15ー4:光が次に来る場所
「昨日の深夜のことっす。自分は部屋で寝ていたっすが……なんかケガしてる足が疼くようなむず痒いような感覚がして、目が覚めたっす」
左足の方を、軽く掌で叩いたメックオルくん。今は本当になんともなさそうだ。
「最初は月明かりかなと思ったっす。窓から差してるのかなと」
でも、と続けて。
「青い光だったっす。凄くキレイな色。それが自分の足を包んでいたっす」
「それで?」
トロンカさんが、前のめりになる。
「咄嗟に叫びそうになったんすけど……踏みとどまったっす。なんか上手く言えないっすけど、そんなに悪い物に思えなかったというか」
オロミドさんの旦那さんと同じような感想みたい。
「あったかくて、気持ち良くて……これは自分の足にとって必要なことなんだなって。そんな風に直感したっす」
そして、それは正しかったということ。
なにせ、この快方ぶりだもんね。
「光は、キミを治してどうなったの?」
トロンカさんが訊ねると、青年は大きく頷く。
「消えたっす。そして次の瞬間には、窓の外が光ったっす」
「それは、どっちの方角?」
「北っす」
やっぱり、そうなのか。
「また北に帰結したわね」
「はい。けど庁舎で働く人の目撃情報は取れないですし」
八方塞がりだ。
と、その時。
「なら……直接見るしかないですね」
フジョルさんが、そんなことを言った。
「そりゃあ……自分で目撃できれば一番ですけど、そんな方法があるんですか?」
「……光は、どうやらケガや不調を治して回っているようです」
「それは、まあ」
今までの傾向から言って、ほぼ確定だよね。
「なら、次は……ルアンミさんでしょう」
「ルアンミさん?」
「ふじょるさんのおともだち?」
「バナーリヤのお母さんですよ」
あ。そういう流れになるのか。
確かに病気は寛解しているそうだけど、先日も薬の材料を採りに行ったばかりだもんね。
「だから、彼女の家を張っていれば」
「遅かれ早かれ来るだろうと?」
フジョルさんは頷く。状況に基づいた推理なのは間違いないけど、それだけじゃなくて。きっと「そうあってくれ」という希望も込めてるんだと思う。
「……」
そして同時に複雑な感情も垣間見える。超常現象に頼ることに、医者としての葛藤があるのかも知れない。
「さあ。そうと決まれば、ルアンミさんにも協力を仰ぎましょう」
トロンカさんの言葉で、みんな動き出す。
私たちはラクダさんとおじいさん、メックオルくんにお礼と別れを告げ、住宅街の外れへと向かった。
ルアンミさんの家(同時にバナーリヤさんの家でもある)は、他の家より少しだけ古い印象だった。外壁の土が剥がれていたり、木のドアも色褪せていたり。
ドアをノックすると、少しして返事があった。中へお邪魔すると、40代くらいのキレイな女性が出迎えてくれた。この方がルアンミさん。確かにバナーリヤさんと顔立ちが似てる。
私たちは自己紹介をして、本日の来訪の意図も話す。
「ぷらじゅま。そんな物が今、マホロバに」
ルアンミさんは目を丸くする。それにしても、もうすっかり「ぷらじゅま」で定着しちゃったなあ。大人の皆さんが幼児語を話してるみたいで、これはこれで可愛いけど。
「次々と不調な人や生物を治しているそうです」
「そうなんだねえ。不思議なこともあるモンだ」
「それで、その」
「ああ、分かるよ。囮というか、おびき寄せ役になれって話だろう?」
「有り体に言えば。ゴメンなさいね?」
「良いよ。アタシとしても、完治してくれるなら願ってもないことだし」
ルアンミさんはフジョルさんを見る。
「アタシが足枷になってなけりゃ……アンタも自由だったろうに」
フジョルさんは静かに首を横に振った。
「アナタのことがなくても、きっと僕は医者になっていましたよ」
そうか。なんとなく察してたけど、フジョルさんは幼馴染のお母さんを助けるために、医者を志したんだろう。でもその件が無くても、優しくて責任感の強い彼には適職だったというのは……私もそう思う。
「まあ進路のこと以外にも。あの子にも負い目を感じさせているだろうし」
「……」
黙り込むフジョルさん。私たちも気まずい。
「っとと。辛気臭くなってしまったね。とにかく了承だ。ぷらじゅまは深夜に来るんだね?」
「恐らくね。これまでの3件は全てそうだったから」
「それじゃあ、夜にまた来てもらうってことで」
そういう形になるね。私たちは一旦、ルアンミさんの家を後にする。
フジョルさんは医院へと戻り、午前中は診察。午後は休みにして、仮眠を取るということだった。
トロンカさんも新聞社へ戻り、今までのことを記事にまとめるみたい。
「私たちは、バナーリヤさんにぷらじゅまのこと、伝えに行こうか」
「うん」
歩きだしたところで。
「あ。ねえね」
「ん? 何?」
「ねんど、かって」
「え? あ、ああ。そうだったね」
チビチビと減っていたんだった。それで買い足そうと言いながら、なんだかんだ後回しになっていた。
「そうがんきょう、つくるの」
「え?」
「ぷらじゅまがね、とんでくるでしょ?」
「う、うん。多分?」
どこからか飛んでくるのか、パッと目的地に発生するのか分からないけど。まあでも帰り(?)は北へ飛んで行くんだから、行きも飛んで来る可能性は高いのか。
「みんなで、ぷらじゅまのおうちをみつけるの」
「なるほど」
そうだよね。飛来するところか、帰巣(?)するところ。どちらかだけでも観測できたら。せめて大まかな位置でも掴めたら、解明に大きく前進するかも。
そのためには、確かに双眼鏡は有用なツールだ。本当にウチのももちゃんは、よく気が付くなあ。
「そうだね。人数分の双眼鏡、作っておこうか」
「うん!」
ということで、私たちは東のマーケットへと足を運んだ。近くの人に訊ねたところ、露店の1つが冒険者用ショップになっているとのことで、訪店。無事に『魔法の粘土』の追加分を買えた。ちなみに、14000Gだった。アクアニルスより高いのは、物語の進行度で値段が変わる形式なのかもね。




