第81話:ファラオ様との時間
ファラオ様に連れられ、部屋へとやって来た。そしてそのままベッドに寝かされた。
「可哀そうに、相当深く切ったのだね。まさかこんな事故に巻き込まれるだなんて。ただ、現場がソラ嬢の家の近くで、すぐに対処してもらえたと聞いたよ。彼女には本当に、助けてもらいっぱなしだな。
今後事故の調査が入るだろうから、僕もその調査に参加するよ」
「ファラオ様、その件なのですが、お父様を中心にサラ様のお父様やルドルフ様、ルドルフ様のお父様が中心になって調べて下さるそうですわ。既に事故の原因なども、ある程度突き止めている様ですし。
それに私とお兄様が怪我をして動けない以上、アラバシア王国との交渉も、ファラオ様とアレック様、セシル様の3人で行っていただかなければいけなくなるのです。今大詰めを迎えているところなのに、本当に申し訳ございません」
「どうして君が謝るのだい?こんな大けがを負ったのだよ。アラバシア王国との交渉の件は、ある程度話はまとまっているから僕たち3人で大丈夫だよ。ごめんね、本当ならずっと傍にいて、ソフィーナの面倒を見てあげたいのに」
ベッドに座っている私の膝に顔をうずめるファラオ様。そんな彼の頭を撫でる。
「その様な事は気にしないで下さい。お忙しいのに、わざわざ我が家の様子を見に来てくださるだけで、十分ですわ。そもそも私たちは、まだ正式に婚約を結んでいる訳ではございません。そんな中、我が家に駆けつけて下さったのです。それだけで、十分嬉しいですわ」
アラバシア王国との交渉も佳境に入り、今一番忙しいときに、私とお兄様が抜けるだけでなく、ファラオ様自ら様子を見に来てくれたのだ。
それが嬉しくてたまらない。
「当たり前だろう。僕にとって、ソフィーナは誰よりも大切なんだ。ソフィーナ、今日は君が眠るまで傍にいてもいいかな?実は今日、無理を言って王宮を出て来たんだ。きっと明日からは、中々会いに来ることが出来ないと思うから…」
「ええ、もちろんですが、よろしいのですか?すぐに王宮に戻られた方が、よろしいのでは?」
「大丈夫だよ。それよりもこっちにおいで」
そう言うと、ファラオ様が私をギュッと引き寄せたのだ。温かくていい匂いがする。ファラオ様の匂い…
「ファラオ様の腕の中は、温かくて安心します。今日は色々な事があって疲れました。ファラオ様、私たち、無事婚約をする事が出来ますよね」
「当たり前だろう?どうしてそんな事を言うのだい?僕は何があっても、ソフィーナを手放すつもりはないよ。僕が愛しているのは、ソフィーナただ1人だからね。愛しているよ、ソフィーナ」
「私も、愛しておりますわ。どうかずっとずっと、傍にいて下さいね」
初めて好きになった、私の大切な人。ファラオ様に出会い、色々な事を知った。人を好きになる気持ち、愛おしいと思う気持ち。ファラオ様の傍にずっといたい、彼を失いたくはないという気持ち。
ファラオ様だけでも、こんなにも色々な気持ちを知る事が出来たのだ。きっとこれからも、色々な気持ちを知っていくのだろう。
その気持ちが、私にとって嬉しいものだといいな…
そっとファラオ様の腕に顔をうずめた。ファラオ様ったら、首元にこんなほくろがあるのね。なんだか前世で見た夜空に浮かぶオリオン座の様だわ。
そう、ファラオ様の首には、オリオン座のちょうど真ん中の部分、3つの並んだほくろがあったのだ。いつも一緒にいるのに、全く気が付かなかっただなんて、私もまだまだね。
何だか妙に眠くなってきたわ。
「ファラオ様、急に眠気が襲ってきましたわ。私、もう寝ますね。おやすみなさい」
「ああ、お休み。ソフィーナがいい夢を見られますように」
そう言ってファラオ様が、そっと唇に口づけをした。なんだかそれが心地いい。
この時間が、ずっと続けばいいのに…そんな事を願いながら、私は眠りについたのだった。




