12-5:筋肉おじさんたちの話
おじさんたちに事情を伝え、協力をお願いする。これまでは私たちから頼まなくても、盗み聞き出来たり、向こうから話し掛けてくれたりだったから、初めて仕事してる感あるよね。
「話かあ」
「と、言われてもなあ」
その気持ちはよく分かる。いきなり面白い話なんて頼まれても、そう出てこないモンだよね。でもこの2人は矢印があるんだから、何かは持ってるハズ。
「あ、そうだ」
おじさんAが何か閃いた様子。やっぱりあったね。
「数日前の夜なんだけどよ」
「光るラクダを見たんだよ」
光る……ラクダ?
「あ、信じてねえだろ」
「本当に居たんだよ」
おじさんたちが不服そうに言い募る。
「あ、いや。疑ったワケじゃないんですけど」
突拍子も無かったものだから、つい。でもこの世界はファンタジー○○パワーが沢山あるからね。アクア族さんだって光るワケだし。そう考えたら、ごく普通のことのようにも思えてきた。
「仕事終わりに呑んだくれてよ」
「家に帰る途中でさ。ちょうどこの道だ」
おじさんは両手を広げて、今まさにリアカーを牽いてきた道を指し示した。
しかし吞んだくれた後となると。見間違いや妄想の線も、ちょっと出てきたかも。
「ラクダがノシノシ歩いてたんだけど」
「どう見てもコブの所が光ってんだわ」
「ビックリして酔いが醒めちまったよ」
「それで、俺たちが固まってると、フッとどこかに行ってしまってな」
「ラクダがですか?」
「いや。ラクダじゃなくてな」
「光だけ飛んで行ってしまったんだ」
ええ……ますますよく分からない話だ。怪奇現象、と言っても、この世界ではやっぱり今更だしなあ。
「どこにとんでいったの?」
「分からん」
「呆気に取られてたしな」
そして残されたラクダは何事も無かったかのようにノシノシ歩いて、西の住宅街へと消えて行ったみたい。恐らく誰かの持ちラクダで、その個体自体に変なところは無いと思われる、とのこと。
「なんかあるなら、今頃騒ぎになってるだろうからな」
「自分の所のラクダが光るようになったら、飼い主も市長に相談するだろう」
それが無いということは、確かにラクダ自体は普通で、光に一時寄生(?)されてただけ……なのかな。
これがホラーとかSFだったら、そのラクダの脳に実は取り憑いてて、みたいな展開もありそうだけど。
「まあこのマホロバは、それこそ」
おじさんAが、私の持つ魔法のランプを見やる。
「何が起きても不思議じゃない街だけどな」
おじさんBも、そうニヒルに笑って話を〆た。
2人は私たちに軽く手を振って挨拶とし、リアカーを押して去って行った。
「らんぷさんは?」
――キイイン
あ、普通くらいだね。まあでもキチンと光ってるから、着々と満足度は上がってるハズ。
私たちは今度は西へと向かうことにした。
西の住宅街は土壁の建物がズラリと並び、各々ほとんど見分けがつかなかった。ここに住んだら、私迷いそうだなあ。
ただ無計画に作られてる感じじゃなくて、碁盤目状になってるっぽいから、ももちゃんなら分かるかな。
「ももちゃん、地図見て、ねえねを案内してくれる?」
「うん、いいよ」
素直で優しい、私の天使。時々叩かれたりするけど。
というワケで、一本ずつ通りを攻略していく。途中で2人ほど矢印の人を見かけた。
1人目はケガから再起するために奮闘している青年のお話。家族が献身的で、青年も凄く感謝していて、とても素敵なエピソードだなと感じたけど……こちらを聞き終えたランプの輝きは小さめ。
2人目は財布を農水路に落としてしまい、それを拾おうとしたら自分も落っこちてしまったお父さんの話。助けようとした息子さんまで落ちて、ずぶ濡れで帰って来たと、奥さんが呆れ顔で話していた。こちらに対しては、物凄い食いつきでランプは大きな光を放っていた。
「……」
もしかしなくても。このランプの精は、人の情けないところとか失敗談が好きみたいだ。ウチのパパの粘土人形が酷い目に遭った話、モノッキさんがマザコンだと陰口叩かれている話、市民2人目の水路転落の話。
逆に感動系とか、教養系はピンと来ない印象だ。インバウンドと地元疲弊の話、光るラクダの話、市民1人目のリハビリ青年の話。
「うーん」
どうも性格がアレだなあ。ランプの精さんは。
人の欲望やらに触れすぎて厭世的になっているという見立てだったけど。人自体への興味は失ってないながら、ちょっと歪んじゃってるのかも。
「まあ気を取り直して行きましょう」
「? いきましょう」
ももちゃんと最後の通りを歩く。一番東から進んで来たので、残りは最西のみ。ここには宿が4軒ほどあった。宿場通りって感じかな。そのうちの1つに入ったところで矢印を携えた人を見つける。ご夫婦らしき男女……ていうか、ショーフェン師団長とエリーファ侍従長の2人だった。
「おや、キミたちか」
「クエストでしょうか」
「はい。ご無沙汰して……いえ、こんにちは」
私たち基準で言えば、2日空いてのプレイだけど、この世界の住人的には翌日くらいじゃないかと思われる。
「こんにちは。おじちゃんたち、なかよしだね」
実は2人、手を繋いでいる。ちょうど出掛けようとしていたところらしく、完全にデートの雰囲気だ。
「ああ、これは……」
決まり悪そうにショーフェンさんが手を離す。
「あ、いや。そんな」
邪魔する気なんて無かったのに。
と思ったら、メイド長さんは普通に旦那さんの手を握り直してしまった。こういう時は大体女性の方が強いよね。ショーフェンさんの方が少し照れてしまっている様子だった。
「私たち、今日で王都に帰りますので。それで最後に観光をと思っていたんです」
「素敵です」
中年のご夫婦がお仕事で一緒になって、僅かな時間でプライベートを楽しむ。厳密には「勤務時間中でしょ?」という話だけど、こういう息抜きは可愛いし、許される社会であって欲しいなって。
「……それで。キミたちはクエストか?」
ちょっと硬い声で威厳を保とうとするショーフェンさん。隣でエリーファさんがクスクス笑っていた。
「はい。実は……」
私はクエストの内容を話した。




