幕間1 『魔法殺し』
その光景を少女は一部始終見ていた。
……すごい。
ユイトたちが結局足を踏み入れなかった『地獄の森』の東側で暮らしていた少女。
彼女は最近、西側で頭角を現してきた男がいると耳にして、少し前から東側の森を彷徨っていた。
圧倒的な魔力を有する存在。
たとえ『地獄の森』の住人でさえ恐れ、近づこうとするのを躊躇うような化け物。
そんな気配を察知した少女は、しかし勇気を振り絞り、そこに向かった。
そして、離れた場所から、その戦闘の一部始終を見ていた。
自分と同い年くらいの少女と美しい女が一瞬で戦闘不能に陥り、先に吹き飛ばされた少年もなすすべなく打ちのめされていく。
恐怖のあまり声も出なかった。
……ああ、このままあの少年は殺され、気絶していた残りの女性たちも殺される。
そう思った。
だが、結果は違った。
何をしたかは理解できなかったが、瀕死の少年が全力で魔法を発動し続けたあと、銀髪少女の攻撃は一切効かなくなった。
そして少年は少女を押し倒し、しばらくして少女が慌てて走り去った。
彼が……勝った?
誰もが立ち入ることをやめた『地獄の森』の最奥に住まいし、銀色の悪魔――『神域』に。
すごい。
倒れ伏したままの少年のもとに駆け寄って、自らの手で介抱したい。
だが……今の自分なんかが、彼に近づいていいのか?
……わたしは弱い。
今日、それを痛感した。
もっと、強くなって、いずれは彼の隣に並び立つ存在になりたい。
ふと気づけば、『神域』に一撃でやられていた少女が、彼のそばにいた。
そして恐らくは彼を介抱しているのだろう。体を密着させ、必死に魔法を行使していた。
「……ユイト!」
少女が彼の名前を呼ぶ。
「ユイト……様」
なんて素敵な名前だろうか。
いずれ、あなたのそばに……
東側の森から来た少女――いや、東側で最強の魔法使いと謳われている『魔法殺し』と呼ばれる少女は、音もなく走り去る。
もっと強くなる。
そう胸に秘めて。
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……まったく、やっぱりユイトを選んで正解だったよ。
回復魔法を使いつつ、ルナはそう思った。
世界中の魔法使いと友達になる。
そんなことは普通の人には絶対にできない。
でも、私の恩人である彼の血を引く、ユイトなら……
というのも、ユイトの実の父親は、それはそれは……もしかしたら、そういう魔法でも使ってるんじゃないかと疑いたくなるほどの、天然ジゴロだった。
恋人(のちに彼の妻になる女性)がいたのに、どれだけの女を惚れさせてきたことか。
世界中の魔法使いと友達になる。
普通の人にはできないかもしれないが、そんな超天然ジゴロの血を引くユイトなら、すごく効率よく動いてくれるだろう。
……それに、女の場合、友達のためよりも、好きな男のための方が絶対協力してくれるからね。
ルナは回復魔法を使い続けながらも、ユイトの頭を軽くつつく。
「まさか、あんな無機質で人形みたいな少女――『神域』が、顔を真っ赤にして逃げていくなんて、この女たらし。……これからも期待してるよ」
のちに『神域』がユイトを兄のように慕うようになろうが。
さっきまでユイトに熱い視線を送っていた『魔法殺し』がヤンデレ気味に押しかけてこようが。
最強の魔法使いである『九王』、その最年少の女性が、ユイトを時期王様候補に推薦しようが。
……まあ、世界を救うまでは、女の子に後ろから刺されるなよ、救世主様。




