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月の下、猫が居る  作者: かずや


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想いを乗せて


 ——「さあさあどんどんいくよ!」


 アルコバレーノのキッチン引渡しから一週間の猛特訓の日々から、ついにこの日が来た。

 アルコバレーノ客席引渡し、そして店の内装物やテーブルも運び入れだ。

 引っ越しみたいな荷物の量に業者に頼りながら四人がセッティングしていく。

 椅子とテーブルが並ぶだけでもう店が開店しそうな雰囲気だ。

「なんか、始まるんだなって思う」

「ええ、開店間近ですよね……」

 翔と南は大きなテーブルを移動させ店内を見渡す、祥子さんは内装を飾り店長の北見は業者とやりとりをしている。

「どうしたの貴方達?」

「あ、いや始まるんだなって思ってまして」

「そうね〜来週にはオープンだから全体トレーニングもビシバシいくわよ!」

「は、はい!」

 全ての物が運び終えれたのは夕方前だった。

「ふー!思った以上に物があったね〜」

 北見は笑いながら店内を動き回る。

 その顔は非常に嬉しそうで、少年のような顔だった。

「自分の店だからね〜やっぱり可愛く見えるんだよ」

 北見は言いながら鼻歌を歌いキッチンへ行く。

 すると祥子が肩を叩いた。

「翔君、才賀君真ん中座りなさいな」

 南と顔を見合わせて店の真ん中に座る、思ったよりゆったりしているし内装が凝っている。

「はい、じゃあ今日頑張った二人が最初のお客さんだ!ちょっと待ってて、見てていいよ」

 祥子もキッチンに入り込む、既に北見は何かを作り出していた。

「え?良いんですかね先輩……」

「良いも何も……待つしかないだろう」

 翔と南は落ち着かないながらもキッチンで北見夫妻の動きを見ていた。

 (ああ、やっぱり凄い綺麗に動いてる……祥子さんは目を奪われるピッツァの作り方してる!この客席から見ると凄いな!)

 翔は軽く興奮を覚える、ただ座り待つだけじゃない。

 この席は特等席なんだ。

「先輩!凄いっす!石窯の開けた時の熱気が臨場感溢れてる!」

 南も大興奮だ。

 そんな二人の反応が響いたからか北見夫妻は笑ってる。

「はい、おまちどうさま」

 北見夫妻でペペロンチーノとマルゲリータをそれぞれ持ってきてくれた。

 焼き上がりたてが直通の石窯が想像以上に視覚を楽しませる、これは人気になるぞ!と翔は確信する。

「いやぁ二人共良い反応してくれたね〜でも今は無理でも、この先その反応を引き出す側になるんだからね〜?」

「特にピッツァは私が教えるんだもん、半端は許さないわよ?」

 そうだった、自分達は中のスタッフ。

 魅せる側なのだ、今は届かないが必ずやってみせる。

 南も同じ決意をしたようだ。

 二人で料理を頂く、味も申し分無いしこの味をまず手に入れないといけない。

 翔は一口一口を噛み締めて想いを強くした。

 明日から全体トレーニングが始まり週明けには、遂にオープンを迎えるアルコバレーノ。

 店に出会えた恩返しも込めて踏ん張りどきだった。


 ——いつもの空き地

 アルコバレーノから家を通り反対側に位置する空き地だが、なんとなく直接来た翔。

 いつもより若干早いが、マサムネはゴロンといつもの場所に寝転がって居た。

「よう、マサムネ」

「む?今日は早いな」

「たまには良いじゃないか、ほら魚肉ソーセージだぞ」

「……早く開けろ」

 なんだかんだ好き嫌いの無いマサムネだ、野良猫だから好き嫌いしてる余裕が無いのかもだが。

 フィルムを剥がして小さく千切ろうとしたら手を出してくる。

「待てって今渡すから」

 小さな塊を目の前に置いたらガッつきだす、マサムネが可愛く見える瞬間だ。

 普段の言葉遣いと空気感は偉そうだが、やはり猫なんだなと思える。

「……なんだニヤニヤして」

「なんもないよ」

「……ふん」

 撫でることはしたことが無い、なんとなく撫でてはいけないような気がするからだ。

 人間と野良猫、話をする対価で食べ物を持ってきているが立派な餌付け、あまり良い風には見られないだろう。

「そう言えば、翔の店が騒がしかったな」

「ん?見てたのか?」

「たまたま近くを通っただけだ」

「野良猫はあんなの見て何思うんだ?」

「人間は騒がしく生きる生き物だなとしか思わん」

 ペロペロと前足を舐めて顔を擦る

 人間から見たら、この行動は猫だなと思う。

「翔は新しい縄張りで馴染めそうなのか?」

「ああ、頑張ってるさ」

「……野良猫は勝ち取るだが、人間は馴染むか、よくわからん世界だ」

 大きなあくびをして伸びをするマサムネは見渡し言った。

「そろそろ縄張りのボスに挑む猫が現れる」

 翔は驚いた、そのボスはマサムネだ。

「お前……のんびりとしてるな」

「命懸けだがそんな時期だ、ボスである以上避けられん、避けたらボスじゃなくなる」

「お前、ボスにはいつの間にかなっててどうでも良かったんじゃ?」

「……一応プライドはあるぞ、ただ負けて去るならそれも良いと思うだけだ」

「……勝てよ、俺はまだマサムネと話したいからな」

「……ふん、簡単に負けはせん」


 マサムネと交わした約束は月夜の下で二人を照らしていた。

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