マサムネ
カリカリカリガリガリ!!
なんだか凄く嫌な音がする、翔は寝ぼけながら頭を上げ見回した。
玄関の下の方に動く物体が見える……猫だ。
明るい所でよく見れば綺麗に左右対称の虎柄?虎猫?だろうか、妙な風格を持つ。
「そうだ!おまえ大丈夫なのか!?」
ドアをガリガリしていた猫は振り向いて言う。
「アホ人間と一緒にするな、あんなもん一晩寝れば問題ない、それより開けろ」
とても一晩で回復するよな状態には思えなかったのだが、動き回ってるので多少は回復したのか?
いつの間にか包帯も千切ってその辺に捨ててある。
大きな怪我だった背と腹は毛に隠れ気味だが出血は無いようだ、耳も出血はしていないが少し裂けている。
「ったく、人間の言葉喋る猫にも驚いたってのに回復も早いなんて……」
「……そう言えば何故貴様は猫の言葉を喋るんだ?」
「……?」
翔は言われた意味がわからなかった、幼稚園でも小学校でも猫語なんて習っていない。周り含めて人間しか喋った事はない。
「お前が人の言葉喋るんだろ?」
「そんなもの喋る訳ないだろう、猫だぞ」
少し考えてみた、翔はこの猫が喋る言葉を理解している。猫は翔の言葉を理解している、言い合いが出来るほどに。
だが互いにおもうのは「何でコイツ自分の言葉を喋れるんだ?」と言う事。
「俺は働きすぎておかしくなったのか?」
「ふん、どうでもいいからここを開けろ腹が減った」
「お前……そんな病み上がりで外出て大丈夫なのか?」
「アホ人間か、我ら野良猫はその中で生きて行かねばならぬ」
「……よし、ちょっと待て」
翔は立ち上がり冷蔵庫を開けた、丁度良い具合にササミがある。
湯を沸かし細切れにしたササミを茹でる、そして冷水で締めて猫に出してやった。
「む……貴様、俺に餌付けをしようと言うのか?」
「そんなつもりはないよ、まあ流石に昨日の今日だ、食わないなら俺の朝飯に調理しちまうぞ」
猫はおそるおそるササミに近づき一口、そこからは怒涛の勢いでがっつき出した。
(腹減ってたんだな)
翔は何故か言葉を交わせる不思議な猫を見て笑う。
しかし何故話せるのか?他の猫とも話せるのか?
興味が湧いて来る。
「おい、野良猫よ……名前は無いのか?」
猫はがっつきながらチラッと翔を見て顔を上げた。
「名前を名乗るなら自分からだろうが、アホ人間」
「コイツ……俺は大坂翔、翔だ」
虎柄の猫は大き過ぎず小さ過ぎない締まったしなやかな身体を伸ばし、あくびをして舌なめずりをしてから言った。
「俺はマサムネと呼ばれていた、別に好きに呼べば良い」
カッコいい名前だ、虎柄に映える名前だろうか。
「一応……翔、お前には世話になった、礼を言う」
意外と礼儀も出来ているのか?アホ人間呼ばわりされていたが……
「マサムネ、なんだって昨日あんな喧嘩してたんだよ」
「……あれは喧嘩では無い、決闘だ」
「決闘?」
「昨日の者はこの地に流れ着いたばかりの新参者、俺の縄張りで巨体を活かして乗っ取りを企てたから返り討ちにしてやったまでだ」
野良猫の世界にはヤクザ的なルールがあるんだろうか。
側で見てたが命の奪い合いのような戦いだった。
でなければマサムネも瀕死になっていなかっただろうに。
「マサムネはこの辺のボスなのか?あまり野良猫なんか見ないぞ最近」
「ふん、人間が幅を取りすぎなだけで俺達は自由に生きる。家猫とは違うのだ」
マサムネが言う声のトーンにプライドの高さが見える。野良猫には野良猫の矜持があるのか。
「さて、話は終わりだ翔よ、ここを開けろ」
今出て行くと言わんばかりに玄関前に座り込むマサムネ、なり行きで一晩泊めたがペット禁止物件だ。
「まあ、あんま無茶すんなよ」
翔は扉を開けた。
マサムネは隙間を縫って堂々と出て行く。
「助けられはした事に感謝はするが、深追いはしてくれるなよ翔」
最後に一言言ってマサムネは街へと消えていった……
「なーんか不思議な体験したなぁ……」
野良猫の縄張り争いから喋れる猫に会う、誰に言っても笑われ者となるだろう。
夢じゃないかとさえ思ったが、マサムネにササミを出した皿がそれを否定している。
「とりあえずまあ無事で良かったか……」
幸い今日は定休日だったから、見過ごす事無くキリは付いたので後味も悪く無い。
「おっと、俺も飯食って勉強しよ」
翔は自分の店を持つ夢の為に授業中、イタリアンレストランの雑用だが知識を更新する事は日課だった。
流石に昨日のマサムネとの出会いはイレギュラーだったが……
翔はそれ程気にしていなかった、世の中にはいろんな事があるもんだと楽観的な性格が持ち味なのだ。
「明日は店開けて……野菜下拵えに……洗い物と掃除で……」
マサムネの事は過去にして、早くも明日の事を考え出していた。




