15-8:ばいばい! マホロバ
翌日。昨日の感動的な景色の興奮も、まだ胸のどこかに残ったまま。私たちはブロクエの世界へと飛び込んだ。今日はマホロバ最終日になるからね。色々回ろう。
昨日ログアウトした新聞社前からだった。まずは社屋を覗いて、トロンカさんに挨拶をする。
「そっか。もうこれがマホロバでの最後の日になるのね」
「はい。クエスト5つ達成しちゃったんで」
「まだまだ取材の手助けをして欲しかったんだけど……仕方ないわね。元々、外の人だもの」
と言いながら、トロンカさんはももちゃんの頭を撫でる。最初に比べて、ももちゃんもスンナリ受け入れていた。
「また来年、遊びにおいでね」
そんな優しい言葉に見送られ、私たちは社屋を後にした。
と、そこで。
「ああ、居た居た。幸奈、ももちゃん」
ルアンミさんと出くわした。というより、私たちを探していてくれたみたいだ。
「今日、発つんだろう? アンタたちに一言礼を言いたくてね」
朗らかに笑う。
「おむね、もういいの?」
「ああ、すっかり治ったよ。フジョルが少し拗ねてたけどね」
彼も納得済みではあったけど、こうも簡単に治っちゃうと、やっぱり複雑なのも分かる。
「でも、あの子にも、もちろん感謝さ。今までの治療が無かったら、ここまで持ちこたえてたか分からないんだから」
「はい」
絶対に意味はあったよね。
「ああ、そうだ。これ」
ルアンミさんが何か渡してくる。受け取って見てみると、
「ふらわーこいん!」
1枚、貰ってしまった。
「感謝の印だよ。受け取っておくれ」
一瞬、遠慮しそうになって。彼女の優しい笑みに、言葉を引っ込めた。代わりに、
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
そう告げて、彼女ともお別れをした。
南へと下る。城壁が近くなったことで分かったけど……既に少しずつ、景色がボヤけ始めていた。新たな蜃気楼が広がっているんだ。
「こんどは、こるっふちゃん?」
「うん。子ルッフと、オロミドさんたち」
農地に踏み入り、どんどんと進む。私でも覚えられるくらい簡単な道のり。やがて小屋に着くと、ちょうど散歩させようとしていたのか、子ルッフたちを連れたオロミドさん&旦那さんの姿が見えた。
「おや。幸奈にももちゃん」
「挨拶に~来てくれたのか~?」
「はい。今日で出発なので」
「おうとにかえっちゃうの」
「そっか、まあ仕方ないね。ほら、子ルッフたちに触っていくかい?」
近くの子ルッフが寄ってきて、ももちゃんを見つめる。抱き上げて、顔に近付けてあげると、幼児と幼鳥が頬擦りをした。癒やされる光景だね。
結局、ももちゃんも私も全羽とチークを交わして挨拶とした。
「次来た時は、何羽かは倍くらいの大きさになってるよ」
そんなことを教えてもらって、度肝を抜かれたよね。
………………
…………
……
街の東も回ってみると。観光客の姿がほとんど無く、数日前より落ち着いた雰囲気だった。売り子さんも声を張り上げていない。人々が顔見知りの店で日用品を買う、地元民だけの市場。貸絨毯屋さんのテントは大きさが半分くらいになってたよね。
そのまま私たちは回廊へと向かう。庁舎に入る手前で、また侍女さんたちのお喋りが聞こえてきた。モノッキさんのマザコンエピソードかな。真相を知ってる私とももちゃんは顔を見合わせ「にしし」と笑った。
靴の中の砂を落として、東口からお邪魔する。このマナーも、これで最後だね。
「お、幸奈にももちゃん」
「挨拶回りか?」
ティングス&フィングスの双子と会った。大きな荷物を抱えている。聞けば応接室の模様替えをしているんだとか。応接室なんてあったんだね。
「昨日は凄かったな」
「中々できねえ体験だったぜ」
嬉しそうな2人。なんだかんだ、一番お世話になったかも知れない人たちだけど、恩着せがましさは皆無だ。本当にナイスガイ兄弟だね。
「次来た時は、美味い飯屋に連れてってやるよ」
そう言えば、ぼったくりに辟易して、この街ではグルメ探訪はしなかったね。ももちゃんの目がキラキラ輝く。
「サソリ料理の名店があるんだ。行こうぜ」
「……」
輝きが消えるももちゃん。
それを見て「わはは」と豪快に笑うオジサンたちは最後まで気の良い兄弟だった。
2人と別れ、中央階段を上るも……モノッキさんは今日も姿が見えなかった。仕方ない。最後のご挨拶にギルドを訪れる。
「こんにちは」
「ちは」
「よく来たね。待ってたよ」
「こんにちは、幸奈さん。ももちゃんさん」
バナーリヤ&フジョルの幼馴染ペアが待っていた。カウンターの中には入っておらず……手を繋いで立っている。
「あ、おててつないでる!」
「もしかして」
私たちが囃し立てると、2人ははにかむように笑った。
「結婚することになったよ」
「あはは。お付き合いをすっ飛ばしてしまいました」
「ええ!? あ、でも。良いかも」
お母さんのことがあったのは分かるけど。それにしたって煮え切らなかった2人。もう婚姻で縛るくらい強引に進んじゃった方が良いのかも。
それから、2人とは少しだけ話した。あの美しい蒼光の舞う中、フジョルさんからプロポーズが行われたとのこと。ご馳走様だね。
最後に昨日のクエストの完了印を押してもらって、報酬も受け取って。
「寂しくなりますね」
「また来てよ。今度は美味しい店で一緒に食べよう」
「さそりさんはいらないよ」
「え? サソリ?」
「肉料理のつもりだったんですが……」
先程からかわれたことを話すと、2人は大笑い。ももちゃんは少しだけむくれていたけど、最後に2人に抱っこされた時は満面の笑顔だった。
怪鳥ルッフの復路便、その出発時刻が迫っていた。みんな仕事の手を止めて、駆けつけてくれていた。オロミドさん、旦那さん。ルアンミさんとケガ明けのメックオルくんまで。トロンカさんに筋肉兄弟。そして一緒について来てくれた新婚さんたち。
「モノッキさんも来てくれたら良いのにね」
「まあマザコンだから」
事情を知らない人たちが、そんな話をしているけど。
きっと……いや、恐らく。彼らは。
「ルッフが出るよー! 早く乗ってー!」
係の人に急かされ、私たちは慌てて怪鳥の背を駆け上がる。そのままカゴに入った。すぐに往路でも感じた浮遊感。翼の音。みんなの声もかすかに聞こえる。私たちは窓へと張り付いた。
下を見れば、手を振るみんな。そして少し視線を上げて、北の方を見れば。
「あ。あおいひかり」
宮殿の屋根の近く、淡い青と、その隣に人影。遠くてよくは見えないけど、手を振ってくれているようだった。
やっぱり。ちゃんと見送ってくれたね。ももちゃんもニコニコしながら、
「ばいばーい! ばいばーい!」
繰り返し、別れを惜しんでいた。
私も一緒に街全体へ手を振って。
「ばいばい、マホロバ」
お別れを言った。
怪鳥は高く舞い、最後に美しい街の全景を目に焼き付ける時間をくれてから……反転し、加速したのだった。




