中が全部光ってたんだ~」
「そうなんですね。深夜ということでしたが」
「子ルッフが騒ぐから、起きたんだ~」
そうして、万一何かあってはいけないから奥さんのオロミドさんは起こさず、彼だけで様子を見に行ったそうだ。
「アタシは直接は見なかったんだけどね。旦那が起きる音で目が覚めてさ。それで遅れて起き上がったんだけど……その時に」
「その時に?」
「北の空へ飛んで行く光の球を、窓から見たんだ」
ということは。旦那さんが見ている前で、光は忽然と消えて、その後に空を飛んで移動したということかな。一旦消えて、また現れて。一ヶ所に留まったり、飛んだり。変幻自在、神出鬼没。まさに……
「ぷらじゅま!」
だねえ。
「光が留まっていたという薔薇園に、何か異変とかは起きていないんですか?」
トロンカさんが訊ねると、ご夫婦は顔を見合わせる。
「それがね」
「少し弱っていた花が~」
死んじゃったのか、と早合点しかけたけど。
「元気になってるんだ~」
真逆だった。
「だから僕は~ぷらじゅまは~悪い物ではないと思うよ~」
う、うーん。どうなんだろう。偶然かも知れないし、1件だけのサンプルで判断するのは早計に思うけど。
「……」
トロンカさんは物凄い速さで、今のお話を書き連ねている。プラズマが良い存在にせよ、悪い存在にせよ、彼女はとにかく真実を報道するのが仕事だからね。起きた事象をつぶさに記しておくんだろう。
その後、私たちは薔薇園の中も見せてもらった。薔薇のサイズ自体は少し小さめに思うけど……現実の薔薇もそんなに詳しいワケじゃないから、ハッキリとは言えない。色に関しては、天然の青というのを初めて見た。とてもキレイだったのでフォト機能で写真を撮っておいたよね。
弱っていた薔薇というのも見せてもらったけど、他のと区別がつかなかいくらいに回復しているようだった。これなら確かに、育ててる側からすれば良い存在と思うのも当然だよね。
私たちは2人に礼を言って、園を後にする。
トロンカさんはメモ帳をカバンに仕舞いながら、
「次はどうしようかしら。北に飛んで行ったと言う情報があったし、聞き込みに行ってみましょうか」
「北というと、オアシスと庁舎ですかね」
オアシスには人が居ないから、まあ聞き込みするなら庁舎内になるね。
私たちは、進路を北へ取った。




