11-7:マント復活です
しばらく無言で「ギュッギュ」とやっていたけど、やがて疲れたのか、ももちゃんは尻餅をついてしまった。
「交代する?」
「うん……」
意外にしんどいのね。ていうか、多分だけど蜃気楼が逃げ回るのもあるんだろうな。何度か跳ねてタオルを裏側から叩かれたし。
今度は私が揉み込み番で、押さえる係はエリーファさんだ。
――ギュ、ギュ
あ、これ、滑るや。しかも思った以上に。
「ももちゃん、ゴム手袋作って」
言いながら、検索窓を開く。画像を出すと、ももちゃんは小さく頷いた。
「指の所にツブツブが無いと、多分ダメだと思う」
「うん」
手袋は色んな種類があるから。ツブツブで差別化をしないと、汲んでくれないかも。
ももちゃんは虫捕り網を解体し、それをコネコネ。手袋の形へと成形し、小さく千切った欠片を丸めて、滑り止めのツブツブを作る。それを指の腹の部分へポチポチと乗せると、徐々に具現化を始めた。
「ほお。俺のガントレットなんかとは全く違う素材だな」
完成したゴム手袋を見て、ショーフェンさんが驚く。まあ無骨な鉄篭手と比べたらね。
ももちゃんから受け取ると、早速嵌めてみる。うん、良い感じだね。
「それを着けたら、滑りにくくなるのですか?」
「はい。このツブツブが蜃気楼に吸着してくれるハズ」
ということで、グワシと掴んでやる。ちょっと踊るけど、なんとか掌中に収められる。それを持ったまま、マントに擦りつけた。そして丸ごと、ギュッギュと揉む。
「うん」
確かな手応え。少し蜃気楼の方が小さくなった感覚がある。ていうか、今更だけどマントに揉み込むと吸収されるって……どんな原理なんだろう。
――ギュ、ギュギュ
「中々、良いペースのようですね」
「ゾード氏は、半日仕事になるだろうと言っていたが」
魔道具研究家のゾードさんだね。確かにこの手袋が無かったら、滑りに滑って大変だろうし、かなり時間はかかったと思う。
「ももちゃんの粘土は本当に素晴らしいですね」
褒められて、ニコニコ笑うももちゃん。
「どれ。そろそろ代わろう」
「あ、ありがとうございます」
ショーフェンさんが代わってくれる。それから彼は物凄いスピードで揉み込み作業を進める。
「掴めさえすれば、ウチの人は力がありますから」
あ、そういえば。
「ご夫婦だったんですよね」
聞いて良いか分からなかったので、そっとしてたけど。モノッキさんとの会話で彼も明言してたし、今も特に隠す雰囲気でもなかったので振ってみる。
「ええ。もう30年以上も連れ添っていますよ」
「しょーふぇんおじちゃんと、めいどちょさん?」
「そうだよ。ウチのパパとママと同じなの」
「ふうん。なかよしさん」
「そうだね」
ご夫婦は揃って苦笑する。
「公の場では、あまりそういう雰囲気は出さないようにしていますが」
「結構、知らない相手にも悟られる」
不思議そうにしてるけど……なんか凄く仲良いのが伝わってしまうんだよね。あの馬車での会話イベントとかが無くても、なんだかんだ気付けたと思う。
「なかよし、いいことだよ?」
隠さなくても良いんじゃないか、と言いたいんだろうけど。
「大人は立場があるからね」
「ふうん?」
出たね。分かってない時の生返事。
それから数分、ショーフェンさんが揉み込みを続けるが……
「ももちゃん、ふりまみにいっていい?」
「ダメよ、ももちゃん。みんな頑張ってるんだから」
「ん~」
まあ当初の予定より超大幅短縮が出来そうだけど、それでも1時間くらいはかかりそうな見込み。3歳児には厳しいか。
と、見透かしたかのようなタイミングで、
『作業完了までスキップしますか?』
救いのメッセージが。
当然『はい』をタップするが、
『クエストの一部を放棄するため、報酬の減算があります。本当にスキップしますか?』
という注意書きが。
ああ、そうなるのね。まあそうだよね。クエスト内容は『インビジブルマントの修理』なのに、その途中でスキップする形だもんね。
「……」
まあ仕方ないか。このまま勝手に市の方に行かれても困るしね。もう少し、ももちゃんがお姉さんだったら我慢してくれたと思うけど。
私は嘆息して『はい』を押した。
すぐさま暗転、そして2秒ほどで晴れた時には、
「ふう。なんとか終わりましたね」
メイド長さんが疲労の滲んだ声で告げた。なんか凄い罪悪感だよ。スキップ中の時間は存在しないものという扱いだけど……どうしてもね。
「それじゃあ、早速」
「着てみましょう。効果が戻っているか」
ショーフェンさんがエリーファさんにマントを着せる。あ、乾燥も終わったところまでスキップしてたんだね。
羽織った先から、彼女の体が見えなくなっていく。腕が消え、胸元が消えて、顔まで。
「凄いね」
「なんかちょっと……こわい」
そうだね。カルアちゃんの時は脱げるところしか目撃しなかったからね。着るパターンはちょっとずつ体が消えて行くみたいで、確かに少し不気味さも感じてしまう。
「よし、良いだろう」
夫の言葉に、エリーファさんは自分でマントを脱いだ。途端に、体全部が現れた。
「はい、それでは……今回のクエストは達成ですね」
「助かった。礼を言う」
「あ、いえいえ」
スキップして半分放棄した手前、大々的に感謝されるのも忍びない。
……ももちゃんは何故か、いばりんぼポーズしてるけど。アナタが我慢すれば文句ナシの完全達成だったんだよ?
「さて。この後だが……俺たちは1泊だけして、明日にも王都に戻る」
「王家の宝をずっと持ち出しているのも気が休まりませんからね」
それはそうだろうね。
移動続きで疲れてるだろうし、早速宿を取りに行くんだろう。ということは、ここでお別れかな。
「ギルドは先程の市庁舎の1階に入っています」
「そこで報告をしてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとございます」
私たちは2人に手を振って、見送る。
「私たちも疲れたし、宿じゃないけど、お家に戻ろっか」
報告はまた次にしよう。ももちゃんも移動に次ぐ移動、そして3つもアイテムを作ってくれたし、お疲れだろう。
「うん……おなかすいた」
だねえ。
今日はかなり運動したし、晩ご飯は少しだけ多く食べさせてあげたい。ママと交渉だね。
そうして、私たちも砂漠の街からログアウトした。




