14-6:2人の黄金
「せーの!」
鉄板に体を預けるようにして体重をかける。岩の下に辛うじて潜り込んでいる先端が、グッと持ち上がった。支点が若干沈みつつも、板を支えて……
――ゴロ
僅かに動いた感触と音。イケる! 幼馴染たちの表情にも光が灯った。
「よし、一気にいきましょう!」
「はい!」
「了解!」
そして、全員で更に体重を掛けると、
――ゴロ、ゴロ
「うごいてるよ!」
――ゴロゴロ!
一度ついた勢いのまま、岩は完全に転がってくれた。
そして岩の下には、フジョルさんの推測通り、黄金色の甲虫の姿が。
「あ。これがさそりさん?」
「あ! ももちゃん、ダメよ! 触ったらダメ!」
毒があるという話だったから。
肝を冷やしながら駆けて行き、ももちゃんを抱き上げる。
「さそりさん!」
「ダメ。危ないよ。刺されたら、痛い痛いだよ」
「いたいの……や」
「そうだね」
良かった。聞き分けてくれた。
私たちのやり取りを他所に、幼馴染2人は油断なくサソリを見つめていた。
持参していたサスマタを構え、ジリジリと距離を詰めていく。
「だいじょうぶかな?」
「うーん。ちょっと怖いね」
テコセットを粘土に戻して、ももちゃんに何か作ってもらうべきか。それとも。2人も捕獲は初めてじゃないと言うし、任せるべきか。
と、悩んでいる間にも、
「はっ!」
バナーリヤさんがサスマタを地面に突き立てる。サソリの背中の辺りを湾曲部が捉え、そのまま地面に縫い付けた。すかさず、サソリの背後からフジョルさんがナイフを持って襲い掛かる。横一閃。アーチ型の尻尾をスパッと斬り落とした。
サソリは痛むのか、サスマタの下でウネウネと蠢く。
「ああ、コレは」
ももちゃんから見えないようにすべきかと思ったけど、
「♪♪」
子供は大人が思っているより残酷です。私も昔、セミさんを捕まえて解体してたらしいし。
「バナーリヤ、もう良いよ」
フジョルさんが告げると、バナーリヤさんがサスマタを引く。サソリはそのまま逃げて行った。尾の大部分を切り落とされているにも関わらず、まだまだ動けるんだ。
「放っておくと、また生えてくるんですよ」
「え? 凄い」
トカゲの尻尾みたいだ。
「この毒腺と尾を使って、薬が出来る」
「どくなのに、くすりになるの?」
往々にして、そういうものなんだよね。
「1匹で良いんですか?」
「うん、十分だよ。これだけで1年分くらいにはなる」
ということは、実は相当強い毒なんじゃないのかな。薄めて1年になるって。
「もちろん、他の患者さんでも必要になることもあるだろうから、もう1匹くらい獲れたら言うことはありませんが……」
フジョルさんが言いかけた、その時。どけた岩の影から、金色の光が瞬いた。あ、と思った時には。サソリが凄まじい跳躍力で飛び掛かって来ていた。
全てがスローモーションのように見える。バナーリヤさんの背後へと迫る黄金サソリ。尻尾が立ち、そのまま刺せそうな体勢を取っている。フジョルさんの叫び声。恐ろしく速い動きで、バナーリヤさんを胸の内に引き寄せる。そのまま後ろに倒れ込むと同時、彼は体を捻る。自分の体でバナーリヤさんの体を覆うような体勢。
そしてサソリは、バナーリヤさんの居た辺りに着地する。本当に間一髪だった。
「サスマタを!」
フジョルさんの掠れたような大声。あ、あ……そうだ。次の攻撃が来る前に、動きを止めないと。首を巡らせるけど、サスマタが近くに無い。マズい。一瞬で冷や汗が出る。
サソリが再び足に力を入れるのが分かった。跳ぶ。ダメだ、間に合わない。
「っ!」
悲劇の瞬間は……しかし訪れなかった。
「これ、おもしろいね」
ももちゃんがサスマタでサソリをガッチリ押さえつけていたのだった。
ドッと体から力が抜ける。
「「……」」
幼馴染2人も、魂が抜けたような表情をしている。
「???」
小さな救世主だけが、私たちの様子に首を傾げているのだった。
あの後。2体目の尻尾も無事に回収し、私たちは帰路に着く。ラクダさんも少しお疲れのようだけど、頑張ってついてきてくれていた。
ちなみに幼馴染2人は……行きより更にくっついてるように見える。特にバナーリヤさんがフジョルさんにもたれかかるような甘えっぷりだ。あんな全力で庇ってもらったら、まあそうなるよね。自分の身はどうなっても良いと言わんばかりだったし。
「「……っ」」
私が見ているのに気付いて、離れてしまった。やっちゃった。邪魔しちゃ悪い。
私は前を向き直り、ももちゃんとお話しながら、単調な空の旅を終えた。
街に戻ると、ラクダさんと絨毯を返却する。フジョルさんは、その足で薬の調合に向かった。どこかフワフワした足取りに見えたけど……
「さ、さあ。ウチらも、かえっ! 帰ろう」
バナーリヤさんも負けず劣らず、地に足着いてなかった。
ももちゃんが不思議そうにしてるけど、それにも気付かないくらい。
ギルドに戻り、ティングスさんに帰還報告。お礼を言ってバナーリヤさんは受付を交代する。
「それじゃあ報酬だね」
「先にハンコを」
「あ、そ、そうだったね」
やっぱりまだ本調子ではないみたい。彼女は誤魔化すように笑って、クエスト完遂のハンコを押してくれた。
「今度こそ報酬だね」
言いながらバナーリヤさんは皮袋とフラワーコインを渡してくる。そして追加で自分のガマ口から5000G出してきた。
「え? こ、こんなに」
「良いんだ。取っておいて」
バナーリヤさんは固い意思を感じさせる瞳で私を見つめる。
「あの体勢でサソリにやられてたら……フジョルは」
確かに無事では済まなかったと思う。
「ももちゃんが居なかったらと思うとゾッとする」
「……」
「ありがとう、ももちゃん。ついでに幸奈」
やっぱり話の流れ的にそうなるよねえ。私、何もしてないもんねえ。
じゃあこの5000Gは間違いなく、ももちゃんの稼ぎだね。踊り子の服を買ってあげましょう。
「こんなにちっこいのに、勇気のある子だよ」
カウンター越しに、私が抱っこしてるももちゃんの頭を撫でるバナーリヤさん。
「とにかく、今回は本当に助かった。また何かあったら頼むよ、冒険者さんたち」
最後は弾けるような笑顔で、バナーリヤさんはそう締め括った。




