12-6:オシドリ夫婦の話
「ランプの精に捧げる面白い話ですか……」
「いきなり言われてもな」
そうですよねえ。私も、ももちゃんがアッサリ話してくれなかったら、知恵熱出るほど振り絞ることになってたと思うし。
「そうですね。それでは折角ですから、アナタとの馴れ初めでも話しましょうか」
「いや、オマエ……それは」
ショーフェンさんは渋るけど、
「聞きたいです。ももちゃんも聞きたいよね? おじちゃんとおばちゃんが仲良くなった時の話」
「うん!」
小さくても女子だなあ。
追い詰められたショーフェンさんは、降参とばかりに首を横に振った。
「先に出てるぞ」
あ、逃げた。
宿の外へ行ってしまったけど……多分ちゃんと奥さんのこと待ってるんだろうな。それが分かるから、エリーファさんも慌てないよね。
「それじゃあ、話しましょうか。と言っても、私も恥ずかしくないワケでもないのですが」
そう前置きしてから、
「彼とは、いわゆる幼馴染という間柄でした。小学校の頃からの付き合いですから、もう40年近くなりますね」
わあ、凄い。それだけ一緒に居て、未だラブラブなのも凄い。
「まあシャクですが、最初は私の片想いでしたね。彼はとても強かったですから」
聞けば、軍の師団長になるような人は大体子供の頃から武道で抜きんでた才能を持っているらしい。まあ、そりゃそうだよね。
そして小学校くらいだと、強いとか速く走れるとか、そういう男子がモテがちだ。ていうか、大きくなっても普通に魅力になるし。
「それでも私もずっと、勉強も家事も頑張っていました。いつか隣に立てたらと願って」
「健気ですね……」
「私は彼の肉体的な強さ以外にも、良い所を沢山知っていましたから。他の表層しか見ていない女子には負けないという自負もありました」
つ、強い。この人もまた城のメイド長までのし上がった実力者だもんね。いわばパワーカップルだ。
「そうして中学に上がって少しした頃。私の方が、殿方に言い寄られたのです」
お、おお。そうだよね。エリーファさんも美人さんで、それだけ自分磨きもしてたんだから。
「それを知ったあの人ったら……ふふふ」
嬉しそう。
「他の男の所に行くな。俺の妻になれって」
わあ! そこまで大胆に!?
「中学校で婚約は、無い話でもないですが……もう度肝を抜かれて。でもそんなに想ってくれてたんだって、飛び跳ねるほど喜んだのを覚えています」
幼馴染という間柄。なんとなく、ずっと一緒に居るのが当たり前になっていた。だけど、他の人に取られるかも知れないとなった時。初めて、失ってはダメな相手なんだと気付いた。
はい、大好物ですね。そういうシチュ。
「それで、そのまま?」
「はい。本当に結婚しました」
ああ、ご馳走様だなあ。ももちゃんも完全には分かってないだろうけど、おじちゃんとおばちゃんが幸せに想い合ってるのは伝わってるハズ。嬉しそうに笑ってるもんね。
――キィ……ン……
どうかと思うよ。ランプの精さん。
「ひかり、すごくちいさい」
ホタルくらいだよね。
他人の不幸は蜜の味とは言ったものだけど、幸せなお話にも興味持って欲しいところ。
その後。エリーファさんと宿の外へ出たところで、彼女を待っていたショーフェンさんと合流した。ショーフェンさんは能面のように表情を殺していたけど……ふふ。中学でプロポーズしたオマセさんなのは知ってますからね。
「んん!」
咳払いをして威厳を保とうとしてもね。ももちゃんもジーと見上げてるし。
「我々は、今日中に発つ。世話になったな」
「またクエストか、アナタ方のランク昇格の時にでもお会いできましたら」
「はい。ありがとうございました」
「ばいばい!」
ももちゃんも最初はショーフェンさんにビビってたとは思えない、にこやか笑顔で手を振っている。
「さてと」
遠ざかるご夫婦の背中から視線を切った、その時。ももちゃんの手の中のランプがチカチカと光っているのに気付いた。
「わ。くるまのちかちかみたい」
確かに車のランプが点滅する様に似てる。
「これは……完了ってことなのかな」
なんとなく、満足した合図のように思う。そういえば、終了条件を詳しく聞いてなかったことに思い至った。
「一度、庁舎に戻ろうか」
「もどろうか」
ということで、ターンバック。回廊を通って、再び宮殿の中へ。中央階段へと向かう途中、メイドっぽい姿をした女性2人とすれ違った。会釈をしながら……さっきモノッキさんの陰口を叩いてた人たちかも、なんて思った。
階段を上り、フロア全体が執務室のようになっている2階へ。机についていたモノッキ市長が私たちの姿を認めて、優しげに笑った。
「お疲れ様。ああ、点滅までいってるね」
「お疲れ様です。これで良いんですか?」
「ああ。こちらへ」
言われるまま、魔法のランプを机の上に置いた。彼はそれに触れてキュッキュと側面を擦る。すると、光は収まり、ランプの口からジンワリと何かが漏れ出てきた。
「しんきろう」
「ああ、そうだ。張り替え分だね」
へえ、そうやって出るんだ。
「ついておいで」
モノッキさんがランプを持ったまま立ち上がる。執務机の奥、壁の所に小さな扉がある。それを開けると、すぐに小部屋に出た。階段しか無い部屋。
「ここを登ると、建物の頂上に出るから」
そう告げると、彼は先導して上っていく。無機質な石段と靴裏が触れ合う音。私たちも続く。少し急な階段なので、慎重に。
やがて1分もしないうちに、薄暗い階段に外光が差し込んでくる。そして、モノッキさんに続いて、外へと踏み出した。どうやらドーム屋根の端に設けられた、バルコニーと呼ぶにも満たない、やや張り出した小間のような場所みたいだ。
そしてそこから見える景色は……
「うわあ」
沈みゆく太陽が城壁に懸かり、そのオレンジの光が街を優しく照らしていた。さっき回った市は、少しずつ店仕舞いが始まっている。南の農地を這う水路がキラキラと瞬いていた。西の住宅街では、(学校帰りかな?)ローブ姿の少年少女が楽しそうに通りを走っている。
しばらく景色に見とれていたけど、モノッキさんが近くにある台座のような場所にランプを置く音で我に返った。
「ランプが出す蜃気楼は、約2週間かけて街を覆っていく」
今もなお、ランプの口からはモヤモヤとした陽炎のような空気の揺らめきが吐き出されている。これが来年のこの時期まで、街を守る神秘のヴェールとなるんだろう。
「こんなにきれいなのに、かくしちゃうの?」
「ああ。キレイな物は、たまに見られるからキレイなんだよ」
ももちゃんとモノッキさんのやり取りを聞くとはなしに聞きながら、私はそのたまの絶景を目に焼き付けるのだった。




