第72話:ちょっと待って下さい
「ソフィーナ、こっちにおいで。アイリ殿下に王宮を案内してくれてありがとう」
ファラオ様が私を引き寄せた。美しいアイリ殿下を見ても、私だけを思ってくれることが、なんだか嬉しい。
「ソフィーナ様がおっしゃった通り、ファラオ殿下はとても素敵な方なのですね。私の誘いも毅然とした態度で断るだなんて…増々素敵ですわ」
うっとりとファラオ様を見つめるアイリ殿下。この人、私とファラオ様の関係が分かっていないのかしら?
「アイリ殿下、失礼を承知で申し上げます。私とファラオ様は近々婚約を結ぶ予定になっております。ですので、もしファラオ様にご興味がおありになるのでしたら、どうか他の方を当ってください」
いくら他国の王女であっても、ここははっきりと伝えておかないと!そう思って伝えたのだが…
「ソフィーナ様はお美しい優しいし、とても魅力的な女性です。きっとファラオ殿下でなくても、すぐに素敵な殿方が見つかるでしょう。ですが私は、なぜか変な男しか寄って来ません。
私もファラオ殿下の様な、自分の意思をしっかり持っている男性と結婚したいのです。見た目だけに囚われず、1人の女性だけを愛してくださる方と。ですから、どうかファラオ殿下を私に譲ってくださいませんか?」
ものすごい笑顔で、アイリ殿下がそんな事を言いだしたのだ。
「申し訳ございませんが、ファラオ様はものではございません。譲るとか譲らないとか、そう言った話ではありませんわ。それに私とファラオ様は、愛し合っているのです。アイリ殿下もおっしゃってくださった通り、ファラオ様はずっと私だけを思って下さいました。
ですので、どうか諦めて下さいませ」
「ソフィーナの言う通りだ。僕はソフィーナ以外と結婚するつもりはない。どうか他を当ってくれ」
ファラオ様もはっきりとそう告げてくれたのだ。
「そんな!やっと見つけた運命の人なのに!嫌ですわ、私、諦めたくはありません!」
急に子供の様にアイリ殿下が叫んだ。諦めたくはないと言われても…
「アイリ、2人が困っているだろう?そんな我が儘を言うのはやめなさい!ただ…確かにソフィーナ嬢は魅力的な女性だね。私を見ても頬ひとつ赤らめなかったし。それに私ではなく、アイリを誘っただけでなく、楽しそうにアイリと話をしていた。
優しくて笑顔が素敵で、こんな女性に出会ったのは初めてだ…さっき猫を抱き上げた時の君の顔、まるで女神様の様だったよ…ソフィーナ嬢、もしよかったら、私ともゆっくりと話をしないかい?君の事が、もっと知りたいんだ」
なぜか今度は、アラン殿下が訳の分からない事を言いだしたのだ。何なの、この兄妹は!
「アラン殿下、一体何をおっしゃっているのですか?ソフィーナは僕の恋人です。ソフィーナに訳の分からない事を言うのは、やめていただけますでしょうか?」
「別に話をするくらいなら、いいだろう?ねえ、ソフィーナ嬢」
「申し訳ございません。私もファラオ様と同じく、殿方と2人きりで話をするのは控えております。ですので、皆でお茶でも飲むのはいかがでしょうか?」
こんな所で訳の分からない話をしていても仕方がない。一度王宮に戻って、お茶でも飲みながら話をした方がいい。
「わかりました。それでは一度王宮に戻りましょう。ソフィーナ嬢、私にエスコートをさせていただけますか?」
「それでは私は、ファラオ殿下にエスコートして欲しいですわ」
何を思ったのか、笑顔で手を差し出してきたアラン殿下。アイリ殿下もファラオ様の方にやって来た。
「アラン殿下、ソフィーナは僕がエスコートしますので、あなた様は妹君のエスコートをお願いします」
すっと私の手を取ったファラオ様が、にっこり笑ってアラン殿下にそう告げたのだ。さすがファラオ様、動きが早い。
「ファラオ殿下のガードは固いな。だが、そのガードの硬さが私の心に火をつけるというものだ。そう簡単に手に入ったら、つまらないものな」
「お兄様の言う通りですわ。確かに障害が多い方が、燃えますわよね。ファラオ殿下、お隣失礼しますわ」
「それでは私は、ソフィーナ嬢の隣を」
ちょっと、何なのよ、この兄妹。すかさず私たちの隣に来たわ。ちょっと待って、この人たち、どれだけメンタルが強いの?
普通ここまで言われたら諦めない?
厄介な王族が来てしまった。これからどうなるのかしら?




