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第4話 重ならない、届かない

 アルベルトと再会してからまた数日が経ちました。

 ウンディーネは来る日も来る日も、アルベルトに会うのを心待ちにしていました。


「ねえシルフ、アルベルトは?」


 シルフの気配を察して、ウンディーネは水面に飛び出ます。


「ウンディーネはまたアルベルトの話だ」


「ここ最近はアルベルトの事ばっかり」


 シルフ達はちょっと不満げな様子です。


「だって、アルベルトと約束したから……」


「人間はウソつきな生き物だよ?」


「アルベルトはそんな人間じゃないわ!」


 珍しく感情的になるウンディーネに、シルフ達は驚いてしまいました。


「ウンディーネ……。どうしてそんなに怒ってるの?」


「……え?」


 改めて聞かれて、逆にウンディーネは言葉に詰まってしまいます。


「どう……してかしら?」


 ウンディーネは胸に手を当てて考えますが、さっぱり分かりません。

 シルフ達が去ってからも、水底で一人ずっと考えていましたが、答えは出ませんでした。


「……なんだか、考えるの疲れちゃったな」


 考えている内に、森はすっかり夜になっていました。

 ウンディーネは月を眺めようと水面に顔を出します。

 その時でした。


「ウンディーネ」


 自分を呼ぶささやき声が聞こえます。

 振り返ると、湖の岸にウンディーネがずっと待ち望んでいた人間の姿がありました。


「アルベルト!」


「ごめんウンディーネ、中々抜け出せなくて……」


「ううん、いいの。いいのよ……」


 ウンディーネは優しく微笑みました。

 嬉しくて、嬉しくて、それだけで胸がいっぱいになり、言葉が続きません。

 水面には小さな波紋がいくつも広がっていきました。


「ウンディーネ、これを……」


 そう言ってアルベルトが見せてきたのは、銀で水の雫を形取ったペンダントでした。


「わあ、綺麗……!なあに?これ」


 ウンディーネは初めて見るペンダントに目を輝かせます。

 月明かりをキラキラと複雑に反射するそれは、いつまでも見ていて飽きません。


「助けてくれたお礼だよ」


「くれるの!?どうしたらいい!?」


「頭を下げて」


「ん……」


 ウンディーネは素直に頭をアルベルトに差し出します。

 アルベルトは、ウンディーネの首にペンダントをかけてあげようとします。ところが――。


「あっ!」


 そう、ウンディーネは水の精霊。湖の水そのもの。

 ペンダントは首にかかる事なく、ウンディーネの身体をすり抜けてその場に落ちてしまいました。


「そうか……水に沈むから……」


「?」


「ごめんウンディーネ、君が持てるように作り直してくるよ」


「よく分からないけど……アルベルトがそう言うなら分かったわ」


「……」


 アルベルトはペンダントを握り締めたまま、ウンディーネを見つめます。


「どうしたの?」


 ウンディーネが不思議そうに首を傾げました。

 お互いにお互いを見つめる、静かな時間が流れます。


 すると、アルベルトは静かにそっと、ウンディーネへ手を伸ばします。


 何となく、ウンディーネも同じようにアルベルトへ手を伸ばしました。

 二人の手が重なります。


 そして、そのまますり抜け、アルベルトの手を濡らしました。


「……あ」


 アルベルトは少し寂しそうな顔をしていましたが、その理由はウンディーネには分かりませんでした。


 その時でした。


「お坊ちゃま!!」


 じいの声が、いきなり後ろから聞こえました。ウンディーネは慌てて湖の中へ隠れます。


「じい!!」


「お坊ちゃま、なんと罰当たりな!!今回という今回は流石に許せません!!」


「ごめん……本当に悪かったよ」


 じいのあまりの剣幕に、アルベルトは平謝りするしかありません。


「さあ!部屋で反省していただきますぞ!そして二度と!禁足地に来たいなんて思わないようにしていただきます!!」


「痛たたた……。じい、逃げないからそんなに引っ張らないでくれ……!」


 アルベルトはじいに引きずられるようにして、湖を後にしました。


「アルベルト……」


 その様子を、水面からウンディーネは心配そうに見ていました。


「また来て……くれるよね?」











 それから数日後の事です。

 いつものようにまたシルフ達がやってきました。


「ウンディーネ」


「聞いて、アルベルトの――」


「アルベルト!?」


 ウンディーネは慌てて水面に顔を出します。

 大きな水しぶきが上がり、日の光を受けて辺りをキラキラと照らしました。


「もう、慌てすぎだよ」


「ごめん……。なんだか落ち着かなくて。それで、アルベルトがどうしたの?」


「アルベルト、閉じ込められちゃった」


「え!?」


 シルフ達が聞いたところによると、アルベルトは禁足地に2回も立ち入ったという事で、屋敷から出してもらえなくなってしまったようです。


「周りに見張りもたくさんいてさー」


「もう手伝うのは厳しいかなあ」


「そんな……!じゃあもう二度と会えないの?」


 水そのものであるウンディーネは、涙を流すことはできませんが、その表情は女の子が泣いている顔そのものでした。


「ウンディーネ、アルベルト以外にも人間はいるじゃない」


「そうだよ、別の人間を連れてこようか」


「……」


 シルフ達の提案は、ウンディーネには何の慰みにもなりません。そして、落胆した様子で水底へと消えていきました。


 それからしばらく、ウンディーネは水面に表れることなく、ずっと水底に沈んでいました。

 あんなに楽しみだったシルフ達が来ても、顔を出さなくなってしまったのです。


 そんなある日のことです。


「ウンディーネ……。ウンディーネ……」


 聞き慣れない声が自分の名前を呼んできました。

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