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月の下、猫が居る  作者: かずや


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イワシつみれと満月


 翔が決意して数日、朝晩の準備と片付けに南が自主的に入るようになっていた。

 翔も自主的に二年やってきていたので、止めることは出来ないが楽しくなってきていた。

 いつも静かな一人であった時間が変わり出した。

 しかし、それを異常事態と捉える者も居た。


「おい、大坂!お前の雑用に南を付き合わせてんじゃねえ!大事なエースに怪我があったらどうするんだ!」

 噛みついてきたのは閉店時、クレームの時に殴って来た古株のスタッフだった。

「……俺は何もやってないですよ?」

「ああ?誰でも出来る雑用なんかさせるなって言ってんだよ!サービス早出や残業なんかさせるな馬鹿か!」

 翔は二年間何も言われなかったのに、南は数日で言われる差が古株スタッフの認識の全てを表していた。

 否定したのは南だった。

「先輩、俺自分からですし学びたい事があるんですけど、学ぶ事はダメでしょうか?」

「み、南……お前が言うなら……いや、南は本当に進んで雑用も知ろうと偉い奴だなぁ!!」

 さっきと言う事が全然違う、信念の無さが浮き彫りだった。


「ほら、騒ぐな騒ぐな」

 店奥から店長の東が出てくる。

「南のような優秀な若者に支えられてるんだ、お前達忘れんなよ」

「うす!店長!」

「……おい、大坂」

 ふいに店長から名を呼ばれる。

「一応お前は南の先輩だが、格が違うのだけは肝に命じろよ?怪我なんてさせたらお前のクビが飛ぶからな」

 以前なら、自分に都合の良い言葉で納得するように「後輩を守れよ」と変換していただろう。

 だが冷静になった今は違う、ただのパワハラだろうとしか受け止めれなかった。

 翔は表情一つ変えず「はい」とだけ答えた。

「……チッ」

 東は舌打ちを残し店から出て行った。

「すいません……僕のせいで先輩が」

 南は責任を感じて謝りに来る、だがそんなのは些細な事だ。翔は力を蓄えて今は少し違った方向の勉強をしていた。


 ——その夜、空き地にて

 今日は満月の為か空き地が明るい。

 いつも通りにマサムネを見つけて横に座る。

「……変わってきたようだな」

「なんだ?お前どっかで見てるのか?」

「知らん、そんな匂いなだけだ」

「ふーん、猫って便利だな」

 翔はカバンから茹でた鰯のつみれ団子を出してやる。

「む?いつもと違うな?」

「ああ、たぶん好きだろうよ」

 マサムネの前に一玉のつみれを差し出す。

 ふんふんと嗅いで口にしだした。

 最初は恐る恐るだが、口にすればがっつきだす。

「なかなか美味いではないか、魚の味は久しぶりだ」

「あ、そうか野良猫だと魚より肉になるんだな」

 猫=魚のイメージだが、よく考えると魚は地面に泳いでないし空も飛ばない。人間が与えない限り食べる機会は少ないのだろう。


 ナァーゴ、ンナァー

 ふと二匹の猫が鳴きながらこっちに来た。

「ボス!ずるいっす!俺も欲しいっす!」

「魚……美味そうっす」

 確かこの二匹は……

「全く……コテツ、タワラムシ食い意地張って外に出る危険を知らんのか」

「でもボスばっか毎日ずるいっす!」

「ボス!俺の名前はタワラマル!ムシじゃないっす!」

 ギャイギャイ言い合いをする猫の集まりが面白い。

 猫の集会ってこんなのなんだろうかと翔は微笑む。


「ほらコテツ、タワラマル、やるよ」

 つみれ団子を二玉投げてやる、一目散に二匹は追いかけて咥えて行ってしまった。

「あいつら……俺の分が減ったではないか」

「拗ねるな拗ねるな、ほらよ」

 マサムネの前にも置いてあげる。

 本能に逆らえないのかマサムネも飛びつく。

「ふっ偉そうにしてても猫なんだな」

 そう言われて不服そうに見てくるマサムネだが、食べる事は止められない。

 一通り食べたところでマサムネが口を開く。

「翔、お前タイミングを見ているようだが何故すぐに動かない」

 マサムネはじっと見つめて言ってくる。

「ん〜人間社会は色々仕事先見つけるのに手続きとかタイミングがあるんだよ、家とか金とかあるからな。野良猫みたいに身体一つでは動けない生き物なんだ」

「ふん……ん?そう言えば……」

 マサムネは立ち上がりキョロキョロし出した。

 そして一つの方向を見て言う。

「翔、付いて来い」

「え?なんだよ」

 音も立てずに猫らしく歩き出す、空き地から出て道路の脇に沿って夜中に猫の後ろを付いて歩く。

 なんだか変な感覚だ。

 空き地を出てから十分程だった。

「あれ、確かここは……」

 翔の家から近い場所、過去何度か通ったが今は改装途中の店が佇んでいる。

 マサムネが店を見ながら言う。

「散歩してた時にここの人間が言っていたぞ、店を改装して人を雇うと」

 降ろされたシャッターには「人員求む」の文字と手書きのイラスト、絵から見るにここもイタリアンでやるようだ。

 ネロと言う名前のイタリアン店が知られた商圏で、思い切った勝負をするもんだと感心する。


「お前、ここで働いたら良いじゃないか」

「マサムネ……簡単に言うなよ……ただ、まあ……連絡はしてみるか」

 思わぬ紹介、何かの縁だろうと番号を登録しておいた。

「店名は……」


 arcobaleno(アルコバレーノ)


「なんて意味だ……へぇ、虹って意味か」

 スマホで検索すれば一発の時代、文明の利器は使わないと損だ。

「店や人間社会の事はわからんが手助けにはなったか?」

「ああ、マサムネありがとうよ!とりあえず挑戦してみるよ」

「……ふん、またいわしつみれを持って来い」

 マサムネは軽やかに民家の塀に登り闇夜に消えて行った。

「あいつ、ツンデレ猫ってやつかな?」


 意外と近くにあったチャンスを教えてくれた、マサムネに感謝をして翔も帰宅して行った。

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