北見隼人
——翌日、運良く定休日であり動くには最適なタイミングだった。
翔はスマホの画面、連絡先一覧が表示されている中の一つ「アルコバレーノ」に電話をした。
「はい!アルコバレーノです!」
男性の声が聞こえてくる、改装中だとの事だがしっかり対応されていて安心した。
「恐れ入ります、そちらの求人を見てお電話しました。面接の担当の方お手隙でしょうか?」
精一杯の今の翔に出来る丁寧な言葉だった。
正直体は震えてるし声も上擦る。
「えっ!?求人ポスター見てくれた方ですか?わー嬉しいなぁ、私店長の北見 隼人と申します!」
思ったよりフランクな感じで翔は少し落ち着いた、だがまだ始まっていないので気は緩めれない。
「あ、私、大坂翔と、も、申します」
意識したらいきなり不審者になってしまった。
電話越しに悶えながらやり取りを続ける。
「今お店改装中で申し訳ないけど面接に来れますかね?いつが都合宜しいでしょう?」
「はい、今日でも大丈夫ですが決まった休みは水曜日しかなくて……」
「ふむ、ならば早速今日この後は如何でしょう?十五時以降なら面接時間出来ますが……」
「お願いします!」
翔は思わず前のめりになった、このチャンスを逃したく無かったし縁のような物を感じたのだ。
昨晩マサムネが導いてくれて、翌日には挑戦出来る。
翔はより一層この時間に賭けたい想いが強まった。
動いてしまえばあっさりと決まる、十五時から面接が決まった。
電話越しに柔らかい店長の北見さんも、私服で良い、履歴書も簡単な物で、改装中の汚い店での面接で申し訳ないと……こちらが少し気を遣ってしまうくらいに丁寧に細やかだった。
コンビニで履歴書を買い、写真を撮って家で作成。
書きながら色々な想いが込み上げてくる、二年間で学んだ事はなんだったのか?
もう少し頭が良く要領良く愛想良くとしてたら、ネロでの立ち位置は変わっていたのだろうか。
ただ己の無知さ受け身を反省するのみだ、だが後悔はしない。
良くも悪くも二年を費やし気付けた事もある、人間は皆が皆平等に接してくれる者ばかりでは無い。
猫の方が実力主義に見えてフラットだったりする。
翔は今回を機にアルコバレーノに受かろうがダメだろうが、ネロを去るつもりで動いている。
おそらくネロ側から何かしらの嫌がらせはあるかもと、これまでの自分への接し方から警戒した。
翔はマサムネとの出会いと、初めての後輩と認めた南から自分の立ち回りを変えていた。
「ふぅ……おっと、向かわなきゃ」
二年間の自分と、この一月程の自分に想い巡らせていたら時間が迫っていた。
昨日の深夜ぶりにアルコバレーノへと到着した。
明るい内に見ると小さな個人店と言った感じだ、少し路地に入った立地で目立たないの印象だが……
入口から改装業者と共に店の関係者らしき者も出て来て、翔は目を丸くした。
背の高い見事な金髪の外人が居る……
遠目にも日本人でない事は明らかに分かる。
少し動揺が隠せないまま、金髪の外人は翔に気付いた。
「やば、目が合っ……」
「君、大坂君かい?」
外人から名前を呼ばれ、更にパニックとなる。
「ハハ、驚くよね〜こっちおいで〜暑いから中で話そうよ」
フレンドリーにおいでおいでと手招きをしてくる。
(まさかとは思うが……そうだよなたぶん……)
「ハイハイごめんね〜びっくりしたよね?私が北見隼人、アルコバレーノの店長なんだ〜」
翔は完全にフリーズしていた。
近くで見れば髪の毛一本残さず金色、眼が青?緑?綺麗な目の色、おまけにピアスまでしている。
ネロの店長東も派手めであるが、服装による雰囲気でホストみたいな派手さだった。
しかし、アルコバレーノ店長北見はガチの外国人でインパクトが違いすぎる。
「ふふ、リラックスしてよ〜緊張が解けるまでお話しようか?僕イタリアのハーフだけど日本生まれだから言葉は大丈夫だよ〜国籍も正真正銘日本人だからね?」
物凄くフランクな人だ、見た目で身構えてしまったが話される内に力が抜けてきた。
ようやく言葉が出てくる。
「いや、その……驚きました、すみません……」
「ハハハ!最初は皆そうだからね!私は慣れっこだから安心してよ!」
「お名前でてっきり純日本人を想像してました……」
「だろうね、父方がイタリアなんだけど血が濃く出てるのに日本大好きだからって、名前は日本人と一緒にするって決めたらしくってさ〜」
話出すとよくわかる、この人お喋り好きなんだと。
「さて、緊張も和らいだみたいだね?大坂君、面接を始めようか」
ピリッと空気が変わった。
さっきまで気さくに笑う顔のままで、北見は空気を変えた。
翔は「今、この人に全てを見通されてる」と感じる。
初めての感じ……味わった事が無い緊張感が生まれる。
「大坂君は夢あるかい?」
面接の第一声だった。
そして反射的に、心から答えた。
「あります」
高校を出てから二年、何も実績は無いし積み上げた物も少ない。だけどこれだけは、夢だけは常に持っている。
「……良いね、合格」
北見と目を合わせ続け、正確には北見に瞳の奥を覗かれた先を探られたような。
あっけない一言で面接が終わった。
「……え?」
「僕は自分のフィーリングに絶大な信頼を置き突き進みたくなる、エゴイストなんだよ」
「……え?え?」
「君からは信念を感じたしアルコバレーノのスタッフとして迎え入れたい、是非お願いするよ」
北見の笑顔にフワッと空気が和らぐ、翔は放心してしまった。
「おーい、大坂君ー?戻っておいでー?入社時期や書類があるよー」
(受かった……?俺、認められた……?)
翔の目から涙が一筋流れた。
北見は少し驚いた顔をして、また空気を変えた。
今度は包むような、優しい暖かい空気に。
「良かったら今までの君を教えてくれるかな?書類は後で良い」
翔は人に人として認められた事に涙が止まらず、泣きながらこれまでの自分を話していった。




