休日
——ネロ定休日
翔はこの週一度水曜日の定休日に合わせて買い出しに行く。
一人暮らしの男とは言え、一週間分のまとめ買いは荷物が多くなる。
そしてスーパーもハシゴするので距離もある。
「ふぅ、今日も暑いな……よし、行くか!」
翔に取って猫のマサムネと話す楽しみとは別で、買い物も楽しみの一つだ。
様々なスーパーを巡り季節の物を見たり、野菜の目利きをして見たり、肉や魚の市場価格の推移を感じたり。
地元から近くは無いが遠くでも無い為、母も同じ物を見ているのかなと想いを馳せる。
(連絡は……俺が独立したらだ)
一つのプライドが折れない原動力だった。
しばらく買い物を積んでいくと、最近気になり出したコーナーで立ち止まる。
パウチされたウェットフード、大量に袋詰めされたカリカリ。そう、猫用食品のコーナーだ。
マサムネと交流しだして気にはなっていた。
マサムネが「取引だ」と言って翔の話を聞くから、食い物持ってこいと言ったのだ。
今は見習い閉職とは言えレストランで働く身、一応これまでは茹でササミや鰹節ご飯といった一手間簡単に作る物しか持っていかなかった。ちゃんと猫が食べたらダメな物や塩分には気を付けて。
「こんなウェットフードとかカリカリとかも喜ぶのかな?」
特に棒状の袋から出す舐め取るウェットフードは、猫大好きなイメージはある。
だがあくまで家猫へのイメージだ。
マサムネは狩りもするとか言ってたので、チュパチュパと食べるイメージが湧かない。
「……ちょっと、一袋だけ」
翔は一番安いやつをカゴに放り込んだ。
太陽が照りつける、帽子では防げない日差しだ。
自転車も無いので歩きだが、両手に袋とリュックでダルマみたいになっている。
「この重ささえ無ければなぁ……」
息を切らしながら道を進んだ先にパッと飛び出た影が見えた、あの形状はと目で追うと……猫だ。
マサムネでは無いが、どうもマサムネと親しく話す毎晩によって、舎弟と呼ばれる猫達が翔を意識しているようである。
「確か……コテツ」
マサムネに紹介された雑種の猫、黒や灰や白やら様々な色が入りよく見る猫だ。
「あっ!ボスの人間の舎弟がいる!」
コテツはそう言った。
(俺は猫の言葉わかるんだが……いつからマサムネの舎弟に?)
とりあえずコテツに挨拶だけしておく。
「じゃあなコテツ、またどっかで。暑いから気を付けてな」
それだけ声を掛けて見たが、コテツは「?」と理解していない。
やはり通じないか、ふと後ろの離れた所でおばちゃん達がヒソヒソやってる……
(おい、不審者扱いされてるじゃねーか……)
急いで翔は帰った。
「くあー!重かった!せめてもう一日休みあればな……」
嘆いても今の環境は変わらない、とりあえず買った物を詰めていく。
店でやらせて貰えない分、自炊して料理欲を発散してるのもあり、冷蔵庫冷凍庫はパンパンになってしまう。
ただ使える食材と賞味期限の関係で色々アレンジ力は高くなった、作り置きも出来るようになったしスペースの使い方も一人暮らしならではの知恵が付いた。
「入れ終わった〜……さ、メシ作ろう」
簡単な昼食に取り掛かる、卵ベーコンネギ冷凍ご飯。
今日はチャーハンだ。
翔はスマホを立てて動画を流す、「プロのお家で本格チャーハン」今回はこれでいこう。
今や四六時中レシピは手に入る、工程も動画付きで。
なぞるようにやりながら、解説のポイントで「だからこのタイミングか」と知りながら練習と実践を重ねてきた。
「っし!出来上がり」
作りながら片付けするクセも付いているし、キッチンリセットは怠らない。
店のキッチンは触った事すら無いが……
ともあれ完成だ。
いざ実食!
「……うん、美味いじゃないか。でもアレはこうした方が……」
何か改善点が浮かべばメモを取る、そんな二年間過ごせばノートも溜まってくる。
(結構増えたな……四十〜五十冊くらいか?)
ここまで来ると少し達成感はある、後で見返す。なぜなら今日は貴重な休みなのだから、たっぷり勉強に当てられる。
片付けを済ませて勉強の時間だ、調べたら調理師の資格試験を受けれる年数だった。まずは狙いたい。
主に衛生面や菌関係の問題、頭は良く無いが必死に覚える。ほぼ毎日少しずつ何度もなぞり身体に刻んできた。
それ以外の実際のレシピやこっそり見ていた店の中の動きも書き出して整理する。
——気付けば日は暮れ二十一時近かった。
「あーよく勉強した〜……そうだ!」
翔は冷蔵庫を開けて物色し出した。
二十二時、今日も綺麗な月が出ている。
半月から満月に向かっているのか月が太り出した。
荷物を持っていつもの空き地に。
翔は暗闇を見渡す、空き地の真ん中で月明かりを浴びた虎猫が見えた。
「よう、マサムネ元気か!」
「……翔、お前はいつもうるさいぞ」
ドサっと横に座り「今日はちょっと違うぞ?」とマサムネに笑いかける。
「……なんだ気持ち悪い奴だ」
不審な目で見てくるが、翔が出した物に不審な目が更に細まる。
「……なんだそれは?食い物に見えん」
「ハハ!初体験か!そりゃいい試して見な」
翔は封を切り、棒状の袋から中身を押し出した。
ぬるっとツナのようなゼリーのような物が出る。
マサムネは警戒しつつ匂いが気になったのか、ふんふん鼻を鳴らしだした。
「……ペロ……!?」
ペロペロペロペロ無心に舐め取り出した。
どうやら成功、お気に召したようだ。
時間にして十分も無かった、今はマサムネがチューブの先をガジガジ噛んで残すまいとしている。
「だいぶ気に入ったみたいだな」
口周りを舐め顔を洗う仕草をしてマサムネは言う。
「……ふん、腹が減っていただけだ!」
(また持ってきてやるか、食べさせすぎはダメらしいが)
「む?まだ箱があるぞ?」
マサムネは翔が持つもう一つの箱が気になる。
「ああ、これは俺のだ。たまには一緒に食いたいなって」
「……俺の分はあるのか?」
「馬鹿、人間用だお前は食えねぇよ」
「……ふん」
今日も一日の終わりは月の下、猫の居るこの空き地で……




