11-3:巨大生物接近!
関ではバッジの提示だけで通行許可が下りた。まあ王城のハウスキーパーと師団長が一緒だからね。身分はそれだけで保証されてるようなものだし。
ただ砦を抜けたは良いけど。その先は、どこまでも砂漠が広がるばかりだった。地平線の辺りは陽炎で揺れていて、あれがまさに蜃気楼なのかと錯覚するほど。
「街なんて、本当にあるんですか?」
思わず聞いてしまうよね。ショーフェンさんは小さく頷いて、
「もうじき、やって来る」
と、だけ。何が、と聞き返す前に。その大きな影は現れた。地平線の向こうから、巨大な何かがこちらに向かって飛んでくる。
「わ、わ!」
「ぷてやのどん!?」
言われてみれば……大きな体の左右に広がる、これまた大きな両翼。頭は少し長くて……いやでも、恐竜じゃないような。
「怪鳥ルッフ」
「マホロバへの案内人、ならぬ案内鳥ですよ」
そっか。確かに大きな鳥だ。飛ぶスピードも凄いみたいで、みるみる大きくなってくる。ていうか、遠近感が取れない。陽炎の向こうからいきなり現れたと思ったけど、その時点で結構こっちに近かったみたい。
――ぴゅい~~!
よく響く鳴き声。
うう、ぶっちゃけ結構怖い。けど夫婦の2人が落ち着いてるし、大丈夫なんだと思う。半子供向けゲームだし。
――ぴゅい~~!
降りて来た。怖い怖い。思わずももちゃんを引っ張って後ずさるけど、逆にももちゃんは「ぷてやのどん!」と叫びながら前に出ようとする。
ゆっくりとホバリングして着地した怪鳥。風がブワッと舞って、目に少し砂粒が入った。あいたた。こんなところまで再現されるのね。
ももちゃんを掴んでいない方の手で軽く目を擦ってから。改めてルッフの姿を見る。
「うわあ……」
正確には分からないけど、体長10メートル以上はあるね。ちょっと現実感が湧かない。ももちゃんも流石にこの近さでこの大きさとなると、少し気後れしたみたいで、大人しくなってしまった。だよね、怖いよね。
と思ったんだけど、
「ぷてやのどんじゃない……」
あ。それで落ち込んでただけか。なんというか、肝が据わってるよ、我が妹は。やっぱり将来は大物かも。
怪鳥はそっと膝を曲げて体勢を低くする。その背には大きなドームテントが括り付けられていた。中に何が入っているのかと思えば……扉が内側から開き、人が出てきた。白いローブを着て、ターバンを頭に巻いたオジサン。ドバイの石油王さんみたい。
そんなオジサンがゾロゾロと5人くらい出てきた。
「この時期は、マホロバ側からもよく人が出る」
「交易や、里帰り。理由は様々ですが」
ご夫婦が解説してくれる。なるほど。ということは怪鳥ルッフは砂漠での交通機関を担ってるんだね。
やがてオジサンたちは大きなリュックを背負い、怪鳥の背から降りてくる。尾羽を伝うと危なくないみたい。
「私たちも参りましょう」
メイド長さんが歩き出すので、私たちもそれに続く。歩くたびに砂がグニャグニャと足裏を包む感じ。慣れないなあ。
降りてきたオジサンたちと会釈をしてすれ違い、尾羽へと辿り着く。
うーん。いざ自分の身を預けるとなると、やっぱ怖い。羽根だもんね。
けど尻込みする私に構わず、ご夫婦はサッサと乗ってしまう。そのまま普通に歩いていく。
だ、大丈夫みたいだね。
「ねえね?」
「あ、うん。行こうか」
ももちゃんと手を繋いで、尾羽に恐る恐る爪先を乗せる。意外にもシッカリした感触が返ってきた。想像以上の耐久度らしい。そのまま全体重を乗せても、羽根がしなることはなかった。歩いていく。鳥のお尻の辺りまで来ると、足裏の感触が変わった。体温と柔らかさが伝わってきて、否が応にも動物の背に乗っているんだと実感させられるよね。
「おすなもあつかったけど、とりさんもあったかいね」
「うん。現実の鳥さんも触ったらあったかいよ」
現実にはここまで大きな鳥さんは居ないから、足で感じることは出来ないけどね。
……しかし、見た目とは裏腹にとても大人しいね、この怪鳥。
「非常に賢い鳥です。人に危害を加えた事例は、反撃以外はありませんから」
私の内心を読んだようなタイミングで、メイド長さんがそんなことを教えてくれる。
反撃はされちゃうんだね。ももちゃんが悪ふざけしてペチペチしまくったりしないように見ておかないと。
そのまま数メートル、背中の登り坂を踏破すると、オジサンたちが入っていたテントに到着した。近くで見ると、ポールとかも無さそう。なのに風で飛ばされることもなく、布に綻び1つ無い。ファンタジーテントパワーか。
中へ入ると、幾何学模様の絨毯が敷いてあった。ここにオジサンたちは座ってたんだろうね。
私たちも車座のようになって座る。
――ぴゅい~~!
怪鳥ルッフは1つ大きく鳴いて、それを合図に離陸した。
「わあ」
ももちゃんが少しよろけて、私の方に倒れてくる。そのまま小さな頭を太ももで受け止めた。
ゆっくりと後方にGが掛かる。
「からだひっぱられてるみたい」
ももちゃんも、ちょっと気持ち悪いらしい。確かに酔いそうだよね。
是非ともスキップ機能を……
『マホロバの街までスキップしますか?』
良かった。出てくれた。遠慮なく『はい』を選択させてもらうと、すぐに暗転。それが晴れると、
「着いたな」
ショーフェンさんが、落ち着いた声音で告げる。体に掛かるGもかなり減っていた。
ルッフはホバリングしてるみたいで、ゆっくりと高度が下がっていくのが分かる。今度は上下のGだけど、さっきよりは全然緩やかだね。
「さあ、ここから見える眺めは絶景ですよ」
言いながら、メイド長さんがテントの窓を指さす。ももちゃんを抱っこして近寄ると……視界に飛び込んできたのは、息を飲むような光景。
「うわあ」
巨大なオアシスを囲む、白亜の回廊。北側にはドームを戴いた、同じく純白の宮殿が鎮座している。濃淡の美しいコバルトブルーの湖面に建物が映り込んでいて、まるでそこにも宮殿があるみたいな。そのオアシスと白亜の回廊の周りには土造りの家々が建ち並び、こちらも粘土で精巧に模られたような美しさがある。更にその外側には石造りの高い外壁が聳え立っていた。
街全体が美観の箱庭みたい。そして上からの視点じゃないと、その全貌は見渡せなかった。つまり、怪鳥に乗って遊覧するところまで含めて観光設計されてるんだ。
「……」
ももちゃんも静かに見入ってる。
そうして。ルッフが高度を下げ、静かに着地するまで、私たちは絶景を堪能したのだった。




