石窯の可能性
「じゃあ今日宜しくね」
改装中アルコバレーノに集まった翔と南は見渡す。
然程大きな店では無いが工事の様子が想像以上に大掛かりだった。
元の店は店長の北見の父が運営していたイタリアンだが、素人目にも再構築しているのが見て分かる。
「店長、居抜きでレイアウトを持ってこなかったんですか?一度白紙からやり直してるような……」
そう南が面食らっているのも分かる。
何度か面接や契約で客席部分までは見ていたが、心臓部のキッチンはまるで新しい店を作っているかのように思える。
「ふふ、そうだね〜父の店だったし馴染みはあったけど折角やるならね?」
北見はカラカラと笑い、大きな緩衝材と紙に包まれた機器?をポンポンと叩く。
「コレが君達にとっては物珍しいかな」
土台はしっかりしているようでチラチラ見えるレンガの面、上部はドーム型だろうか紙に覆われて全貌は見れないが……
「もしかして……石窯?」
南が一つの答えを導く。
「お、さすがだね〜使った事ある?ピザや釜焼きに使うけど、それだけじゃ無い役割があるんだよ」
「調理以外に使う役割……ですか?」
翔も疑問を投げる、南もなんなのかはわかっていないのか首を傾げている。
「うん、その為に石窯だけは場所決まってるんだ〜まあそれはキッチントレーニングの時に明らかになるよ」
北見は「今は秘密」と言い店奥に誘ってくる。
キッチンになるであろうステン台も組み上がって来ている、問題は食材数量とメニュー構成。
ここが無いと食材棚割りや調理器具の置き場、導線が繋がらない。
「じゃあ今決まっているメニューはこれね〜」
イタリアンらしいパスタやピザをメインに、チーズや生ハムを使ったサラダの名前が載る仮メニュー表を出されて二人は見入る。
定番の名前、そして一つ一つに店のレシピもある。
全て覚えこむには一苦労だろう、そして物の場所もこれからリンクさせていかなきゃならないし、リンク先を決めるのは翔と南。
責任重大だと震える反面、翔は期待に胸が躍る。
「なんだか嬉しそうだね二人共」
北見は不安と期待を入り混じる二人の新人を微笑ましく見ていた。
大型機器に関しては店長である北見が選定して、初期位置は概ね決められている。
翔と南で調理器具の場所をイメージしながら案を出し、北見にチェックしてもらう流れになった。
「とりあえず先輩の背丈に合わせますか?」
南から提案があった。
四人目のスタッフが分からないものの、北見、翔、南の順に身長は並んでいる。
実際は店長の北見が高すぎるのだが、遺伝子的なもので仕方あるまい。
北見も「コレばかりは中央値だろうね」と譲ってくれた、背の高い人のキッチン台高さ問題は辛いだろうに……と翔は合掌してお礼を言う。
「じゃあ俺の身長ベースに上からか……壁掛けラックあるな、これに引っ掛けるスタイルにするか」
お玉やトング、さらにはフライパンとイメージを紙に起こしていく。
実際は二週間後のキッチントレーニングで使い出す物だが、先に用意を出来るならして行きたい。
積み上がった段ボールにはそれなりの量の調理器具があるし、目玉の石窯設置によってイメージもズレてくるだろう。
先準備しといて損は無いはずだ。
翔はざっくりと自分の身長に合わせて、物を当てがい写真も撮っていく。
ふと南が何かを見つめている。
視線の先は石窯だ。
「どうした?」
「あ、いえ、石窯で作る料理ってどんなんだろうなって」
「まあ確かに気になるな……ピッツァは定番だろう?」
「外せないと言うかメインでしょうね、ただそれだけじゃあ目玉にならないような……」
調理学校首席、個人として料理人の高みを目指す南視点だと見てる所がちがうんだろうか。
翔は石窯ピッツァなんか凄いとしか思えていなかった。
「南君、よく見てるね〜石窯の可能性感じてるんだ」
奥で作業をしていた北見が顔を覗かせた。
「店長、石窯ピッツァをウリにするんですか?正直……インパクトに欠けるような」
結構南はズバッと言ってしまう。
「アッハハハ!そのままの調理機器としてならね?」
北見が笑いながら一枚の絵を渡してきた。
「これは……」
思わず声が出た。
その絵は客席から見えるピッツァを焼いているイメージ図、つまり見える石窯だ。
「まあまだ詳細は置いといて、ライブ感のある場所になるよ〜君達も修行してやってもらうからね!」
「南ピッツァ作れる?」
「いえ、だって前の店冷凍生地だったじゃないですか」
「え?そうだったの?」
「先輩……本当に二年間洗い場に幽閉されてたんですね……」
なんだか悲しい事実を再確認してしまった。
「君達は無限の可能性があるから鍛えがいがありそうだな〜」
北見はカラカラと笑いながら、また奥へと入って行った。
南と目を見合わせ「頑張ろう」と気合いを入れ直した。




