14-2:まさかの代役です
私たちは街の北西にある酒場へと向かう。バナーリヤさんが夜働いている店だという。踊り子ということで、少しいかがわしいニオイを感じてしまうけど、そこは流石に半子供向けゲーム。ちゃんと踊りだけで客を楽しませるパフォーマー的な仕事らしい。
「昼の早いうちに来るのは久しぶりだね。変な感じだ」
昼間はギルド受付の仕事があるもんね。
……バナーリヤさん、いつ寝てるんだろう。と、私が心配したのと同じタイミングで、
「あまり無理はしないでね。薬代は僕の方でも多少は頑張るから」
フジョルさんが優しく諭す。
「ありがたいけど……全面的に甘えるワケにはいかないよ」
バナーリヤさんが力なく笑う。
「……」
「……」
2人の距離感。なんとも言えないな。幼馴染と、その母親を気遣う彼と。彼に凄く感謝しながらも、一線は引いている彼女。
「ふじょるおにいちゃんたちは、けっこんするの?」
「は?」
「え?」
ももちゃん、ぶっこむ。いや、私もなんとなく「あるのかなあ」とは思ってしまったけど、それにしてもこんなに直截に。恐るべし、イノセント下種の勘繰り。
言われた2人は、やはり少し顔を見合わせ、そっと逸らした。
「……どうして、そう思ったんだい?」
バナーリヤさんが訊ねる。
「えっとね。めいどのおばちゃんと、しょーふぇんおじちゃんにね、なんかにてるから」
ああ、なるほど。エリーファさん&ショーフェンさんの幼馴染カップルと、どこか似通った雰囲気を感じ取ったということらしい。
私は顔中に疑問符を浮かべている2人にも事情を説明する。勝手に他人のプライベートを話すのも少し気が引けるけど、まあこの2人があの夫婦に会うことは無いだろうからね。
「なるほどね……どうなの、フジョル」
「ぼ、僕に聞くのか」
うーん。このやり取り。気安い幼馴染が勘違いを楽しんでいるようにも見えるし、さりとて完全に脈ナシならもっとガッツリ否定するような気も。
「ていうか、今はそんな話してる場合じゃないから……」
フジョルさんの疲れたような声で我に返る。そうだったね。クエストには関係の無い部分だ。個人としては……もちろん気になるけどね。超気になるけどね。
「ほら、着いたよ。あそこだ」
バナーリヤさんが軽く駆けて行って、建物へ着く。通用口のカギを開けているみたいだ。体よく逃げられたようにも感じるのは、それこそ下種の勘繰りかな。
「あれが……さかば?」
「みたいだね」
土造りの横に広い建物。ここら辺の平均的な家屋の3倍はありそうな大きさだ。儲かってるのかな。
「さかばって、びーるのむところ? いざかやさんとちがうの?」
パパのせいでお酒や、それが呑める場所に関する知識が多い。
ただ私も咄嗟には、「酒場」と「居酒屋」の違いが分からないので、「同じようなものだよ」とだけ教えておいた。あとで調べてみようかな。
「さあ、僕たちも行きましょう」
通用口の向こうに消えたバナーリヤさんを追って、私たちも建物の中へと入る。
バナーリヤさんが光の魔石を点けてくれたみたいで、中は明るかった。左右を土の壁に挟まれた狭い通路。
「こっちですよ」
フジョルさんが先に立って、私たちはその後について行く。ああ、そうか。彼が行き先を知ってるから、バナーリヤさんは先に行ってしまったんだね。また阿吽の呼吸だ。
やがて、1つの部屋へと着いた。木の扉が開け放たれている。中には既にバナーリヤさんが居て、テーブルの上に布を広げていた。いや、布というか、アレは衣装か。
近づいて検分してみると、どうやらスカートみたいだね。そしてもう1つ、トップスのような物もある。
ええっと……
「踊り子の衣装だよ。アンタたちにも着てもらおうと思って」
「え」
そんなの聞いてない。ただ情報を持ってる商人の男が、今晩酒場に来るということしか教えてもらってなかった。てっきり隠密のようなことをして、コッソリ盗み聞きするんだと思ってたのに。
「実は、ダンサーが数人、里帰りしていまして」
蜃気楼の晴れる2週間。外部とマホロバを隔てる敷居が消えた期間を利用して、私たちは来たワケだけど。市外からマホロバに移住している人は、逆に帰省チャンスということらしい。
「つまり数合わせってことですか……」
「それでも居ないよりは良いからね。グループに加わって、客にパフォーマンスして欲しい」
「情報はホステス班が引き出してくれる手筈になってるんですよ」
なるほど。ダンスパフォーマーをステージに呼んで、それを肴に女性が男性とお酒やトークを交わすラウンジという感じなのか。
もちろん、お触りとかは厳禁とのことなので、アレなお店ではないんだけど……ちょっとドキドキしてしまうよね。
「まあダンスといっても、ウチのグループが踊る間、後ろでそれっぽく動いてくれれば良いだけだから」
聞けば、やはり何もしない女性が場に居ると不自然だということらしく、ダンス部の見習いみたいな扱いにするそうだ。
「ももちゃんさんは、僕と一緒に控室で待機ですね」
「え? ももちゃんも、だんすできるよ?」
うーん。大人の社交場だからなあ。いかがわしい店ではないとはいえ、子供に参加させても良いものなのか。
「ほいくえんのおゆうぎでやるもん」
「う、うん。それは知ってるけど」
まあ良いか。ステージで踊ってるだけなら、客席の方がキャバレーだとか分かんないよね。
「それじゃあ、ももちゃんもダンスしようか」
「うん!」
ということで結論が出た。バナーリヤさんも頷いてくれる。
「分かった。それじゃあ、子供用のステージ衣装も出してくるよ」
あるんだ。じゃあ一応、子供のプレイヤーもダンスする想定のクエストってことか。
バナーリヤさんは部屋の隅に置かれた木箱の蓋を開け、中を漁る。しばらくして、
「あ、これだね。入ると思うよ」
見つけたらしい。
「それじゃあ、僕は外に出てるから」
「はい」
こっちも自動録画してるカメラをオフにしておいて。
バナーリヤさんに手伝ってもらいながら、初めて踊り子衣装に身を包むのだった。




