第54話:胸がドキドキします
悲しそうに呟いたファラオ様だったが、スッと顔をあげ真剣な表情で私を見つめる。今日のファラオ様、なんだかいつもとは違う。
「ねえ、ソフィーナ、アレックとセシルの事、どう思っているの?」
私の髪をひと房掴み、髪に口づけをしながら真っすぐ私を見つめる。その真っ赤な瞳が、なんだか胸に突き刺さる。
「私は…その…」
無意識に後ずさるが、後ろは壁だ。これ以上後ろには下がれない。その上、何だか目がそらせないのだ。
「ファラオ様、私は…」
「ねえ、アレックとセシル、どちらかと結婚したいと考えているのかい?」
ゆっくりとファラオ様が近づいてくる。そして、ファラオ様の唇が、私の頬に触れた。その瞬間、鼓動が一気に早くなる。心臓がバクバク音をたて始め、顔が赤くなるのを感じた。
さらに私の耳元で
「ソフィーナ、教えて。君の今の気持ちを。彼らのどちらかとの結婚は考えているのかい?教えてくれるまで、逃がさないよ」
ファラオ様の吐息が耳にかかり、さらに鼓動が早くなる。
「わ…私は、アレック様もセシル様も、どちらかというと兄の様な存在です。ですから、結婚したいかと言われれば、それは違うかと…」
でも、ファラオ様に対しては、2人には感じた事のないドキドキ感が沸き上がるのだ。この気持ちはきっと…
今にも心臓が口から飛び出そうになる。どうしてこんなにドキドキするのだろう。
「ソフィーナ、顔が真っ赤だよ。可愛いね」
再び私の頬に、ファラオ様の唇が当たる。この人、恥ずかしくないのかしら?私はこんなに恥ずかしくてたまらないのに。
いい加減からかわないで下さい!そう言いたいのに、なぜか言えない。何とも言えないファラオ様の雰囲気に、完全に飲まれているのだ。
「僕の可愛いソフィーナ。僕はやっぱり君を独り占めしたい。ねえ、ソフィーナ、僕の方を見て」
くいっと顔をあげられ、ファラオ様と目線を合わせられた。心臓はバクバク、顔は真っ赤。それでも、ファラオ様の視線から目をそらせることはできない。
ゆっくりファラオ様の顔が近づいてくる。ダメよ、ここはこばまないと。でも…
その時だった。
「取り込み中失礼いたします。ソラ様がお見えになられました」
「今日はソラ嬢が来る日だったね。それじゃあ僕は帰るよ。ソフィーナ、今日は見苦しい姿を見せてしまってすまなかった。それじゃあ、また明日」
「お待ちください、馬車のところまでお見送りいたしますわ」
散々私に詰め寄っていたのに、あまりにも潔く帰って来るファラオ様の後を、必死に追った。私、どうしてこんなに必死になっているのかしら?
「僕を見送ってくれるのかい?ソフィーナは優しいね。ありがとう、でも、ソラ嬢が待っているよ。もう行ってあげな」
「でも…」
「また明日、元気な顔を見せて。それじゃあまたね」
いつも通りの笑顔なのだが、なんだか寂しそうな顔をしているのはなぜだろう…それにこの気持ちは一体…
~あとがき~
ソフィーナと別れた後のファラオ
「やってしまった…いくらソフィーナが好きだからって、あんなに嫉妬むき出しにするだなんて。きっとソフィーナ、引いてしまっただろうな…それに頬とはいえ、口づけまでしてしまった」
かなり落ち込むファラオ。そんなファラオに、執事が大量の資料を持って現れた。
「殿下、公務が溜まっております。落ち込んでいないで、さっさと片づけて下さい」
「君は鬼か!僕は今、こんなに落ち込んでいるのに。もし僕がソフィーナに嫌われたら、どうしてくれるんだ」
「それは殿下の日ごろの行いが悪いのでしょう。さすがにあのように嫉妬むき出しは、非常にみっともないかと」
こいつ、その通りとはいえズケズケと心無い事を…
「大丈夫ですよ。ソフィーナ様はお優しいので。明日にはきっとけろっとした顔で、王宮に来てくださるでしょう。明日もソフィーナ様と過ごしたいのでしたら、この書類を今日中に片づけて下さい」
ドカリと机の上に大量の書類を置く執事。
「そうだよね、ソフィーナは優しいから、きっと許してくれるよね。ソフィーナの為に、僕も頑張らないと」
とはいえ、やはりおのれの醜い嫉妬心を露わにした事を気にして、この日はずっと悩み続ける羽目になるのだった。




