新しいスタート準備
ネロが閉まって四日目だった。
スマホが震えている……
「……はい、もしもし」
「おはよう〜ごめんね、寝てたよね?北見です〜」
翔は跳ね起きた。
「すいません、店長!!」
「ああ、大丈夫大丈夫!急ぎ確認取りたかったんだけど大丈夫かな?」
「はい!」
「えっと二点あって、一点は改装の目処が立って二週間後にはキッチントレーニングが出来るんだ。だからそこからスタートになるよ」
ついにスタート、まだ営業はしないがオープンスタッフのトレーニングだ。
「それともう一点だけど、翔君達の事情が特殊じゃない?南君から聞いて驚いたよ、収入減るよね」
元居た「ネロ」が急な閉店、給料の見込みが無いのは事実だった。
現在警察と行政に動いて貰っているが逮捕された東のワンマン経営で、その辺りの事は全て宙に浮いたまま。
店も放置のままどうなるのかまだまだわからない。
「そこでだけど——」
——アルコバレーノ前
「よう南!」
「先輩!」
晴れて同僚になるのが確定した二人は店に呼び出されていた。
キィ
まだドア鈴も無いアルコバレーノの扉が開き、店長の北見が出てきた。
相変わらず綺麗な金髪を靡かせ、耳にはキラリと光るピアス、そして青い目をしたどう見てもイタリア人の見た目な北見隼人だった。
「いやいや皆揃うのは初めてだね〜翔君と南君改めてよろしく〜」
翔と南は揃って「よろしくお願いします!」と声を上げる。
「元気だねぇ〜まだ改装中なのに、若さは良い事だ」
おいでおいでと店の中に招かれる。
翔はここに来る前に聞いた北見の提案を再確認した。
「本当に良いんですか?店長監修とは言え俺達が棚割りや物の置き場決めて……」
北見は二人が普通じゃ無い職の失い方をしたと聞いて、日雇いバイトのような言わば手渡しの仕事を先回ししてくれたのだ。
「正直めっちゃ助かります」
南は入って半年程だった為、蓄えも少なかったはず。
翔は二年あったので僅かながら蓄えはあったが、不安は強かった。
二人にとって感謝しきれない程、ありがたい提案だった。
「良いよ良いよ、私もメニューを早く考えられるしオープンチラシも配りたかったからね。そちらも任す事になるよ」
「あの店長……?」
南がおずおずと聞く。
「オープンスタッフって……と言うか他のスタッフは……?」
「ふふふ、私と君と翔君そしてもう一名居るよ、また今度紹介するね」
総勢四人、少しギリギリじゃないかなと心配はある。
それに四人目とは?
「とりあえず二週間後のキッチンが使える様になってから一週間、つまりオープンは三週間後に決定だ!」
パチパチ
自然と拍手が起こった。
「トレーニング内容を見てポジションは決めるけど、一つにこだわらず全部やってもらうよ。覚悟してね」
「はい!」
南は何をやらせてもこなすだろう、問題は翔自身だった。
これまでやったのは洗い場の二年間、店の料理や設備など触れていない。不安を感じてしまう。
「ほーらリラックス〜僕が付いてるんだ半端な事はさせないよ?もちろんスパルタだけどね〜」
にこやかに笑う北見の顔が一瞬怖く感じる。
「とりあえず、明日九時から十五時で来て貰おうかな週三ベースで二人合わせて……ごめんね、それが人件費予算の限界なんだ〜」
北見は申し訳なさそうに謝ってくる、だが元は翔と南の二人の生活を助ける為の急遽考えられた策。
ありがたい事だった。
「しかし、なんか店作りって感じでワクワクします」
「先輩も思いました?なかなか出来ないですよ、こんな段階で関われるの」
「君達は若さ故の眩しさがあるねぇ、おじさんも頑張ろうかな!」
「……店長って何歳なんですか?」
「ん?三十八歳!もうすぐ四十だねぇ……嫌だねぇ」
あからさまに凹み出した、あまり歳には触れないようにしなくてはと翔は思ったが、全然もっと若く見えるよなと首を傾げてた。
「先輩、多分金髪ピアスで若く見えすぎてるんす」
(あーなるほど)
「帽子はするし、ピアスはちゃんと外すからね?あ、君達もやる?」
やる?とはピアスなのだろうか、翔は痛いのはゴメンだとやんわり断った。
「ピアスかぁ……どうしようかなぁ」
南は少し惹かれている。
三人の緩いレストランの形が始まり出した日だった。
——その日の夜
「そろそろ満月っぽくなってきたな」
ふっくら太りだした月を眺めて空き地に行く。
「マサムネー」
いつもの空き地のいつもの場所でいつもの虎柄猫が……居ない。
マサムネと出会ってから約2ヶ月、天候や寝ていたりで一日空く事はあっても居ないと言うのは無かった。
「あれ?どうしたんだろう……」
いつも空き地の真ん中だが、隅にでも居るのかと探し回る。
見当たらない。
「あれ……おかしいな」
不審に思ったが、相手は野良猫。
元々気まぐれ自由気ままな野良猫だ、今日だけ遠征したのかもしれない。
悪い風には考えない様に、少しだけカリカリを撒いて置く。
「……マサムネ」
いつの間にか月夜の下のマサムネが当たり前だったと、気付いた夜だった。
その日は会えずだが明日は会えるはずだと、翔は振り返りながら帰宅していった……




