眼
——夕日が差し込む部屋
「……はっ!」
翔は飛び起きた、時刻は十七時を回っている。
昨日の騒動から朝まで警察、店と空き地を寄り道して帰宅した。
その時点で二十四時間無睡で動いていた。
最後の空き地でマサムネと話をして帰宅、力が抜けて泥のように眠っていた。
「やっぱり疲れはあるよなぁ」
ぐぐーっと伸びをして、遅くなったが今日は水曜日。
買い物に行かなきゃと動いて思い出す。
もう店は営業出来てない事に。
後からくる現実にはどうも追いつかない。
身体が二年間のサイクルを刻んでいる、多分明日朝も同じように起きてしまうのだろう。
幸い次の職場「アルコバレーノ」には内定しているが、店改装の為まだ諸々スケジュールが立たない。
それに、翔には話をしないといけない相手も控えていた……
スマホを見ると着信履歴が溜まっている、後輩の南からだが面接の結果についてだろう。
(寝ていてすまない、限界だったから許してくれ)と祈りながら折り返した。
「……プッ、あ!先輩!?」
「すまない、睡魔にやらてしまってな……面接どうだった?」
「いやぁ、驚きましたよ……もろ外人さんでしたから……」
やはり南もアルコバレーノの店長北見に驚いたようだ。
「あの、それで先輩と話をしたい事がありまして……」
「ん?話?」
「と言うか店長の北見さんが一度先輩と話してからまた来てって……だから面接は保留なんです」
翔は首を傾げた、自分ならともかく南は人柄もスキルも即戦力なはず。即決だと信じていたが話が変わってきている?
とにかく合流出来る喫茶店で、すぐに待ち合わせをした。
「南」
店の前、同じタイミングで着いた。
「とりあえず、入ろう」
入った喫茶店は全国的チェーン店、規模の大きさからどこにである一般的な店として認知される。
席に着きコーヒーを注文、提供されて一口。
お互いが息をついて、話が始まった。
「北見さんは夢があるか聞いてこなかったのか?」
「はい、最初に聞かれました。面食らいましたよ、そんな面接初めてだったし」
流れは翔と同じだ、となれば違うのはその先か。
「正直に答えましたよ、僕は腕を磨いて世界に通用する料理人目指すって」
南の夢、世界の料理人。壮大な夢を持っている……
「北見さんは見てきたと思うが……なんて?」
「……まだまだ小さいねと」
小さい?夢がか?器がか?南の情熱は伝わったはずなのに何故?
翔が首を傾げると南は続けた。
「その後言われたんです、翔くんに君から聞いてごらん、と」
どういうことだ?
南は姿勢を正し、聞いてきた。
「先輩、先輩の夢って……なんですか?」
改まって後輩に聞かれたら恥ずかしい……が、そうも言えないので、ありのまま正直に答えた。
「俺は……自分の店持って、母さんにきて欲しい。そんな小さな夢だよ」
口にすると恥ずかしいが嘘偽りは無い、正直に南を見据えて答えた。
南はそれを受けて少し考える、そして何かに気付いたようだ。
「……あ、そうか」
「何か分かったのか?」
「北見さんが先輩に聞いておいでって……たぶん」
「何だ?」
「……また明日面接してくれる約束なんです、それまで待ってもらえますか?」
南は真剣に今何かを気付いたようだが、翔はピンと来ない。
夢のスケールなんか南の方がデカいし将来性もある。
北見は南に何を感じたのだろうか……
翌日仕切り直しの結果を待つしか無い、今日は雑談で終いとなった。
——夜が更け
いつもの月、いつもの空き地、いつもの猫。
「よう、マサムネ」
「……仕事は無くなったんじゃないのか」
「いやいや、仕事場が変わるだけだよ!」
「……人間とは餌場が一つしか無いのは不便な生き物だ」
マサムネは遠くの月を眺め言う。
「なあマサムネは人……いや猫か、猫の信頼が出来るポイントって何で判断するんだ?」
「信頼か……基本的に猫同士最初から信頼はせん」
「え?でもコテツとか懐いてるじゃん」
「あれは服従、自ら配下となっただけだ。いつ寝込みを襲われるかわからん、それが野良猫だ」
「そ、そうなのか?あんなにボスボスって懐いてるのに」
「それは俺がまだ力を持つからだ、老いて力が弱まれば維持も出来なくなり下剋上が起こる、そしてまた地域のボスが生まれる」
野良猫の世界とはシンプルな力の世界なんだなと、翔は震える。
「何でそんな事を聞く?」
マサムネは自分の体を舐めながら聞いてきた。
「いや、人って複雑なもんで見た目だけじゃ分からない力持ってたりするもんでな、猫達にはそんな判断するポイントがあるのかなって」
「ふむ、無くはないぞ。眼だ。」
「眼?」
「前に言っただろう?猫は眼や表情で察知すると」
「ああ、そうだったな。お前と普通に話せてるから忘れてた」
「ふん……眼は感情の他にソイツがどんな生き方をしてどんな思考を持つか表してくる、それが判断材料にはなる」
眼で語ると言ったところだろう、そしてその経験は翔にもある。
アルコバレーノの北見の眼、あれは見られた側だが確実に情報を吸われたような感覚だった。
第六感的な言い表せない何かは確かにあると信じる。
「人間にも猫にも似通った所はあるんだな」
「……四足歩行もしない人間は疲れてばかりだがな」
「ハハ!違いない!人間は疲れるな確かに……でも悪くはないさ」
「……満足なら良い」
「っとほら、今日の話代だ」
翔はビニール袋からパラパラと小さな物をマサムネにあげた。
「これは……ガジガジガジガジ」
「出しガラ煮干しだ、お前らは好きだろ?」
「……悪くはない」
「皆居るのか?」
「ああ、狙ってるぞ」
「ほーらよ」
パラっと袋の中を撒いてやる。
暗闇に光る眼がいくつも見え、素早い動きで煮干しを攫っていく。
「……いつか通報されるかなぁ?」
「人間社会の事は知らん、餌付けが罪と言うなら俺達はもう絶滅している」
毎日夜に皆に感謝の餌付けとなると、お巡りさんや近隣住民に注意されそうだ。
だけどもう少しだけ許して欲しい、翔は月を見て思っていた。




