チラシ配り
——「よろしくお願いします!」
初めてアルコバレーノのスタッフが一堂に介しミーティングが始まる。
「さあさあ、とりあえず明日にはキッチンテストが出来る受け渡しの日だね」
アルコバレーノ店長、北見隼人
イタリア人ハーフで金髪碧目、全国イタリアン選手権で優勝経験有り。
ピッツァ主任、北見祥子
店長北見の妻かつピッツァ担当、ピッツァアジア大会で優勝経験有り。
見習い、南才賀
有名調理学校首席卒業
見習い、大坂翔
ブラック飲食店で二年雑用……
(あれ?俺だけ肩書きが……)
「ふふ、翔君気にしたら負けるよ?」
店長の北見が見透かしたように声を掛けてくる。
そんな顔をしていたのだろう。
切り替えていく。
「さて、今日は四人エリアを分けてポスティングだよ〜それぞれのチラシはあるね?」
各自五百部ずつのチラシ配り、結構な量だ。
「全くアナログ好きなんだから隼人は……」
「ははは、僕sns苦手なんだもーん。あ、若い子に任せようか?」
「えぇ!?」
「上手く運用のイメージが……」
「翔ちゃん、才賀ちゃん店が落ち着いてきたらおねがいするわよ?」
祥子の圧に「はい」としか答えれなかった二人だ。
ともあれ今日は街を歩き倒してチラシ配り、ついでに競合になりそうな店もピックアップして欲しいと頼まれている。
なんでも広告やsnsにも無い店は意外と多く、大手企業よりもコアなファンが付く個人店は強いらしい。
皆と別れて翔は自分のエリアを周る。
チラシは4種類、エリアによって違い回収率で傾向を測るらしい。
「割と手を込んでるよな」
翔は呟きながら歩いて出会う人にアピールしていく。
「今度八月末オープンしますイタリアンです!よろしくお願いします!」
手渡しを受け取ってくれる人も居れば、存外に扱う人も居る。へこたれる暇は無いので次から次へと渡していく。
「あ、いつの間にか空き地に来てしまった」
翔の担当エリアは毎夜地域のボス猫、マサムネと語る空き地が含まれている。
(ん〜見えるのはコテツとタワラマルが戯れてるだけっぽいか……)
「おい、翔何してる」
「おわぁ!」
突然足下から声がして飛び跳ねる。
「なんだよマサムネ居たのかよ」
「今通っただけだ、お前何してるんだ?」
「ああ、店のチラシ配ってるんだよ」
「チラシ?その紙か……そんなの配って楽しいのか?」
「楽しいとかじゃなく仕事、お知らせする大事な事だ」
「……ふん、人間はよくわからんな」
野良猫には理解されないようでマサムネは木陰で寝てしまった。
「全く自由な奴だ……また夜にな」
翔はチラシ配りを再開させる、マンションなんかは許可を取って入れさせてもらったりダメだったり。
マンションによって違うのはなんでだろうと、疑問視したりを繰り返して残り数十枚までになったところで時間を見る。
午後三時、始まりが十二時だったので三時間みっちりだった。
翔のスマホに着信が入る、北見だ。
「はい大坂です」
「翔君エリアどうだい?」
「あと二十枚くらいですね」
「何だって!?早くない?捨ててない?」
「捨てませんよ!え?皆はどうなんですか?」
「君以外は百枚ぐらい残ってるよ〜」
意外と差が出ている……
「ちなみに僕が一番残ってるよ〜見た目が裏目に出るね〜近付いたら逃げられちゃう」
確かに金髪碧目のピアスしたデカい外国人なら分からんではない、店長は国籍も名前も日本人なんだが……
「僕、配り終えたらそっち行きましょうか?」
「助かるよ〜」
通話を終え、残り僅かのチラシを配り終えたら北見の下へ急ぐ。
十分程で辿り着いた光景は……
外人を遠巻きにチラ見していく日本人達の流れ、これは店長が可哀想になってくる。
「店長!」
「おお!翔君〜辛かったよ〜」
「とりあえず店長の分半分貰いますね」
「頼むよ〜僕もう心折れちゃった」
翔が合流して北見と話しながらチラシを配る。
どうやらその光景が逆転現象を起こし、珍しい見た目の外人は日本語が出来る、イタリアンシェフで店がオープンするのかと人が集まり出した。
(日本人は警戒するけど気にはするんだよな)
ガンガン捌くチラシが無くなり北見とハイタッチをする。
ちょうど同じ頃に祥子さんと南からも完了報告が出て、店に戻る。
——「いやー大変だったね」
店長の北見が一番大変だっただろう、今後は自分達に任せて店に居て欲しいところだ。
広告を打ち明日からはキッチントレーニング兼試作だ、翔は胸の高鳴りを感じていた。




