プレオープン昼
——アルコバレーノ、開店前
「と、言うわけで明日にオープンを控えたアルコバレーノ、今日はプレオープンだよ〜」
「私達北見夫婦のお友達中心に来てくれるからね、明日の本番練習よ」
店長北見と奥さん祥子は笑いながら翔と南を鼓舞する。
昨日いきなり明かされて二人共動きが硬い。
もう今日になってしまったので逃げようも無いが、せめてもう少し猶予は欲しかった。
「南……お前は余裕か?」
「先輩、そんなわけないでしょう」
二人そんな事を言いながら準備を進めていく。
一応時間帯は昼夜で分けた二部制らしい、アルコバレーノが昼夜でメニュー形態を変えるからだろう。
「まあ昼の方がお客さんは多いかな?夜はイタリアンバルに近いからね」
北見はそう言いながら店内をチェックしていく。
明日本番オープンを迎えるので、それを見越した営業配置になる。
フロアは翔、南ペアでキッチンは北見夫妻。
まずはこの練習してきた形が機能するかだ、実際のお客さん相手はまだやったことない。
「うう、緊張してきた」
翔は身震いをする、実際の接客が初めてであり人一倍思う事がある。
時刻は午前十一時前、プレオープンの時間まで僅か。
迫る時が身体を固めていく。
「ほーら、翔君。あなたはやってきたこの二週間を信じなさい!半端な事は教えてないわよ!」
祥子さんが肩を叩く。
「祥子さん……はい!」
翔は気合いを入れ直す。
祥子はそのまま南の側に行き同じように発破を掛けている、南は南でそれなりに緊張はあるようだが経験値が違う、どこか落ち着きも見える。
(ここで差が出たなぁ)
翔は前職場での二年間雑用係と半年間のキッチン期待の新人だった差を笑った、しかし卑屈になったわけじゃなく事実として捉えたのだ。
もう縛られていた事から身も心も抜け出している、このアルコバレーノで良かった、そう思った時に時間が来る。
「ハイ!アルコバレーノプレオープンだよ〜」
「いらっしゃいませ!」
開店と同時に来たお客さんへ「初めての」挨拶を発する事が出来た。
——「以上になります、ごゆっくりどうぞ〜」
時間が進むにつれてプレオープンのアルコバレーノは埋まっていき、まさかの満席になる。
「ハッハッハ!想定外だったよ!」
店長として嬉しいのか大笑いしてる北見。
翔も途中から変化する忙しさに楽しくなってきている。
(やっぱり本物の人相手は全然違うな)
これまで架空の人を想定した動き方だったが、人間が通路に立つだけで体の動かし方は変わるし、気付かなかった注意点も沢山出てくる。
「きゃー可愛いわねぇ!」
南はお姉さん達に可愛い可愛いと言われ、ちょっと困ってるようだ。
「ふふ、あれも経験よ」
ピッツァを作りながら祥子は笑い見守る。
なんでも、「それも一つの接客術」らしい。
「……頑張れよ南」
助けてもらえない南を横目に新規オーダーを聞きに行った。
——午後三時
プレオープン昼の部が終わりを告げた。
「いや〜私達の友達中心だったけど皆近隣に声掛けてくれたんだね〜沢山来てくれた」
北見はニコニコとキッチンから出てくる。
「本当ね〜もしかしたら夜も来るかもね」
祥子はピッツァの焼いた枚数をチェックしながら、夜の予想を立てる。
そして、疲れ果ててる二人のフロア。
「疲れたな、こんなに動くのに神経使うとは」
「お姉さんは嬉しいですけど動けなくなるのはちょっと……」
南と昼の感想を述べ合いながら椅子に座る。
次は午後七時から午後九時までの短時間のプレオープンだ。
「夜からはお酒が出るな、南飲まされるなよ十九歳なんだから」
「気を付けます」
まだお酒が飲める年齢ではない南を考慮して、夜はできるだけ客席担当は翔がやり、南は補助に回る。
「オーダー無い時やサイドオーダーだけなら君達に任せて僕らも前出るからね〜」
北見はそう言う、なんでもお客さんと飲みながら接客するのが夢だったらしい。
「隼人はお酒強いから料理に影響は無いわよ」
祥子はそう言うが、そう言う問題でも無い気はする。
やはりイタリア人の血なのか?
「先輩、いきなり金髪のイタリア人のオーナーがテーブルに来たらお客さん引きませんかね?」
「……南、それは店長に言ってやるなよ」
ウキウキで夜を待つ北見を二人で見つめた。
夜に向けて準備をする。
間が空いてる為、皆まったりしているし北見からは全然外に出ても良いんだよと言われた。
だが南と二人で昼プレオープンのフィードバックに費やし、北見夫妻を呆れさせた。
「若さだねぇ〜」
「真面目ねぇ……」




