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月の下、猫が居る  作者: かずや


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進捗は上々


 ——アルコバレーノ

 改装も進んできたし、翔と南の棚割り計画も順調に定まってきている。

 来週の頭には試作食材が入り、キッチンはテスト運用するとの事で忙しさは加速する。

「はい!これがメニューレシピだよ〜取り扱い注意ね〜」

 店長の北見が青い眼を輝かせ翔と南に説明を始める。

「アルコバレーノは昼と夜で営業スタイルを変えていくよ、昼はパスタとピッツァがメインで二人はまずパスタの仕込みがメインになってくるかな」

 ぽんぽんと機器を叩いて微笑む北見。

「それって……パスタマシン?」

 南が反応する。

「正解〜粉の配合はレシピに載せてるけど実際やり出したら、細かな注意点あるから集中してね?ここから始まる大事なところだよー」

 南と二人でマジマジとパスタマシンを見ていく、いわゆる手作り生パスタになるのだろう。

 麺を押し出し形にするソケットは切り替えが出来て細さや形状を変える事が出来る。

「乾麺じゃなく手作り生パスタ……ドキドキするな」

 翔は初めての機械に心躍らす。

「店長、パスタはメニューに合わせですか?それともチョイス?」

「将来的にはチョイスも出るけど、基本は合わせていくよ、本格パスタはそのパスタに合ったメニューで食べて貰いたいからね〜まあ始まりは4種類くらいの形状になるかな」

 レシピを見ると「ボロネーゼ スパゲティ」と料理名とパスタ名がセットで表題名となっている。

 これがこだわる部分だろう。

「ピッツァも種類はあるけど生地はこっちの機械で練り合わせ、叩きと寝かせもあるから頑張ってね」

 叩き?寝かせ?翔にはピンとこないが南は察したようだ。

「先輩、身体鍛えなきゃですよ……生地作りは時間と体力勝負っす……」

「んふふ、南君は学校で学んだのかな?その通りだね、安定管理は難しいけど最大のメリットは生地が武器になるね」

 (生地が武器?何?鍛冶でもするのか?)

「ピッツァに関しては四人目のスタッフが指揮を取るよ、まだこっちに帰って来れないけど来週から一緒だからね」

「どこにいらっしゃるんですか?」

「こっち改装中東京の父の店手伝ってるんだ〜腕は確かだよ」

 翔と南はイメージをするが、そもそも北見の父となるとプロ中のプロだろう。

 そんなとこで手伝いが出来るレベルとはどんな人なんだろうか。

「今説明した二つがランチの柱だね、夜はその柱にバーをプラスした運営に変わるよ。南君は二十歳まで待ちになるけどね〜」

「ん?南は参加出来ないんですか?」

「営業は出来るけど、お客さんと少し飲みながら接するシーンのあるお店目指したいからね。まだ二十歳じゃないから表には出れないね」

「南、誕生日いつなの?」

「十月です!三ヶ月後くらいですね」

「その時はお酒を教えてあげるよ〜翔君は飲めるの?」

「俺は……そう言えばあまり飲んだ事無いですね」

 二十歳の翔ではあるが、そう言った飲み会の機会は無く家でも飲む事は無かった。

「そっか〜じゃあ少しずつ教えてあげないとね〜」

 北見は酒が好きそうな気がする、なんとなくそう感じた。

 ひとしきり北見からの大きな説明が終わり、レイアウト等細かな確認、レシピに合わせた棚割りの再考などを行い今日は解散となった。


「二人共またね〜」

 北見にお辞儀をして店を出る。

 帰り道に南とメニューについて話し合う。

「パスタは定番パスタがなのが意外だったわ」

「そうですね、イタリアンの賞獲ってるしてっきりオリジナル要素あると思ってたんですけど」

 貰ったレシピのメニュー名を見ると、誰しもが聞いた事のあるパスタの名前ばかりだ、聞きなれない物もあるが知識ある南から教われる程度には定番らしい。

「パスタとピッツァ生地作りがキモになりそうです」

 南の言う通り、味や食感を既製品ではない手作りで調整する事になるのは大事な仕事となりそうだ。

「なあ南、俺ワクワクしてるよ」

「あはは、僕もですよ!」

 湧き上がる好奇心が二人の背を押していた。


 ——いつもの空き地

 日が暮れ月が浮かび、昼の暑さも収まった空き地。

 吹き抜ける風が心地良い。

 マサムネを見なくなって三日目だが今日は……


 ポツンと空き地の真ん中に座る猫が見えた。


「……よう、マサムネ」

「……久しぶりだな」

 相変わらずの無愛想な奴だ。

「どうしたんだ?この数日居なかったが」

「……少し遠出をしててな、用は済んだ」

 野良猫も用事とかあるのかと翔は思ったが、黙っておく。

「今日は子分に食べられなくて済むな」

 翔は持ってきたタッパーを開け小さく切り分けたマグロを出した。

「む?どうしたこんな物を珍しい」

 マサムネは思わず立ち上がり近寄ってくる、本能が抗えないようでマグロに吸い寄せられている。

 翔は笑いながら2切れ程マサムネにあげる。

 ちゃんと噛んでるか?と言いたくなるスピードでがっついていく。

「……マサムネ、やっと新しいスタートを切る実感湧いてきたよ」

「……ふん、良いじゃないか」

「ああ、お前と出会ってからだな」

「俺はただ野良猫をしているだけだ、出会いもあれば別れもある」

「達観してるなぁ……」

「野良猫に出来る事は少ない、ただ側に居るかぐらいしか出来ん」

「……なんかあったのか?」

「……過去は過去と言う事だ」

 マサムネは月を見てマグロを寄越せと前脚でちょいちょい引っ掻いてくる。

 猫っぽく無いけどしっかり猫だ。

「翔よ、お前はこれからどんな未来を描くのだ?」

「なんだ藪から棒に……そうだな、心機一転新しい店で生きていくかな」

「……ふむ、その日暮らしの野良猫にはわからん」

「聞いといてなんだよそれ……でも猫らしくて良いな」

 マサムネはマグロを食べ終え満足したのか寝転がりだした。

「警戒心の無い奴だな」

「……人を選ぶ」

 少しは認められているようだ、マサムネはゴロゴロ言ってる。

 この三日程会わなかっただけで妙に人慣れしたような、そんな気がする。


「明日もマグロを持ってこい」

「毎日持ってくる訳ねーだろ」

 軽口を叩き合いながら一人と一匹は月を見上げる。

 柔らかな少し温かい風が吹き抜けた。

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