起こるべく起きる事件
マサムネ率いる野良猫ガーディアンズに守られて一週間近く経った。
さすがに物陰から何か隙を伺うスタッフは少なくなり出したが、残り一週間気を付けなければと翔は神経を尖らせていた。
外がダメなら中での嫌がらせが強まってきている。
幸い南が居るとこでは行われないようになっているのか、頻度は少ないのだが貴重品は持ち込みづらい。
先輩スタッフが荷物を漁る、または乱暴に位置を変える等が発生している。
全て監視記録用に設置しておいたスマホカメラから確認が出来た、証拠として然るべき所に持ち込んでも良いのだが、後一週間で縁の切れる場所だ。
それに目的はあくまで何かあった時の記録で、人に対しての復讐心なんかは無い。
翔は自分で驚く程、店とスタッフに無関心になっていた。
あまりにも幼稚に思えてレベルを合わせる気にならない。少し気になるのは店長の東の動きだった。
腹いせにスタッフを扇動しているのが、なんとなく分かる。
しかし、そこまでして下っ端の自分に固執する理由が分からなかった。これまでの言動から、本当に翔の事を便利屋扱いでしか見られてないのが理解している。
辞めると言われた事がそんなにプライドを刺激したのか?それにしては人間が狭すぎる。
今となっては自慢にもならないが、二年間無遅刻無欠席に加え自主的に勉強と称して早出残業をしている。
知識経験の無い無垢だったからおかしいと思わなかった自分、それも一つ社会勉強になった。
逆に言えばそれしか学べなかった。
それだけは悔しい、消費した時間は戻らない。
「……まあ、今更だ」
翔はモヤる頭を振り払い、店を開けに行った。
店前に見えた後輩の姿、自分を真似る必要なんか無いのに毎日付き合ってくれる。
「おはよう南、あと一週間だが……朝と夜付き合わなくて良いんだぞ?」
「へへ、馬鹿なのは分かってます」
南には次の翔の職場、アルコバレーノの面接紹介をしている。明日定休日に面接だ。
(もしも南まで抜けたら……ここネロは仕込み準備も鍵開けも閉めもトイレ掃除とかも出来なくなるんじゃないか?)
変な心配をしてしまうが、誰か別の……雑用係を雇うんだろう。少し負の連鎖になりそうで表情が曇る。
「先輩?」
「ん、ああ何でも無い」
「僕、こうした雑用ってさせて貰えなかったんですよ」
南が納品野菜を洗いながら言い出す。
「勿論調理学校で基礎は学びましたよ?でも周りからの期待とかイメージとか……自分を勝手に崇高な?イメージ作られて持ち上げられてばっかで」
なんとなく想像は付いた。
南は顔立ちも良く所作も綺麗で「王子様」みたいなイメージがどうしてもあるのだ。
肩書きも店からすれば有名調理学校の首席卒業、それに恥じない技術も習得済みでコミュニケーション能力も高い。
そしてこの一ヶ月朝夜を共に過ごして、一番は芯の強さが魅力だと思えてる。
南は人が出来ているのだ、圧倒的に。
年齢は一つ下の十九歳で二十歳の翔と近いのもあったが、人を見る部分が似通っていた。
だから店からの翔の扱いに腹を立ててくれたのだろう。
「二年も雑用なんて人の人生を舐めすぎです」
と、ずっとご立腹だった。
怒ってくれているのが嬉しかったし、怒る姿を見せてくれて初めて自分の置かれた立場が客観的に見えた。
「……感謝するのはこっちだよ」
「え?先輩何か言いました?」
「いや、そろそろスタッフ来るぞ」
翔は思わず口走り、照れ隠した。
営業が始まる。
最後まで洗い場で一日洗うだけになるだろう、でも手を抜く気は無い。
食器等に罪は無い、受け持つ仕事はきっちりやり通す。それが翔の譲れない流儀だった。
昼営業をこなし中休み、翔も一旦洗い場をリセットして休みに入った。
無人になった洗い場……
人影が現れ翔の居た場所で何かをしていた……
夜営業が始まる。
いつも通りにこなして、いつも通り静かに終えるはずだった。
閉店時間になってお客さんが帰り、店内はスタッフのみとなる。
そしてその事件は起きた。
「おい!どうなってるんだ!誰だ!」
事務室から聞こえる東の怒号に皆が集まる。
尋常では無い雰囲気に翔も駆けつける。
古株のスタッフ達が東を囲んでいる
「店長!どうしましたか!?」
「売り上げが無くなってる!」
皆がざわついた。
「お前ら全員探せ!」
東は叫び、スタッフは全員散っていく……
そして、すぐに報告が上がった。
「店長!洗い場にありました!!!!」
翔は驚きのあまり声も出なかった




