マサムネの回顧
——あの日、決闘を申し込まれた。
いつものように空き地で月を見ながら落ち着いていたときだ。
視線と殺気、どうやら縄張りに入り込み、主を取ろうと命知らずが来たようだ。
「……やれやれ、おい!出てこい格下」
茂み奥から光る眼をギラつかせ、見知らぬ顔が寄って来た。
「見つけたぜ、テメェがボスだな?玉取って追い出してやるよ」
自分より一回り大きな体格をした灰猫、暴力と恐怖でのし上がったタイプだと伺える。
「おいデブ、どこから来たか知らんが怪我して死ぬ前に帰れ。俺は優しいんだ」
「へっビビってんじゃねぇよ、死ぬのはお前だ……」
灰猫はそう言って戦闘体勢を取っている、仕方ない野良猫で地域のボスである以上、戦いは発生する。
こちらも戦闘体勢に移る。
互いに目線は外さない、隙があれば殺すつもりで攻撃をする。手加減は子猫や家猫の世界だ、なんとヌルい。
俺達は今日死ぬか明日生きてるかの世界だ。
「ミャウゥゥゥ……」
「ナァーーァァ……」
しばらく目線の戦いが繰り広げられる、足が出るか?爪が来るか?牙で仕留めにくるか?
灰猫の集中がほんの一瞬切れた時だった。
低姿勢から喉を狙い全身のバネで跳んだ。
体格差的にはこちらが負けているが、攻め方の問題だ。
瞬発性とスピードで短期決戦とする、プランは決まった実行あるのみ。
虚を突かれた灰猫は懐に侵入を許し喉を狙われた、そうはさせまいと暴れを行う。
共にノーダメージは無いと覚悟した。
だんご状態になって転げ回る、その間にも違いの両手両足爪と牙でダメージを稼ぐ。
流石に巨漢の相手、パワーはある。
ならば手数で行動力を抑える。
組まれた腕が緩んだら離れヒットアンドアウェイに切り替える、明らかに灰猫は苛立ちを見せる。
「姑息な……手を!」
「……今!」
大振りになった爪の振り下ろしを抜け、アクロバティックなジャンプから首の付け根を捉えた!
本能から体の力が抜けるはず、現にパワーで勝る灰猫は跳ね除けれず小さくなってしまった。
「……このまま噛み切ってやろうか?」
「ヒィ!……俺の負けだ!!」
灰猫は最初の威勢はどこにやら、涙目で逃げていった。
「……チッ……喰らったか……」
全身に力が入らない、暴れられたせいで爪にやられている。
「まずい……」
身体を支え切れず倒れてしまった、勝ったとは言えダメージを喰らいすぎている。
こんな時に漁夫の利を狙う輩がくれば、死ぬしか無いだろう。
「おいおい、大丈夫か?」
(人の声!?こんな時に!)
再度戦闘体勢に入りたいが、身体は付いてこない。
ピクピクと情けなく痙攣したようになってしまう。
「大丈夫か!?」
(近くでうるさい奴に見つかってしまった)
反射的に叫んだ。
「俺様に触んな!!」
精一杯の威嚇だった、もうそれしか出来ない。
「人間如きが!」
そう言った時、側の人間はきょとんとして周りを確認し出した。
(なんだこいつ?何がしたいんだ?)
側に居られると目立ってしまう、どうにか離さないと……
「おい、そこのアホ人間どっか行け」
「え?え?うわわあああ!!」
側に居る人間は、何か信じられないものを見たか聞いたかのように腰を抜かしている。
(なんだこいつ、なんで瀕死の俺に腰抜かしてるんだ……)
「こんなアホに見つかるとは……」
威嚇で追い払うより、少しでも遠ざかった方が早そうだ。無理矢理身体を動かして茂みに向かう……
その時視界が真っ暗になった。
何かで包まれたようだ。
「おい!こら!何をする!」
流石に突然でこっちもパニックだ。
しかし抜け出そうにも力が入らないし、移動しているのかガクガク揺れてよくわからない。
(くそっ!この時間じゃ病院はだめか!)
何かをブツブツ言っているのが聞こえる。
なんでこの人間は猫の言葉で喋るんだろう。
身体の痛みと体力の消耗で意識が薄れていく中、少し不思議に思った。
とすっ……
身体が地面に置かれた感覚で目覚める、被せられた布を解かれた。
(なんだ、昼みたいに眩しい?……家なのか?)
目が慣れた時に見えた人間、こいつが運んできたのかと察する。何かを持ち「染みるのか?染みるのかな?」と言う。
その持った何かから水が飛び出て傷を濡らす。
「ギィエェェェ」
治って来ていた痛みがキィンと染みて痛い!
何をするんだコイツはと、引き裂いてやりたいが力が入らない。
そこからまたネバネバした何かを塗られ、胴を細長い布でぐるぐる巻きにされてしまった。
もう抵抗する力は無かった、とりあえず眠たい。
これ以上好き放題はごめんだ、猫の言葉を喋るなら理解出来るだろう。
「おい……アホ人間……俺は……疲れたから、寝るぞ……」
人間は理解したようで、コクリと頷いた。
(……一応コイツなりに助ける行動だったのかな)
静かに目を閉じて体力の回復に努めた、人間が居て落ち着かないものの、危害は無さそうだ。
再度意識を沈めて泥のように眠った。
——翌朝
朝の光が窓から差してくる、思ったより身体が軽く貰った傷の痛みは和らいでいる。
舐めたいが巻かれた布が邪魔だ、うねうね動いたり後ろ脚でカイカイしていたら緩んで外れた。
早速傷を確認する、パワー系の相手だったからか雑な爪の使い方だ、まだまだこんなんじゃ死ねない。
傷口の出血は止まってる、不思議なものだ。
少し舐めて後悔した。
「にがっ!」
昨夜、人間が何かを塗ったせいで舌が痺れる。
何してくれるんだコイツは。
目線の先に人気が横たわっていた、側で寝てくれたのか?母猫でもあるまい。
そこからウロウロしてみるが、人間の生活とは直線ばかりで構成されている。
変な生き物だ。
一箇所風を感じる、どうやら外に繋がるようだ。
カリカリガリガリ
「お前大丈夫なのか!?」
やかましい声を響かせる、人間が起きたようだ。
「アホ人間と一緒にするな、あんなもん一晩寝れば問題ない、それより開けろ」
風は感じるが隙間がない、大抵の穴なら抜ける事が出来るんだが……
そうやって扉をガリガリしていると、また後ろから声がする。
「ったく、人間の言葉喋る猫にも驚いたってのに回復も早いなんて……」
人間の言葉?逆だ、人間が猫の言葉を話しているのだ。
しかし、落ち着いた今疑問ではある。
「……そう言えば何故貴様は猫の言葉を喋るんだ?」
「……?」
何を言っているんだ、おかしいのはお前だろうと言う目で見つめてくる。
何かお互いで解釈が違うらしい、まあどうでも良い腹が減ったので開けて欲しい。
そこから人間は腹が減ったと会話の中で聞いて、動き出した。
しばらくすると目の前に食欲をそそる肉の細切れが置かれる。
(餌付けするつもりか?俺に?なんだコイツは)
しかし、食欲には抗えない。
しかも何か手を加えているようで美味そうではある。
一口だけのつもりが止めれなかった、美味い。
腹も減って血も減った、体力回復が最優先だ。
食欲には抗えずがっついていると、人間は尋ねてきた。
「おい、野良猫よ……名前は無いのか?」
不躾な人間だ、だが世話にはなった。
無愛想にしなくとも、コイツなら大丈夫だろう。
「名前を名乗るなら自分からだろうが、アホ人間」
「……俺は大坂翔、翔だ」
こうやって何故会話が出来るのかわからないが、不便は無い。
道端で「ねこちゃーん」とよくわからない人間の言葉で、いきなり話しかけてくるよりはマシだ。
「俺はマサムネと呼ばれていた、別に好きに呼べば良い」
この日からマサムネと翔の交流が始まったのだ。




