月の下、猫が居る
滑り台の上に上がり景色の良さを讃える。
「ハハ!ちょっと高いだけで綺麗に街が見えるな!」
「……騒ぐな人が来るだろう」
マサムネに嗜められながら翔は横に座る。
「月も綺麗に見えるな、満月じゃないけどもうちょっとかな?なあマサムネは満月近いし大丈夫なのか?」
以前にマサムネは言った、「満月になると凶暴性が増すようになってしまった」と。
まだ欠けてるがそろそろ満月になる。
「……まだ大丈夫だが、日に日に気持ちは昂っている」
「……そうか、俺と話せ出せたあの日からだったよな。何か関係あるのかな?」
「原因は分からん、だがこう言う時に限り挑戦者が現れるものだ」
「挑戦者?」
マサムネは尻尾を振りながら月を見て言う。
「縄張りのボスを狙って来た猫がいる」
「現れたのか!?お前狙われたんじゃ!?」
「まだ対決はしていない、だが挑発しには来たぞ」
「……近い内に決闘か」
「そうなるな……」
思えば決闘で瀕死になったマサムネを助けたところからが始まりだった、ボス野良猫の宿命とは言え出来ればもう傷付いたマサムネは見たくなかった。
それ程に毎夜を語り、友達のような感覚を翔は持っていたからだ。
「今回は逃げられないのだ」
マサムネは言う。
「逃げられ無い?」
「コテツとタワラマルの子分が闇討ちに遭った」
「なんだって!?」
翔も知る二匹、マサムネの子分……
「二匹は無事なのか!?」
「……コテツは人間に拾われていた、タワラマルは怪我でしばらくは動けん」
「そんな……」
「翔よ、俺達は野良猫だ。こう言う事も理解して生きて居る、だから気にするな、死ねばそれまでなのだ」
野良猫の世界は弱肉強食、縄張りを持ち強い者が生きる。頭では分かるが、なんとかならないものかと思ってしまう。
「マサムネ、お前死を覚悟してるのか?」
翔は堪らず聞いた、どことなくマサムネの雰囲気が違ったのだ。
「……覚悟はいつもしている、だが今回は勝手に子分になった二匹だが手を出す必要の無い者に手を出した罰を与えねばならん、俺がこの地域のボスだからな」
マサムネは静かな怒りを見せる、素っ気無くしててもコテツとタワラマルはマサムネの大事な子分なのだ。
「……野良猫の世界も仁義があるんだな」
「仁義?何か分からんが俺の縄張りで起こした闇討ちには相応の罰を与えるだけだ……」
人間の翔には立ち入れない世界であるのは理解している、翔は静かに持ってきたタッパーを開けてマサムネに差し出す。
「ほら、食える時に食えよ力付けとかないとな」
「……ふん、鳥の茹でささみか」
マサムネは静かにがっつき出した。
これが力になるならと翔はマサムネを見て言う。
「もしかしたら最後なのかもな」
「……そうだな」
いつもと違う場所、月明かりだけが変わらない公園で翔とマサムネは同じ時を過ごしていた。
「なあマサムネ」
「……なんだ?」
茹でささみを平らげ全身毛繕いに入ったマサムネに翔は聞いてみた。
「お前ここを離れるつもりだろ?」
翔は感じていた。
マサムネは決闘の結果問わず消えるつもりだと。
「……何故そう思う?」
「……付き合い長くなったからな、どのみち怪我は避けられない、そうなればまた俺か別の人間に手当される。二回目は野良猫のボスとしてあり得ないんだろ?」
「……ふん、そうなれば命が助かったとしても縄張りのボスとしてメンツが立つまい、そして野良猫は一度離れた場所には戻れないのだ」
つまり、マサムネとは遠く離れる可能性が高い。勿論無傷で勝てば別なのだが……
「俺と一時張り合ったタワラマルが怪我をさせられた、ならば敵は実力者だ無傷の保証は無い」
マサムネは言う、怪我は避けられない戦いになると。
「……死ぬなよ」
「野良猫の心配より新しい人生とやらを切った翔自身を心配しろ」
「ハハ、厳しい事言うなぁ!……俺はもう大丈夫さ前を向ける」
「……お前の食い物美味かったぞ」
「……また会えたら食わしてやる、じゃあな」
翔は静かにその場を立ちマサムネを一瞥して滑り台を降りた。
ゆっくり歩きながら公園の出口で振り返りマサムネに手を振った。
マサムネは尻尾を振って返した。
別れは済ませた。
「さて……」
マサムネは滑り台を降りて毛を逆立てる。
「出て来い」
茂みからのそりのそりと同じく毛を逆立てた野良猫が姿を見せ言う。
「人間に餌付けされた野良猫が……引き裂いてやる」
「……アイツは人や猫関係無く接してくれる優しい人間だ、お前には分からんだろうさ」
「野良猫の誇りが無ぇ貴様にボスは似合わねぇよ!」
「唸ってないでかかって来い、ボスはこの俺マサムネだ!」
二匹は最高潮まで興奮し激突した!
優しく輝く月だけが見ていた……




