修行と決意
——キッチントレーニングシミュレーションも三日目
週明けには客席も引き渡しになり全体の動きを確認していく算段だ。
今日も翔と南はペペロンチーノを作る。
「ぐっ!何がダメなんだ?」
「むぅ……意識をしすぎか?」
二人してペペロンチーノは出来るが「北見のペペロンチーノ」にはならない。
使う材料、機器は同じなのにどうしてと二人頭を悩ます
「うふふ悩んでるね〜良い事だよー僕は新人時代は一週間だったかな〜お父さんが厳しくてね〜」
笑顔で明るくたのしんでるようだが、作り上げれない本人達にはなかなか残酷な状況だ。
「このペペロンチーノが出来たら驚く程他のパスタに繋がるよ〜頑張って〜」
「隼人、もう次はピッツァの扱いなんだから!ほら二人共来なさい〜」
中々にハードスケジュールをこなす。
昨日は生地仕込みだったが今日はピッツァ生地を伸ばす訓練だ。
「正直具材を乗せるのはどうにでもなるわ、でも生地だけは手が加わる部分だからね」
まずは祥子のお手本、打ち粉をした生地をつぶし丸円を作る、更にそれを広げてミミ部分を摘む。
これを止まらず一定の流れで素早く。
「うわっ!」
「あっ」
これもなかなかの苦戦を強いられる、職人技であるから難しい。
翔は集中して次々生地を形作るが凸凹が目立ち熱の当たりがランダムになる。
対して南はまずスピードを落として時間はかかるが一枚綺麗な生地に成功した。
「あら!コレは……うん完成系は合格!」
「やった!!」
「ただし、一枚作るのに五分掛けたわね、これを三分以内目標一分だね!」
アレを五倍早く作れって……南の目が遠くなっている。
「来週の全体シミュレーションが楽しみだねぇ、これは荒れそうだ、はっはっは」
店長北見は楽しんでいる、祥子さんも指導に熱が入る。
南がふと聞いた。
「そう言えばホールはどうするんですか?四人じゃ少ないんじゃ?」
「うん、実はアルバイトは雇うつもりだよ。料理提供と会計管理メインだけどね、でも君達も最初はやるんだよ?」
「それはもちろんですが、夜はバースタイルなんですよね?そっちは……」
「うふふ、細かな物は君達に任せて僕は飲みながらお客さんと語らうのさ〜」
「隼人!飲みすぎないでよ!」
「わかってるさ〜」
厳しくも自由な空気を漂わせ研修が過ぎて行った……
「よし、今日はここまで!……じゃあ最後に疲れた身体でペペロンチーノで締めようか」
「え!」
「て、店長腕ぱんぱんですけど……」
翔と南は生地の扱いで腕が震えていた。
「うふふ、やってごらん」
逃げ道は無さそうだ、軋む身体を動かして再度ペペロンチーノを作る。
出来上がりを見て気付いた。
「思ったより綺麗だ」
「先輩もですか?僕もなんです」
「ほら、食べてごらん」
北見に促され一口食べる、そして南と交換して一口。
「どっちも美味い……」
「あんなにバラけてたのに?」
どちらも同じレベルにあるように思えた、僅かに北見のペペロンチーノには届かないが……
「余分な力が抜けて翔くんは乳化時間長くなり、南君はソースを吸わす時間が短めになったからね〜」
意識できるほどの時間があったわけでは無いが、作用したポイントを教えてくれた。
「レシピには時間も載せてるけど湿度室温、連続調理とブレるんだ、それを見越して動けるかだね」
「ほえーあくまで大枠って事ですか?」
「そうだね、レシピ通りって言うのは場の状態も絡む、だからこそ仕上がりチェックするんだよ」
北見は笑ってお茶を飲む、そして祥子も言う。
「ピッツァもそうだけど盛り付けの後の時間は分かるかい?」
「……提供して食べるまで?」
「正解、突き詰めるとそこまでいくんだけど店は成り立たない、だから少し幅はもたせてるんだよ」
「作るだけじゃだめなんだなぁ……」
「先輩、まだ作れてすらないです」
「わかってるよ!」
そんなやり取りを北見夫妻は面白く眺めていた。
——月夜の空き地
昨日は居なかったが今日は……居た!
いつもの場所にいつもの座り方で。
「マサムネ!」
「む、翔よ来たか」
「お前どうしたんだ?昨日は居なかったが」
「……翔よ」
「なんだ?」
「俺はここを去る」




