創造と結末と想い
アルコバレーノの棚割り決めや改装手伝いが始まり、一日目を終えた。
営業しているわけじゃ無いから、際限無くイメージに時間を取られる。
まだ始まったばかりだが店がスタートする時には形になってないといけない。
やはり緊張を感じる翔と南であった。
翌日は休みなのだが来てしまいたくなる。
北見は店長として「ダメだよ〜」と笑いつつ「プライベートをしっかり取ってね」と嗜められた。
時間は十五時を回った所、少し早いが買い物等をして帰るかと南と別れ、いきつけのスーパーへ。
これまでの二年間洗い場だけ、技術を盗む事も出来ない死角に居た事を考えれば、飲食歴二年の調理新人。
自炊はしているので包丁や火はまだ使えるが、レストランキッチンは果たしてどのぐらい動けるか……翔の懸念材料だった。
後輩に当たる南は既に経験がある分こなすだろうし、見てる視点視野の違いを感じる。
負けないようにくらいつかなければいけない。
やる事は多い。
そんな風に思いながら買い物を済ませていく。
——当日、満月の夜
昨夜は姿が見えなかったマサムネは居るかと空き地に行く。
ぱっと見いつものポジションには見当たらない。
「今日も居ないのか?」
相手は野良猫、地域のボス猫だが事故を心配してしまう。
今日も諦めるかと、少しだけカリカリを撒いていくと野良猫が集まり出した。
コレまでマサムネが側に居たから近づかれなかったが、今日はやたらとフレンドリーだ。
猫達の間でヒソヒソ話が始まる。
「おい聞いたか?ボスが消えたって」
「ああ、今日も見てないなアホ面した人間は来てるのに」
翔は猫の言葉は分かる、逆は通じないが。
(猫から見ると俺ってアホ面に見えるんかなぁ)
言葉が一方的に聞こえる分、ちょっと傷付く。
しかし、マサムネは行方が猫達の間でも分からないようだ。
仕方ないので、その場に居た数匹に持ってきた茹でささみを分けてやる。
うにゃうにゃと言いながら掻っ攫っていく猫達の中からコテツが顔を出した。
「そう言えば猫に名前等あるかって言う割に、名前付いてる奴居るよな」
こちらの言葉はマサムネ以外理解してないらしいが、「コテツ」と呼んでみる。
ピクリと耳をこちらに向けたが顔までは向けて来ない、声を発した事に反応した程度か。
翔は目の前の野良猫達を見て思う。
(以外と野良猫って多いんだな)
今空き地には確認できるだけで四匹、もしかしたら物陰からこちらを伺う者も居るかもしれない。
皆それぞれがこの超人間社会と化した街中で生きている、それぞれの生き方で。
生まれた数より圧倒的に少なくなっている野良猫達は、交通事故だったり病気だったり拾われたり。
そう考えると自分より「生きる」事に厳しい環境を生き抜いてきたのだろう。
お腹が満たされてだらけだしているコテツも可愛らしく見えて、裏では激しい生存環境を生き抜いてここまで来た。
「俺なんてまだまだ温い世界だな」
翔は猫と満月に呟いた。
——翌日
「……はっ!」
午前七時、今日は何も無いのに飛び起きてしまう。
前職の癖は抜けそうに無い。
ふと思い出す、潰れた職場だった「ネロ」の鍵をまだ持っている事に。
「さすがに持ってるのはマズイよな」
翔は目覚めたついでに警察へと向かった。
あの日事情聴取を受けた日以来だ、元店長の東はここに勾留されているのだろうか。
「……もう関係はないか」
翔は苦笑して、中に入り受付へ事情を話した。
係の警官に促され署内の刑事課前に待機する。
悪い事はしてないが警察署は何か落ち着かない。
少し待っていれば刑事らしき人が出てきて話を聞いてくれた。
「あー成程……今回のネロの件は事件扱いなので、証拠物でお預かりしますね」
事件扱いと言う言葉に胸が痛んだ。
東の逮捕からキリは付けたはずだが、翔は被害者としての立ち位置で今後の捜査に協力をしていかなければならない。
やはり気分が完全に晴れやかにはならないのが現実だった。
刑事に鍵を渡して警察署を出た翔は、自然とネロへと向かっていた。
事件から数日経ったネロは陽の光に照らされた看板と正反対に見える中の様子は時が止まり、空虚な雰囲気を醸し出していた。
人が居るか居ないだけでこんなにも空気の変わる物かと、翔は目に焼き付けた。
おそらく人生に於いて、ここで受けた二年間の心の拘束は晴れないだろう。
ただマイナスには捉えず、いつか武器に成り替わるまで翔は戦い続ける気だった。
「ここはどうなるんだろうな」
捨てられた店舗「ネロ」はこのまま朽ちていくだけか、誰かが壊すのか。
翔には関係ないとは言え、気にはなった。
店の末路とだけ考えれば良い終わり方では無い、だが店を持つ以上廃業はあり得る事。
翔自身「店を持つ」を目標にしているのだから綺麗事では済まない世界。
そして、目の前の店が一つの結末を迎えた事実。
翔は自身の夢の先を少し怖く感じつつ、こうならぬ様強くならなければと誓った。




