料理と経営
——月夜の空き地、満月を迎えている。
マサムネは堪らず声を出す。
ニャァオオオ……
その声に縄張り内の配下達は異常を感じ姿を潜めた。
「なんだと言うんだ……身体が疼いて声を上げずにはいられない……今日はマズイ、翔にすら飛び掛かるかも知れない……」
マサムネは自身から溢れてくる攻撃性を抑えられずにいた、こんな事は初めてだ。
やはり満月が影響しているのだろうか。
フシャァァ……
何に威嚇してるのかもわからないが発散しないと、おかしくなりそうだ。
今日は姿を眩ませよう、マサムネはなんとか残る意思で思い、空き地を後にした……
しばらくして、翔がいつものようにやってきた。
「あれ?」
いつもの場所にマサムネが居ない、変だと思って辺りを見渡したが姿は無い。
目線の先で光る二つの玉が見えた、どうやら野良猫が潜んでるようだ。
「マサムネじゃないな……どこ行ったんだ」
仕方なく持ってきたカリカリを茂みにいる野良猫に少しやる。
バッ!
しかし、何かに怯えるように全力で逃げていった。
「なんか……様子が変だな……」
猫達が怯えている、だが翔に怯えてると言う感じでは無い。
実際数匹はカリカリを咥えて行ったので個体差がある。
「どうしたってんだ……」
少し待ってみたがマサムネはその日現れなかった……
——翌日、翔は今日もキッチントレーニングとシミュレーションだった。
昨日はプロの腕前を目の当たりにし、驚いただけで終わったが今日からそうもいかない。
「あの腕を自分に宿す」
翔は目標に向かい走っていく。
ふと、道中の空き地を見る。
昨夜居なかったマサムネは見えない、日中会う事が稀なのだが昨日の空気は気にかかる。
とりあえず今夜も行こうと決めてアルコバレーノに向かった。
「はいはい、今日は昨日のおさらいだけど二人同時にまず作ってみようか」
「はい!」
南と同時に昨日の店長北見をトレースする。
食材の場所調理器具の場所、機器の扱いは大丈夫だ。
「ではスタート〜」
北見の号令が掛かる、ストップウォッチを持っている。
昨日見たようにパスタを茹でフライパンでソースを作っていく……頃合いでパスタを湯切りし合わせて白ワイン……盛り付けに手間取るが完成!
「はい!うんうん、二人共にまだまだだね〜」
北見の合格は貰えなかった。
「まず、自分の食べて見て」
翔と南で自分のペペロンチーノを食味する。
(不味くは無い……けど、油がクドイ)
「じゃあ次、お互いの食べてみて〜」
翔は南のを、南は翔のを食べてみる。
「んん!?」
「先輩……横で同じようにやりましたよね?」
南のペペロンチーノも不味くは無かった、翔のと比べたら味が濃く出ていたが辛味が強く感じる。
共通していたのは「昨日の店長北見のペペロンチーノには劣っている」と言うのがはっきりしていた。
「翔君は乳化不足でオイルが浮いてるね、南君は逆に意識しすぎて辛味を出しちゃったね〜」
さらっと食べても無いのに言い当ててくる。
ほのぼのしながらも、やはり凄い人だ。
「不味くは無いはず、でも僕のペペロンチーノじゃ無い、だから不合格だね!」
「こんなシンプルな材料で変わりすぎだな……」
「少し自信はあったんですけど遠いな……」
二人で落ち込む。
「落ち込んでる暇はないからね〜ちなみに改善点は自分で見つける事!定期的に僕がまた作るから参考にしてよ」
北見はニコニコと優しく厳しい、それがありがたい。
「はーい、じゃあ次は私の番よ〜」
祥子がドサリと小麦粉を持ってきた。
「ウチの命、アルコバレーノのパスタ生地ピッツァ生地作りを叩き込むよ!」
「はい!」
「まず水と塩と……」
トレーニングは時間ギリギリまでみっちり詰められる。
パスタとピッツァ生地は発酵や寝かせもあると時間がかかるし、生地の空気抜きに体力も使う。
だがこれがこの店の心臓であり血液だと祥子さんは言う。
確かに全ての始まりになるので、手は抜けないし失敗が出来ない。
「問題は仕込む量の安定化が難しい」との事。
ざっくりと大きく仕込まないと味もばらけるし、かと言って少量だと機械が生地を形作れないらしい。
「これは手仕込みと小分け既製品とのメリットデメリットだね」
祥子さんは手仕込みが馴染むらしいが、料理技術で味をカバー出来る既製品も捨てがたいと店長は言う。
この辺りは北見夫妻でも話し合い中だそうだ。
「なあ南、ただ作るだけじゃないんだな」
「そうですよね、僕ら下っ端だけど仕込み時間やロス問題を抱えながらですし、経営って感じですよね」
店を持つ、それは料理だけじゃない数字の面も学ばなければならないと翔は感じ出していた。




