人の生き様空き地の行方
——月の輝く空き地
今宵は満月に近かった。
満月が近くなると身体が疼く、これは翔と出逢ってからの事だ。
初めは気のせいかと思っていたが、毛が逆立ち尻尾が膨らむ。
マサムネは自身の変化に気を配る。
攻撃性が高まっている、僅かな鳥や虫の動きに飛びつきたくなるような衝動を感じる。
「……むぅ、何だと言うのだ」
マサムネは何か気が散りキョロキョロと見渡す、月が目に入る。
吸い込まれそうな引力を感じ、意識が持っていかれる……
「よう、マサムネ」
ハッと意識が戻る。
横にいつの間にか翔が座っていた。
(人の気配に気付けない程放心していた……?)
マサムネは野良猫としてあり得ない事にショックを受けた。
「マサムネどうかしたのか?」
「ん、いや何でも無い……」
「?」
翔には黙っておく方が良いだろう、心配性な人間だ。
また自宅や病院なんかに連れていかれたりしたら堪らない。
「昼間会ったではないか」
「そう言うなよ、ほら鶏団子だぞ」
「む、まあ美味い物があるなら構わん」
今日の昼、チラシとやらを配り歩く翔に会っていた。
人間は他者との繋がりを糧に出来る生き物なのだろう、猫にはわからないが人は人で大変そうである。
「昼間俺はすぐ終わったんだけど店長がさ——」
翔はよく話す、その日あった事を中心に自分の夢や将来、野良猫の生態について聞いてきたりもする。
人間は猫と違い言葉を操る生き物だ。
何故翔とだけ会話が出来るのか謎だが……最近では悪くないと思っている。
猫は目と顔で大体通じるので静かなものだ。
たまにケンカにはなるが、纏う空気で格が分かる為同格じゃない限りは縄張り争いぐらいだ。
対して人はよく道端でイライラしている感情があったり、不調だが仕事に向かう空気を纏いなるべく枠から離れないように、決まった動きをしているのを見る。
何故猫のように疲れたから寝る、暑いと感じたから木陰で寝そべる事が出来ないのだろうと不便にも思っている。
そんな人間の翔は人間には珍しい真っ直ぐさを見せる。
(……こいつは隠せないタイプなんだろうな、野生が無いタイプだ)
「ん?何だマサムネ見つめられると照れるじゃないか」
「……ふぅ、まあ良い」
きっとアホなのだろう。
しかし、人間はアホでも生きる事が出来るから繁栄したのかも知れない。
野良猫は賢く、自分第一じゃないと生きれない。
昔に亡くした兄弟は自分を助けて死んだ。
それが悲しい事であり、野良猫の世界では最も愚かな事だったと理解している。
この地域のボス猫になったからとて地域を治めてる訳じゃない。
喧嘩の仲裁はしないし、食べ物は自分の分だけを摂り秘密にする。
助け合い教え合いとは遠く、自己中心で生きる猫世界だった。
「明日ついに皆で試作なんだ〜——」
だからこそ、翔の世界が新鮮で聞いていて飽きなかった。
コイツが話す事が楽しいのだ、まるで人間社会を翔を通じて覗いてるようで。
(人間に憧れは無いが……言葉を交わせると言うのは良いものだな)
マサムネは鶏団子を齧りながら翔の話を聞いていた。
ふと、マサムネは思い出す。
夕方にこの空き地を訪れた人影と何かを建てて行った事を。
「翔、そう言えばあれは何なのだ?四角い木を打ち込んだ者が居たが字は読めん」
「ん?……あ、本当だなんか建ってる……え?マジか」
翔の表情は何かマズイと言った表情をしている。
「何だ?」
「いやぁ……この空き地売りに出されたみたいだ」
「……?何がマズイのだ?」
「そうだな、いつになるか分からんが買い手が付けば整地して建物が建つ事になる……」
「……む、となると俺達は」
「……追い出されるな」
確かに少し困った、昨今草があり土の地面も減ってるなかで野良猫達の溜まり場にもなってる空き地だ。
生死に関わりはしないが街中に拠点を移すリスクがある。
マサムネはこの空き地を中心に縄張りを持つので、勢力図も変わる事を考えないといけない。
「マサムネ……」
「……ふん、決められてるなら仕方あるまい」
「お前諦めが良いな」
「諦めでは無い、生きる事を優先すれば環境は変わっても生きる場所を確保するだけだ」
「そっか、そうだよな……」
翔は最近変わった自身の環境を重ねたのか頷いた。
「いつとは書いてないのだな?」
「ああ、売りに出された……まあまだ告知段階だ、話が進んだら人が出入りしてくるだろう」
「ならばまだ語らいの時間はある、最後まで聞かせろ」
「マサムネ……ああ、聞かせてやろう」




