15-1:ぷらじゅまが見たい
ももちゃんがテレビの前でジッとしている。朝の魔法少女アニメには遅いし、夕方のグルメ特集には早い時間帯。他にももちゃんが興味を惹かれるような番組なんてあったかな。
近づいて観てみると、怪奇現象特集みたいだ。ちょうど今は鬼火をやってるみたい。幽霊にも通ずる感じがあるけど、ももちゃんは怖がらず、むしろ見入っている。
『続いての怪奇現象はこちら。アナタは謎の光プラズマを見たことがあるだろうか……』
いかにも、おどろおどろしいトーンで話すナレーション。子供は怖がりそうなモンだけど、
「……」
ガン見だった。凄いね、ももちゃん。やっぱり、ちょっと変わってるよね。それがまた悶えるほど可愛いんだけど。
『……そうしてこの光の球は、いずこかへと飛び去って行った。我々に多くの謎だけを残して……』
最近は、こういう番組も昔よりは減ったらしい。おじいちゃんの話では、科学の発達で解明されていったことが多いのだとか。
と。ももちゃんが、こっちを向いた。少し驚いてる。私が居たのに気付いてなかったのか。ただすぐに彼女は気を取り直したみたいで、
「ぷらじゅま、ぶろくえにあるかな?」
そんなことを訊ねてくる。
「ああ、まあ。有り得るかも?」
これまでも不思議なことは沢山あったからね。今居るマホロバだって、1年のうちの2週間しか晴れない蜃気楼に覆われた街だ。
「じゃあ、やろうかな。ぶろくえ」
単純だなあ。有り得るかもというだけで、絶対出るワケではないよ? と言いたかったけど。まあ良いか、ヤル気になってるところを水差さないでも。
「うん、それじゃあ行こうか」
ももちゃんを連れて、2階に上がる。マットを敷いて、ゴーグルを着けて。2人でログインした。
宮殿前スタート。正門から入り、ギルドへ。ドアを開けると、バナーリヤさんと目が合った。少し気まずそうなのは、前回の依頼者だからか。しかも、フジョルさんとの焦れ焦れを見せつけてしまった自覚もあるんだろうね。
「ええっと、ほら。新しいクエスト、来てるよ」
バナーリヤさんが掲示板を指さした。1枚貼られているのを、ももちゃんと読んでみる。
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No.15
<謎の光の調査>
依頼者:新聞記者トロンカ
内容:最近巷で噂になっている謎の光の正体を探る
報酬:10000G
フラワーコイン2枚
備考:街の西、トロンカの家を訪ねよう。
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これはまた……ドンピシャなタイミング。もしかして、ももちゃんの興味あることをリアルタイムデータとして収集して、クエストに反映させてるワケではないよね? 流石にそこまで凄いAIは搭載されてなかったハズだけど。
まあいずれにせよ。受ける以外の選択肢は無いので、「受諾」のハンコを押してもらう。
「トロンカさんの家は分かる?」
「ああ、いえ」
「んじゃ、矢印出しといてあげるよ」
「ありがとうございます」
親切が身に沁みるね。
ギルドを出て、一路、西の住宅街へと向かう。相変わらず土造りの同じような建物が並んでいて……矢印先輩が無かったら、到底見つけられなかっただろうね。
数分ほど歩いて、到着。やっぱり他の家と同じ造りだけど、木の看板を掲げていた。読むと『マホロバ新聞社』と書いてあった。
「会社になってるんだね。新聞社さん」
「しんぶんしゃ?」
「新聞って言ってね。昔はみんな読んでたんだよ」
「ごほん?」
「本でもないんだけど……まあ良いや。入らせてもらおう」
中に入れば、1部くらい見本紙が置いてあるだろうし。見せた方が手っ取り早い。
ということで、「ごめんくださーい」と声を掛けながら中へと入ってみる。建物内には女性が1人。見た感じ30代後半くらいかな。
「はいはい。あ、もしかして……」
対応に来てくれたところで、彼女は私の胸元のバッジに目を留める。そして、私と手を繋いでいるももちゃんにも視線を落として、
「あら。そんなにちっちゃいのにブロンズ冒険者さんなの?」
「う、うん」
「ふふ。可愛い。バッジ着けてるわ」
ももちゃんは所在なさげに、私のジャージの裾を摘まんだ。人見知りじゃないとは思うけど、いきなりグイグイ来られてビックリしてるのかも知れない。
「お名前、なんていうんですか?」
しゃがみながら、女性がももちゃんに訊ねる。
「ももちゃん……」
「ももちゃんかあ。可愛い名前ねえ。何歳?」
「さんさい」
「そっかあ、3歳なのね。ウチの子も、こんな可愛い時期があったわ」
あ。お子さんがいらっしゃる模様。
「ああ、ゴメンなさい。私はトロンカ。クエストの依頼者よ」
「はい。私は幸奈です。妹共々よろしくお願いします」
自己紹介も済んだところで、私は改めて社屋内を見回す。机がいくつも並んでいて、書きかけの原稿と思しき紙束が積まれている。インクのニオイも充満していて、あまり見慣れない機械(活版印刷機かな)も置かれていた。
「珍しい?」
「あ、そうですね」
私の居る現実世界では、既に廃れた文化ですと言ったら、NPCである彼女はなんと言うのか少し気になったけど。色んな意味で意地悪すぎるのでやめた。
「完成した新聞ってありますか?」
「え?」
「ももちゃんに見せてあげたくて」
「ええ、良いわよ。少し待って」
奥の机から1つ紙束を持って来てくれる。ゴワゴワの紙面に、大きなヘッドラインが踊り、その続きは小さな文字が羅列されている。
「やっぱり、ごほんじゃないの?」
「本とは違うのよ。週に1回、刊行してるんだから」
あ、毎日じゃないんだね。まあ会社の規模的に日刊は無理か。
ただきっとトロンカさんとしては、本より刊行スピードが速いと自慢したかったんだろうね。ちょっと誇らしげだし。
「そして。来週の新聞の目玉……それを取材しに行きたいのよ」
「依頼書にあった謎の光ですね」
「ぷらじゅま」
「あら、名前があるの?」
「あー、いや。あはは。そう呼んだりもするというか」
曖昧に濁す。
「よく分からないけど……名前があるなら、そう呼びましょう。その方が楽だもの」
まあ毎回「謎の光」と呼ぶよりはね。
「さあ。それじゃあ、ぷらじゅまについて話すわね」
あ。ももちゃんの発音が正式になっちゃった。




