12-4:市のおじさんの話
隣のケバブ屋さんでも軽くぼったくられ(ケバブサンドが1200Gでした)、ヘロヘロになった私たちは市場の端にあるベンチへと腰掛ける。まあ、ももちゃんはどこ吹く風で、ストローを粘土で形成してるけどね。
「はい、ねえね」
「ありがとう……」
はあ。サンドは半分こだからマシだけど、ジュースはやっぱり痛いなあ。合計6200Gっていうと、前回の報酬は飛んじゃってる計算だし。
――じゅー!
ももちゃんが口をすぼめてジュースを飲む。アナタは気楽で良いねえ。
まあ私もクサクサしてても仕方ないか。もう買っちゃった物なんだし、せめて味あわないとね。
――じゅー!
うん。甘い。独特の香りもあって美味しい。濃厚なんだけど、それでいてサラッとしてるんだよね。
続いてケバブサンド。こちらは半分に千切ったヤツだけど、こちらも美味しい。羊かな? 肉肉しいけど、割としつこくない。パンもフカフカで良い感じだね。
「おいしー」
ももちゃんも喜んでる。
と、そこで。誰かベンチに近づいてきた。私たちと同じ休憩目的かなと思って顔を上げると、
「あ」
ヒゲのおじさんの頭の上に、矢印マークがついていた。イベントだ。
彼はゆっくりと私たちの前まで来ると、ベンチの端に腰掛けた。
「災難だったな」
開口一番、そんなことを言う。
「災難?」
「残念ながら、この街は今一番の書入れ時だ」
あ、ああ。なるほど。
「観光客は、まあボッタクられる運命だな」
そういう話みたいだ。もしかしたら、市で買い物をしてインバウンド価格の洗礼を浴びないと、このイベントは起きないのかも知れない。
「昔はなあ、違ったんだけどな」
なんか1人で話しちゃう人だな。私も相槌を打つタイミングを逃しちゃう。
――もちゃ、もちゃ
ももちゃんは元よりケバブに夢中で聞いてないけどね。
「この街に来てくれる人には、むしろ良心的な価格で商品を売っていた」
「そうなんですね」
「昔はそこまで人も来なかったから、上手く回ってたんだけどな……」
おじさんはアゴヒゲを撫でつけながら、
「ある日、市長が画家の先生を招いてな。レッガンという凄腕の画家だ」
「れっがんおじちゃん?」
知ってる名前が出てきて、ももちゃんも少し話に興味を持つ。
だけどそうか。レッガン先生、ここの絵を描いたって言ってたもんね。
「その絵のおかげで、この街の認知度は上がったワケだから、市長の目論見は実ったということになる」
「けど、その弊害が出てきた?」
おじさんは小さく頷き、
「観光客の中には、絨毯に乗って空から物を落とす者、飲み食いした後のゴミを街中に捨てる者。挙句には中央のオアシスに飛び込んで泳ぎだす者まで出てきてしまってな」
うわあ、酷い。
「ある種、みんなこう思ってるんだ。迷惑料も乗せた金額だと」
うーん。そうなっちゃうよねえ。最悪でも清掃代は街負担にはしたくないもんね。気持ちはよく分かる。
「観光客が居なければ、我々の豊かな暮らしもいくらか減じてしまう。来てもらわないと困るのも事実なんだ」
「はい」
「だからこそ、優良な観光客までボッタクってしまうのは良くないんだ」
そう言って、おじさんはローブのポケットに手を入れる。中から何かを取り出したみたいだ。こちらに向けてくるので、少し警戒しながらも掌を出した。そこに載せられたのは……鈍いピンクのコイン。
「ふらわーこいんだ」
「ああ。同胞の詫びだと思ってくれ」
「わあ、ありがとうございます」
おじさんは満足げに頷くと、そのまま立ち上がった。
「この街を嫌いにならないでくれよ」
そう言い残して、去って行った。
うーん、やっぱりどんな街も色々あるんだなあ。
「ねえね、らんぷさん」
ももちゃんの言葉に、ランプを見やる。さっきの2回より、かなり控え目な光を放っていた。そこまでお気に召さなかったということかな? どんな話でも好き説はハズレかも。
私たちは残りのサンドイッチとジュースを平らげると、近くのゴミ箱にちゃんとゴミを捨ててから。
「よし、行こうか」
「うん」
次なる矢印さんを探しに向かった。
次は南へ向かった。確か、農業や畜産をやってるという話だったけど。
市を抜けて20分近く歩いて、ようやく到着した緑の畑。どうもオアシスから水を引いてるみたいで、畑の間を水路が網目のように這っている。
「へえ。これなら色んな作物が育ちそうだね」
砂漠気候と言われて想像していた農地。それより遥かに緑豊かだった。小麦の穂や、トマトの赤い実も見られる。あとチーズがあれば、ピザが作れそう。
「さっきのんだじゅーす」
「そうだね。ヤシの木も生えてるね」
群生しているので、間違いなく人工管理されてるね。
私たちは畑の周囲を散策していく。中で作業をしてる人は何人か見かけるけど、誰も矢印はつけてなかった。
「うーん。ハズレなのかなあ」
と、落胆しかけたところで。私たちが来た方から、ガラガラと大きな音がする。振り返るとリアカーが追いかけてきていた。積み荷は空だから……多分だけど、市場に作物を出荷した帰りって感じかな。
押しているのは筋肉おじさん2人。その頭上には矢印が浮かんでいた。良かった、空振りじゃなかったみたい。
「おーい、嬢ちゃんたち。どいてくれー」
「轢いちまうぞー」
悪いけど、そうはいかないんだよね。お話聞かせてもらいます。




