11-2:真夜中の会話イベント
それから、メイド長さんと私たちは再び1階へ下りる。そこには大きなバッグを背負った40代くらいのオジサンが居た。部分鎧を着けてるし、兵士さんかな。
彼はメイド長と少し目を合わせた後、私たちの方に向き直る。
「う」
なんか眼光鋭い感じで、思わず気圧されてしまう。
「第4師団長のショーフェンだ……メイド長とキミたちの護衛を任されている」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ペコリと礼をして、私たちも名乗る。ももちゃんは少し怖がってるのか、私の足元に隠れ気味。
「ショー……師団長。もう少し柔らかく。子供が怖がっていますよ」
「あ、ああ。この顔は生まれつきだ。許せ」
少し困ったような表情になって、そこでももちゃんも少し警戒を解いた雰囲気だ。怖い人じゃ……なさそうかな?
ていうか、今。メイド長さん、ショーフェンさんのこと名前で呼びそうになって、慌てて役職で言い直したね。プライベートでは仲が良いのかも。
「それで……馬車は用意できていますか?」
「ああ。兵舎の前に停まらせている。すぐ出れるぞ」
準備万端みたいだ。
ショーフェンさんの先導で、私たちは早速出発する。ももちゃんも「大丈夫そう」と判断したのか、私の足元から離れ、テクテクと歩き始めた。後ろからショーフェンさんのフットアーマーをジッと見つめてる。カチャカチャ鳴るのが気になるみたいだね。
私たちはそのまま、お城から少し東の兵舎まで歩いた。迷子のベシーちゃんを捜して辿り着いた時は凄く遠いイメージがあったけど、お城からならメッチャ近い。まあ当たり前か。有事の際に、兵士さんの到着まで掛かり過ぎるようじゃダメだもんね。
――ひひーん
――ぶるるる
馬2頭立ての馬車だ。
ショーフェンさんが先に荷台に乗って、そこから私とメイド長さんを引き上げてくれる。ももちゃんもヒョイと抱え上げて乗せると、そのまま自分は御者席へ。
「ありがとうございます」
「ござます」
強面だけど、普通に優しい人だね。
メイド長さんは特に何も言わず、馬車の奥に座った。なんかやっぱり気安い感じというか、ショーフェンさんとの間ではこれくらいの親切は日常茶飯事のような。
「座ってくれ。馬車を出せない」
御者席から言われ、私たちも慌てて座る。
それを確認して、ショーフェンさんは馬にムチを入れた。軽く嘶いた後、馬たちが走り出す。
と、すぐに。
『マホロバ砂漠までスキップしますか?』
出たね。一応、メイド長さんに訊ねたところ、1日半かかる旅程とのことで。スキップ以外の選択肢は無かった。残念だけど『はい』を選択する。
途端に視界が暗転して……明けて。ん? なんか暗いままだね。ていうか、いつの間にか私たち、荷台の床に寝転がってるし。体に毛布まで掛けてある。
今までに無かった展開だ。光の魔石がボンヤリ灯る車内で、ももちゃんと一緒に不思議がっていると……
「しかし懐かしいな。マホロバか」
「そうですね。20年ぶりですか」
ん? 馬車の外からかな。会話が聞こえる。
多分、というか声からして。メイド長さんとショーフェンさんだね。
「新婚旅行の候補だったな、確か」
「はい。けど時期じゃありませんでしたから」
これは……そうだったのね。
ご夫婦だったというオチみたい。
「上の子がカルア姫くらいの時に連れて来たんだったか」
「はい。けど全く覚えていませんよ」
「なんと甲斐の無い……」
そこで2人とも、小さく笑い合う間があって。
「……カルア姫も来たがっていましたね」
「まあ年に2週間だけ見える街なんて聞いたらな。あのお転婆姫は黙ってないだろう」
「流石に連れて来るワケにはいきませんが……お土産でも買って帰ってあげましょう」
「なんだかんだ、姫にも甘いな、オマエは」
「もちろん、良い子にしていたらの話です。私の目が無いのを良いことに、またイタズラをしているようなら……」
隣で聞いているももちゃんがビクッとなる。つまみ食いのトラウマを思い出したのかも知れない。
そっと抱き着いてくるので、その小さな頭を撫でた。
それから数分ほど、夫婦の取り留めのない話を聞いていると。再び視界が黒くなる。再暗転って感じかな。それが晴れると……
「ん。眩しい」
日の光が車内に差し込んでいた。そして少し暑い。多分だけど、マホロバ砂漠とやらの近くまで来てるんだ。
となると、さっきのはやっぱり変則的な会話イベントだったんだね。2人の関係と、カルア姫もなんだかんだ愛されていることが分かる温かいイベント。
いつかカルアちゃんや王族の人たちも外遊みたいな感じで他の街や国を回れたら素敵だよね。
「さあ、着きましたよ」
メイド長さんの言葉に、私は体を起こす。抱っこしていたももちゃんも身動ぎ……っていうか、なんか目がトロンとしてる。盗み聞きしてる間、私の抱っこで安心したのと暗かったので、眠くなっちゃったんだね。条件反射で生きてるね。
「ほら、ももちゃん。起きて、起きて」
頬を優しくペチペチする。半分閉じてた瞼がゆっくりと持ち上がった。
「マホロバ砂漠に着いたって。寝てたら置いて行かれるよ?」
脅した途端、ピンと立ち上がる。可笑しくて笑ってしまったけど、メイド長さんも鼻から息を漏らしていた。やっぱりカルア姫には(立場上)厳しかったけど、元来は子供好きなんだろうね。
やがて馬車は減速し、ゆっくりと止まった。ショーフェンさんに降車を促され、荷台の後ろに引かれたカーテンを開ける。
「うわ。日差しが強いね」
「つよいね」
御者席から回って来たショーフェンさんが降車を手伝ってくれる。地面に降り立つと、靴裏には柔らかい感触。
「すなば?」
あながち間違ってないよね。
メイド長さんも降りて来た。ショーフェンさんは馬車を停めてくると告げて、御者席に取って返す。
「ここは」
「砂漠の入口にある関です」
なるほど。来た道の方を見ると、赤土の大地が広がってる。徐々に土の目が細かくなっていって……砂地に変わり、それが広範囲に及んで、砂漠を形成してるんだね。
ちなみに王都からは、北東の辺りに位置しているみたい。
「関と言っても、小さな岩砦ですが」
アクアニルスの時も関はあったけど、アレよりは立派に見える。
と。砦のドアが開いて、中から兵士が出てきた。暑いのにヘルムも被ってるよね。彼(?)は私たちの前まで来ると、敬礼をした。ちょうどショーフェンさんも馬車を預けて合流してきたところだったので、そちらにも彼は礼をする。
やっぱり中央の師団長やメイド長と、僻地の砦勤めだと上下関係が明らかだね。あんまりゲームでこういうの考えたくないけど。
「びしっ!」
敬礼のマネをするももちゃんを見て、少し癒やされた。




