17.絡み合う思い
冬馬からの痛切な告白と後悔の言葉を残したまま、一行は静かに帝都へと帰還した。
東條家の自室に戻った彩音は、窓辺で深く息を吐いていた。
かつての冬馬なら、拒絶し去ることもできたかもしれない。だが、己の愚かさを認め、傷つきながら頭を下げた冬馬の姿は、あまりにも切なく、彩音の心に深く刺さっていた。
(冬馬さん……どうして、今になってそんな風に……)
混乱する彩音の心をほぐすように、その日の夕刻、帝都の街角で結城との時間が訪れる。
黄昏時の通り。濃紺の軍服姿の結城は、彩音の暗い表情を逃さず捉えると、温かい手で彼女の手を包み込んだ。
「彩音。……何か、悩みごとでもあるのか?」
「結城様……いいえ、そんなことは……」
隠そうとする彩音に対し、結城は責めることもなく、ただ優しく微笑んで言葉を重ねた。
「軽井沢で君の笑顔を見られたとき、俺の迷いは完全に消えた。俺は軍人だ。いつどこへ行き、どんな運命を辿るかも分からない。……だが、俺の残りの人生のすべてを懸けて、君を幸せにしたい」
結城の言葉には、曇りのない圧倒的な光と、命を懸けた覚悟が宿っていた。
過去の過ちを悔い、自分のもとへ戻ってほしいと切なく乞う冬馬の「影の愛」。
これからの未来を、何があっても共に歩もうとまっすぐに手を差し伸べる結城の「光の愛」。
二つの本気の想いに挟まれ、彩音の胸は切なく、激しく揺れ動くのだった。
◇
同じ頃、帝都のサロン。
須藤桜は、運ばれてきた紅茶に一切手をつけず、窓の外を睨みつけていた。
軽井沢で見た冬馬のあんなにも痛々しく、惨めで、けれど愛おしさに満ちた表情。それが自分ではなく、全て彩音に向けられていたという事実。
「どうしてなの、冬馬さん……。私が手に入れられないものがあるなんて……」
桜の手の中で、優美な扇子がペキッと音を立てて歪んだ。
それぞれの後悔、愛、そして嫉妬が絡み合い、二度と解けないほど緊迫した空気が帝都を包み込んでいくのだった。




