13-3:お魚にビビる
オアシスを進む小船は、中央付近でゆっくりと止まった。アクアニルスみたいに波は無いから、ピタリ止まると本当に微動だにしないね。
おじさんたちは予め船に積んでいた麻袋の口を開いた。中には籾殻が沢山入っているのが分かる。
「掬って撒こう」
「ももちゃん、やってみるか?」
「うん!」
小さなお手々が籾殻を掬う。持てる量が少ないから、私も加勢。
2人で船の周りの水面に籾殻を撒く。そうして、しばらく待っていると。
「来たな」
「ニオイに釣られて、上がってきた」
ももちゃんを抱え上げて、私たちも一緒に覗き込む。その頃には魚はもうオアシスの水面まで上がっていて、
――ばしゃ! ばしゃん!
魚の群れが口をパクパクしながら、我先にと殺到している。中々、迫力がある。体は小さいけど、なんというか「生きるための気迫」みたいなのを感じさせられるんだよね。
「っ!」
ももちゃんもビックリして、ただ凝視している。ていうか、少し怖いのか、私の服をキュッと摘まんでるし。
「大丈夫だよ、ももちゃん。飛び上がって来たりはしないから」
優しく妹の頭を撫でていると、フィングスさんが網を構えて、入水させた。そして、魚の下に潜らせ、尻尾から掬い上げる。
――ざぱん!
持ち上げた時には、網の中で暴れ狂う魚が5匹くらい。凄いね、あれほどビチビチされても全く動じない。フィングスさんはその逞しい上腕二頭筋で、更にグッと網を持ち上げると、そのまま船内へと引き込んだ。
「わわ」
「……」
硬直したももちゃんが、更に私の胸に強く抱き着いてくる。ガチ怯えかな。
「バケツに入れるぞ」
「あいよ」
ティングスさんは言われるまでもなく、バケツを網の口に寄せていた。そこに引っくり返された魚がドバドバと入っていく。まだ跳ね回るので、水飛沫が私たちの顔にも掛かる。
「わっぷ」
おじさんたちは水を手で汲んで、バケツの中へ。魚たちが窒息しないようにね。あ、柄杓みたいなのも作ってもらおうか……と思ったけど、
「……」
ももちゃんのこの様子では、追加で何か作ってくれそうな感じはしないなあ。
結局、マッスル兄弟が人力で水を満たしてくれたところで、
「それで、あと何匹くらい獲るかね」
「そうだなあ。子ルッフたちには、魚だけやるのかい?」
「いえ。サンドワームとかいう生き物も」
「ああ、なら……そうだな。1羽あたり5匹くらいで良いか」
「そんなモンだな」
兄弟が数量を決めてくれる。正直助かるよね。きっと2人の方が、ルッフの生態とか詳しいだろうし、素直に従っておこう。
「まだとるの?」
ももちゃんは嫌がってるけどね。やっぱりビチビチ跳ねるのが苦手みたいだ。彼女にとって魚といえば……水族館で優雅に泳ぐ姿か、魚屋さんでご遺体になってる姿しか見たことないハズだし、今みたいに不規則に激しく動くのが受け入れられないんだろう。泣かないだけ偉いまである。
結局、ももちゃんは私にしがみついたまま作業を見守り、およそ90%くらいはティングスさんたちの功労と言って差し支えない形で、お魚採取は幕を閉じた。
うーん。今まではなんだかんだ拒絶&完全放棄は無かったけど……こういう時もあるよね。
使った船はお返しして、収穫した魚の入ったバケツはリアカーに載せる。といっても、これまたティングスさんたちがやってくれたんだけどね。
……あんまりにも手伝わなさすぎたら、また報酬を減額されそうで怖い。
――ガラガラ、ガラガラ
舗装された道は1つしかなく、そこまで広くもないので、よく車輪を落っことさないモンだなあと感心してしまうよね。対向とは器用にすれ違うし。伊達に、この街で筋肉ワーカーしてないね、おじさんたち。
――ガラガラ、ガラガラ
車輪の音に紛れて、ももちゃんがポツンと、
「……おさかな、るっふちゃんたちたべるの?」
そんなことを訊ねてきた。
「……うん。食べるね」
「ももちゃんがたべるおさかなさんとちがうよ?」
「違わないよ。ももちゃんの大好きなフィッシュフライも、元はアレなの」
「……」
だいぶショックを受けてる顔に、思わず笑ってしまう。今度、イチから工程を整理して教えてあげようかな。それで魚嫌いにならないことを願うけど……まあフィッシュフライは絶対食べるか。あと、お寿司も。
そのまま、リアカーは子ルッフ小屋まで戻る。音を聞きつけてか、オロミドさんが中から出てきた。
バケツを渡すと、満足げに2度、3度頷いた。
「うん、鮮度・量ともに問題無いよ」
早速あげるみたいで、オロミドさんはそのまま小屋の中へ。私たちもそれに続いた。
――ぴ? ぴい!
――ぴゅい~!
気付いた2羽が柵の前まで駆け寄ってくる。大喜びの様子だ。残りの3羽も遅れて合流する。
「ももちゃん、あげてみるかい?」
「いい」
即答で断るももちゃんに、オロミドさんがキョトンとする。私は笑いを堪えながら、
「私がやってみます」
折角なので体験させてもらう。オロミドさんから1匹受け取り、近くの子へ。大きく口を開けてくれる。
「これ結構バタバタしてますけど、大丈夫ですかね?」
喉の奥で暴れて、詰まらせたり。
「腐っても怪鳥。大丈夫だよ」
何度も生きたまま与えてるみたいな口ぶり。なるほど、それなら。
「はい、どうぞ」
暴れる魚をそっと下のクチバシの上に置いた。私が手を離したところで、子ルッフはガチンと噛み合わせた。それで魚は逝ってしまったのか、ゆっくりと飲み干す。
――ぴ! ぴぴ!
つぶらな瞳が更にクリクリする。美味しかったらしい。
「おさかな、たべたの?」
私が何か言う前に、子ルッフが快調に鳴いて返事とした。ももちゃん、なんとも言えない表情で子ルッフを見つめる。
小さくても(小さくないけど)自然界に生きる猛者だからねえ。栄養補給となれば、四の五の言わないんだよ。そう考えると、私含めて人間の子供は恵まれてるよね。




