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魔法使いの攻略法  作者: 東井なつき
序章 原生の森
12/14

11 始まりの刻

「……と! ……ユイト!」

 聞き慣れた声が俺の名前を呼んでいる。


「……ん~」

 そんな近くで大声出すなよ。うるさいだろ……

 まどろみの中にいる俺は、そう思う。


「ユイト! よかった!」

 不意にギュッと抱きしめられる。

「……ん?」

 まだ完全に覚醒しきっていない頭で、俺は涙目で抱きついてくるルナを見て、次いで近くにいた歌姫を見る。


「……あ」

「『あ』じゃないよ! どれだけ心配したと思ってるの!」

 ルナが泣きそうな顔で怒鳴ってくる。

「えっと、ご、ごめん」

「『ごめん』じゃないよ……ホント、ユイトは……」


「ユイト。ルナに感謝しなよ。彼女の魔力回復の魔法がなかったら、今頃三途の川を泳いでた頃だろうからね」

 見かねた歌姫が、俺にそう言ってくる。


 ルナは俺限定だが、傷を治す治癒魔法だけでなく、魔力を回復させる回復魔法も使える。

 ただし、傷の完治にも一時間、魔力の完全回復にも一時間かかり、途中で中断するとまったく効果がなくなるという欠点はあるが。


「魔法使いにとって魔力は命そのもの。完全に空になるまで戦うなんて、ユイト。あんた本当によく生きてたよ。まあ、ルナがいなかったら百パーセント死んでただろうけど」

 あ……そういえば、そうだった。


「ねぇ、ユイト」

 俺に抱きついたままのルナが顔を上げる。

「今、『そういえば、そうだった』って顔したよね」

「え……いや、それは」

 ヤバい。ルナに誤魔化しは通じない。


「ユイト! いくら魔法使いになったのが半年前だからって、魔法使いにとって当たり前の常識で、しかも一番大切なこと忘れてたって、どういうこと?」

「……あ、いや、あの時は必死だったから……って、そういえば、あの銀髪の少女はどこに?」

 俺は懸命に話題を逸らそうとする。


「……」

 ジーッと半眼で俺を睨むルナ。

 彼女に代わって、歌姫が応える。

「私が目を覚ました時には、もう姿を消していたよ」

「……そうですか」


「ところで、よく倒したね、あの化け物を」

「いえ、倒したわけでは……」

 俺は少女と友達になろうとしただけ。

 少女が怯えないように、一時的に魔法使いとしての自分を殺して。


 銀髪少女――ナイは化け物なんかじゃない。

 この地獄で必死に生き抜こうとした、怖がりだけど強い女の子。

 彼女の心に……ほんの少しでもいい、何か届いただろうか?

 願わくば、もう一度会って、もっときちんと話をしたい。

 ナイが怯えることなく、生きれるように。



「さて、何はともあれ、ユイトは半年間で超強くなったね」

 先程まで涙目だったのに、ルナは一瞬で切り替えていた。

「そろそろ、外の世界に行こうか」


 しかし俺はそんなルナの言葉を拒否する。

「悪いけど、少し待ってくれないか。あの銀髪の少女ともう一度会うまで」

「その必要はないと思うよ」

「え、どうして?」

 気軽に言うルナに、俺は聞き返す。


「大丈夫。時が来れば、また会えるよ」

「……それは、おまえの予知か?」

「うん。私の魔法のすごさは知ってるでしょ?」

 確かによく知っている。

 だが、予知に関してだけは、一度も当たったところを見たことない。


 正直、魔法使いになれるというから、俺は最初ルナの話に乗った。

 そして成り行きで『地獄の森』で修行し、今に至る。


「その顔は疑ってるね。確かに私の予知は、当たったかどうかすぐには分からない。でも、すでにいくつか当たったモノもあるでしょ?」

 ……何かあったか?


「いや、ほら、ユイトが魔法使いになるとか、『地獄の森』で生き残るってやつだよ」

「……え、あれ予知だったのか?」

「もちろん。でないと、戦闘力皆無の私がこんな場所に来るわけないでしょ。ユイトは死なない。私に惚れているユイトは、生きている限り私を絶対に守ってくる。だから私は死なない。ほらね?」

 いや、ほらね、じゃねぇよ。

 あと勝手に、俺がおまえに惚れてるとか決めるな。


「というか、俺が死なないって分かってたなら、なんでさっき泣いてたんだよ」

「………………え、誰が泣いてたの?」

 ニヤリ。

「そっか。ルナは自分の予知を忘れるくらい、俺のこと心配してくれたんだな。ありがとう。よしよし」

 俺はルナの頭をなでなで。


「ち、違うもん。泣いてないもん!」

 なんだ、その可愛い口調。

「はいはい。分かった。分かった」

「その顔は絶対、分かってない!」


 ……そんな俺たちを見て、歌姫が小声で「もう結婚したら」と呟いた。




 そして、出発の時が来た。

「そんじゃあ、またね」

 歌姫の挨拶はものすごく軽かった。

 しかし、しみったれた雰囲気を嫌う歌姫らしい言葉だった。


「はい、また今度」

「またねー」

 俺とルナも彼女に倣って、笑顔でそう言う。


「それじゃあ、ユイト。行くよ」

「ああ」

 歌姫に見送られ、俺たちはルナの移動魔法で『地獄の森』の外へ――


 ようやく物語の序章が終わる。

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