表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の下、猫が居る  作者: かずや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/45

変わりゆく景色


 ——アルコバレーノオープン二日前、アルコバレーノ前の道。


 虎柄の一匹の野良猫がアルコバレーノの正面にある、道路を挟んだ建物の塀から店をジッと見つめていた。

「……ふむ、生き生きとしてるじゃないか」

 しばらく眺めて……腹が減った。

 野良猫は最後にアルコバレーノ内を一瞥して、中で動き回る翔を見る。

 反転して建物の間を縫って行く。

 さすが猫だ、音も無く通れるのかと首を傾げる細い道とも呼べない箇所を悠々歩く。

 この地域一帯を縄張りとして持つボス野良猫のマサムネは、日課のパトロールをする。

 アルコバレーノから始まったのは、最近そこで頑張ってる事を嬉々と話す唯一の人間翔を見てから始まるルーティンになってるからだ。

「……別に気になる訳じゃない、たまたま縄張りの端だから都合が良いだけだ」

 マサムネは誰に言うでなく呟く。

 縄張りパトロールと言っても別になんて事はない、馴染みの民家に大体の時間に行けば……

「あらトラオ今日も太々しいじゃないか」

 と人間が餌をくれる。

 狩りをするより楽に餌にありつける。

 人間は猫が何かと好きらしい、特に自分に懐いてる素振りを見せた猫には何かしてやりたくなる本能があるようだ。

 マサムネは色んな名を持つ。

「ボス!東の公園でカラスどもが調子乗ってきてます!」

 同じ野良猫の配下、コテツ。

「ボス!最近調子乗ってた新参者脅しておきました!」

 野良猫とは思えない配下のデブ猫タワラマル。

「ボス」と彼らは呼び慕って来て、何か縄張り内を勝手に守っている。

 配下にした覚えは無いが勝手になっていたし、なんだかんだで尽くしてくれるので好きにさせている。

 馴染みの民家や店、どれも人間が居る所だがマサムネを見れば。

「トラオ」「トラ」「ネコチャン」「エリザベス」

 と、それぞれが勝手に名前を付けて呼んでくる。

 人間と会話は出来ない、唯一何故か翔だけとは出来るが……それも、今や慣れてきた。

 ほぼ毎晩月夜の下、いつもの空き地で語らっているからだろう。

 そして、その空き地が騒がしい。

 これまで人間が来なかったのに最近出入りが多い。

 子供が遊びに来るんじゃなく、大人の人間が複数人空き地を歩き回ったり何かしらの計測をしていたり。

 近く何かが人間の手によって変わるのだろう。

 マサムネの不思議な能力は「人語を理解出来る」事だ。

「こりゃ地盤打ち直しかな」

「資材は置けるか?」

「わっ野良猫住んで無いか?」

「なんか猫に餌やってる形跡あるな」

 出入りする者達が言う言葉でなんとなくわかる。

 (この空き地が無くなる算段がついて来たか)

 マサムネは複数ある寝床の一つで昼寝をする。

 いくら空き地を無くさないでと言おうと、翔以外の人間には伝わらないのだ。

 無駄な労力は野良猫には御法度、その時々を生きるのみ。

 マサムネは静かに眠りに落ちていった……


 ——日が暮れ出した頃。

「……ん〜」

 マサムネは目が覚めて毛繕いを始める。

 なんかしてしまう習性だ。

 あらかた毛繕いしたら動き出す。

 数箇所周って食べ物を回収していけば、とっぷり日は暮れ星が瞬いている。

「そろそろ暑さも抜けてくるか」

 夏が終わりに向かう気配だ、やっと夜が涼しくなりだした。

 全身毛皮の野良猫には辛い季節だったが、なんとか乗り越えれた。

 今年も何匹か春までは姿見ていた野良猫も、数が減った。

 事故に遭ったか、拾われたか、弱って絶えて回収されたか。

 毎年の事で野良猫社会では珍しく無い。

 そして自らの身だけじゃなくて、住処も変わる。

 昼間に来ていた人間達は、いつもの空き地に何かを置いていっている。

 昨日まで無かったものだ。

 看板も追加されており、いよいよこの空き地が空き地じゃなくなる未来が見えて来た。

「……文字は読めん」

 看板にはたぶん重要な事が書かれているんだろうが、マサムネは人語の理解迄で文字はわからない。

 ふぁ〜っと欠伸をして、まだ生きているいつもの空き地の場所に座り込み時を待つ。

 しばらくすればいつもの足音が聞こえ……

「よう、マサムネ」

 いつもの人間、翔が手に餌を持ち笑いかける。

 (こいつは変な人間だ、日中疲れる事をして疲れてるクセにちゃんと来る)

 マサムネは翔を眺めていた。

「ん?なんだジッと見て」

「……ふん、看板は見たのか」

「……ああ、秋になる頃には小さなアパートが立つ様だな」

「……そうか」

 マサムネと翔の関係もそこで終わりになるだろう。

 マサムネはそう思ったが……

「なあマサムネ、ここが無くなっても会えるかな」

 変な事を言いだした。

「……翔、俺は野良猫だ。お前のように定住はしてないぞ」

「わかってるよ……ただ、勿体無いなってな、せっかく猫と話せるようになったのに途切れ方がなって……」

 

「……俺の縄張り範囲は変わらん、翔の生活圏に居るさ」

「……そうか、そうだよな!」

 マサムネは変に喜ぶ翔を見て、少しだけ笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ