地域のボス猫
「ボス!」
そう呼ばれるマサムネは地域のボス猫だ。
ただ生きる為に必死に闘ってたらそう呼ばれていた。
別に誰かを助けるでも無く、何かを貢がせる訳でも無く、平穏に過ごさせてくれれば良いのだが……
周りはそうさせてくれない。
「こないだボスにやられて逃げたタワラマルの奴が三丁目に現れたみたいです!」
(誰だよそれ……)
こんな感じで覚えてもいない、または縄張りによそ者が入ったなんて報告が毎日来る。
配下と呼ばれる猫達がやる気に溢れ過ぎなのだ、自分はゴロゴロしたいだけなのに。
しかし、放っておけば少なからずトラブルの種になる。
野良猫社会は自分の居場所は自分で作らないといけないし、作り続けないと生きていけなくなるのだ。
「……とりあえずタワラ……なんだっけ?そいつの行方は?」
「はい!しばらくして見失いました!」
マサムネはため息を吐く、報告してきた若い猫はコテツ。野良生まれとしてまあまあ大きくなれた成長株だが、いかんせん空回りが過ぎる。
よく生きてきたなと感心してしまう、野良猫で生きるならもう少し落ち着いて欲しい。
「……まあ良い、どうせ姿を見せるだろう」
一度やられて逃げて、わざわざ縄張りを踏んでくるのなら十中八九狙いはマサムネだろう。
リベンジに来たと考えるのが濃厚だ。
「コテツ、俺は空き地に居ると縄張り内で回してこい」
「はい!」
マサムネはのそりと立ち上がり、いつもの空き地に向かった。
日が落ち、辺りは薄暗くなる頃。
匂いが変わった。
空き地の真ん中で、どこからでも対応できるように座っていたマサムネは腰を上げた。
見つめる方向から既に威嚇の表情を取る相手、マサムネより一回り大きい。
(あれ?アイツ……翔に出会った時の奴か)
以前この空き地で死闘を繰り広げた奴だ。
傷が癒えて懲りずにボスの座を狙いに来たのか、今回は奇襲に近かった。
相手を認識した途端に突進してきた。
「デブの癖に奇襲か……」
マサムネはひらりと回避して鼻筋に爪を一閃、そのまま怯んだ相手飛び乗り首を噛み押さえた。
完全勝利だった。
マサムネは一度闘った相手に狙われ過ぎる為、戦闘能力や成長力は他の野良猫よりも格が違った。
しばらく噛み押さえていれば「もう……許してくれ……」とデブ猫は服従の姿勢を取った。
マサムネは挑まれたら返り討ちにはするが、命までは取らない。
「……ほら、いけ」
「……アンタ、二度も襲ったオイラを生かすのか?」
「お前なんぞ食えるか、俺はゴロゴロする場所を護るだけだ」
「アンタ……!いやボス!俺もアンタの縄張り護らせてくれ!!」
(また、増えたよ……)
マサムネはため息を吐いて「好きにしろ」と言った。
こうして舎弟が増えていくのだった。
マサムネは己の場所を護り、生きる為に力を振るう。
それは暴力なのか防衛なのか、細かい事は知らないが己の生き場所は勝ち取る。それが野良猫の道だ。
——深夜になる。
空には綺麗な月、今日は見事な半月。
マサムネは先程敵をいなした空き地で香箱座りで居る。
今日はもう襲われる事はないだろう、なんなら襲ってきた奴は舎弟になってしまった。
名前はタワなんとかだった気がする、まあその内覚えるか。
そんな事を思い返しながら月を見ていたら、一人の人間が現れる。
最近毎夜過ごす人間、翔。
何故かコイツとは喋れる、知性はあまり無さそうだが真っ直ぐではある。
野良ならすぐ死ぬタイプだ。
しかし、不思議と側が落ち着いた。不覚にも怪我を負った自分を懸命に助けてくれた、それは恩義を感じる。
猫と話せるせいか、いつもテンションが高めだ。
「ほら!見ろ!今日は鰹節ご飯だ!」
(見ればわかる、馬鹿にしてるのか?)
変な奴だが悪い人間ではない、ただ真っ直ぐで不器用なんだろう。
心にモヤがあるようだが、猫には解決は出来ない。
そこまでお人好しでは無いのだ。
「ん!?おいマサムネ!アレアレ!」
翔は茂みから様子を伺っているデブ猫に気付いたようだ。
「アレは俺の舎弟になった、まあ……見かけたらよろしくな」
「マサムネってすげーんだな」
何を持って凄いのかはわからなかったが、悪い気はしない。
甘んじて受けておく。
「……おい、鰹節はもう無いのか」
「お前!鰹節だけ食ってんじゃねーよ!!」
今日も月の下、変な人間とひと時を過ごす。




