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月の下、猫が居る  作者: かずや


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プレオープン夜


 ——午後七時。

「はーいどうも皆ありがとうねー!」

 店長の北見が声を上げる。

 昼とは違ってイタリアンバーの色が濃くなった。

 プレオープン夜の部。

 細かな料理や接客はあるが、どちらかというと北見の友人達で集まったお祝い会の側面が強い。

「皆わざわざ合わせて来てくれてありがとうね〜あらーマッティ久しぶり〜」

 北見がイタリアのハーフだからか来てるお客さんの半数も外国人だ、祥子も慣れたものだが……

「なんか凄い昼と雰囲気違うよな」

「はい、多国籍バーと言うかなんというか……」

 翔も南も面食らっている。

「ほら二人共こっちおいで、こちらがウチの若い子達ですー優秀だよ!今後もよろしくね!」

 北見は翔と南を両脇に抱え紹介していく。

 全席回って開放され拍手が起きてなんだか恥ずかしい。

「うふふ、言葉が通じない場合は目で話せば良いのよ」

 祥子がそんな事を言う、確かに何人か通訳されながらだったので皆が日本語で話す訳じゃない。

「目で話すか……」

 そういえば以前にマサムネも「猫は言葉じゃなく目で話す」と言っていたが、近いものがあるのだろうか?と翔は首を傾げる。

「先輩どうしたんですか?首を痛めましたか?」

 不思議そうに見てくる南に何でもないよと告げ、次々とお酒や料理を運ぶ。

 お酒はイタリアンなだけあってワインが多い、普段飲まない翔やまだ十九の南には割と難易度がある。

 おそらく日本語でも難しいのにイタリア語で赤と白各種揃っているから見分けがつきにくい。

 更に北見夫妻が好む日本酒も数点あって酒場になってる。

「俺も少しはワイン飲むようにするかなぁ」

「二十歳になった瞬間いきなり飲めるようになるってのも不思議な話ですよね」

「そうだなぁ、最近は若くて飲む人は減ってるみたいだけどな」

「先輩は飲まないんでしたっけ?」

「うーん、機会が無いのと……コーラで良いかなって」

 飲めなくはないがソフトドリンクで満足してしまえる翔なので、酒の良さまでは分からない。

「まあ南も飲めるようになったら試してみると良い、ふわふわするぞ」

「あんな感じになるんですかね」

 客席を見ればすっかり良い感じに酔った多国籍な団体が笑い合っている。

 そこに北見も混じってい楽しそうにしているので、これがやりたかったんだろうなと思える。

 ふと祥子を見れば少し離れてその様子をみている。

「祥子さんは飲まないんですか?」

「あら?飲んでるわよ、表に出ないタイプだし飲み過ぎたら店あなただけになるわよ?」

「そ、それは困る……」

 しっかりと線引きしている祥子に感謝をしていた所に、店長オーダーが入った。

「二人共ペペロンチーノとマルゲリータを作ってよ、この二人もシェフで評価してくれるよ〜」

 シェフ友達なのか北見とそっくりな金髪青い目ピアスもしている。

「えぇ……ちょっと怖いな」

「先輩、良い機会です頑張りましょう!」

 南はやる気になっている、祥子は笑って見ている。

 プレオープンキッチンデビュー戦に気合いを入れた。


 午後九時、二時間の宴が終わり片付けに入る。

 ちなみに作ったペペロンチーノとマルゲリータは星四つで最後の星は君達の将来に置いておく、とキザな事を言われた。

「さあ明日がオープンだ、早く片付けて休もうね」

 結構飲んでた北見だが全く変わらない、強いのだろう。

「今日の回転数ならピッツァは全然問題無いわよ」

 祥子は石窯を弄りながら明日に備えてる。

 いよいよ明日、ここまで長かったようで短いような、気が付けばここに来たと言った感じで不思議と落ち着いていた。

 今日のプレオープンが良いきっかけだったかもしれない。

 南は客席を見ながら考えている。

「どうした?」

「ああ、案内の仕方を意識したら客席回転率上がるなと思って」

「……お前やっぱり凄いやつだよ」

「何言ってるんですか、先輩だって経験ゼロから一気に伸ばしたじゃないですか」

 南に言われ少し嬉しかった。

 アルコバレーノのプレオープンが終わり、静かな道を歩き帰る。

 月を見て、少しだけ寄り道をする。

 コンビニで買った猫のスティックウェットフードを手に空き地に向かった。


 そして空き地はもう資材置き場になり、野良猫は居なくなっていた。

 マサムネの姿もそこにはもう無かった。

 月の明かりだけが空き地だった場所を照らし続けていた……

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